◇SH0980◇ベトナム:労働許可書に関する新しい通達(1) 中川幹久(2017/01/25)

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ベトナム:労働許可書に関する新しい通達 (1)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 中 川 幹 久

 

 労働許可書について定めた新しい通達(通達第40/2016/TT-BLDTBXH号。以下「通達40号」)が2016年10月25日付けで成立し、同年12月12日に施行された。労働許可書については、政令第11/2016/ND-CP号(以下「政令11号」)が同年4月1日に施行されているが、施行から半年以上にわたり政令11号の施行細則は出されず、様々な点で政令11号の運用には不明確な点が存在した。通達40号は、政令11号の施行細則として、こうした不明確な点について明確にすることが期待されていたが、以下に述べるとおり必ずしも期待に応えられていない部分も少なくないように思われる。本稿では、実務にも相応の影響があると思われる点をいくつかご紹介したい。

 

1. 労働許可書の更新時における証明要件の緩和

 労働法上、労働許可書を取得できるのは、専門家、(一定の範囲の)管理職、技術者に限られ、それぞれの概念について満たすべき基準が政令等で規定されている。このうちの「専門家」については、2014年7月に出された決議47/NQ-CPに基づき、「修学による専門性要件を満たすこと『又は』専攻分野での5年以上の実務経験のいずれかを満たせばよい」とされていた。しかし、政令11号では、この「専門家」として認められるための要件について、①国外の機関・組織・企業体が専門家であることを証する証明書を有すること、又は、②学士以上の学位があり『かつ』専攻分野で3年以上の実務経験があること、としている。②の要件だけみれば、実務経験年数が5年から3年に短縮された一方で、修学による専門性要件と実務経験年数要件の両方が求められ、事実上要件が厳格化されたため、これを満たさない場合、①の要件を満たすことによる「専門家」としての認定が問題になっていた。しかし、多くの管轄当局は、①の証明書を発行する「国外の機関・組織・企業体」は、外国の公的な機関であることが必要との立場をとっており、(駐在員を派遣する日本の親会社などの)民間企業が発行した証明書は、①の証明書としては認めないことが多いものと認識している。そのため、政令11号の施行細則では、この①の証明書を発行する「国外の機関・組織・企業体」に外国の民間企業も含まれることが明確にされることが期待されていた。

 しかしながら、通達40号は、この①の証明書に記載すべき必要的事項は列挙しているものの(具体的には、証明書の発行体の名称、専門家として証明する者の氏名、生年月日、国籍、ベトナムで就労することとなる職種に係る専門性の内容等。第6.2条(a))、この証明書を発行する「国外の機関・組織・企業体」に外国の民間企業も含まれるのか否かについては必ずしも明確に規定しておらず、残念ながら同通達の明文上は、上記問題は解消していないように思われる。同様の問題は、「技術者」として認められるための要件を証明するための証明書の発行主体についても存在するが、通達40号は、同様にかかる発行主体に民間企業が含まれるのか否かについても明確に規定していない。

 もっとも、2016年度のホーチミン市人民委員会とホーチミン日本商工会とのラウンドテーブルに先立つ同年10月26日開催のプレラウンドテーブルにおいて、ホーチミン日本商工会を代表して上記問題点を取り上げたところ、ホーチミン市労働傷病兵局の担当者は、「国外の機関・組織・企業体」に民間企業たる日本の親会社も含まれることを認めている。通達40号の規定が必ずしも明確ではない中で、かかる担当者の発言どおりに今後実務が運用されていくのかその動向を注視したい。

 なお、通達40号では、専門家及び技術者に対して旧政令(政令第102/2013/ND-CP号)の下で発行された期限満了前の既存の労働許可書は、その後の労働許可書の再発行・更新手続きにおいて、当該外国人労働者が専門家又は技術者として認められるための要件(具体的には、政令11号の第3.3条又は第3.5条に定める要件)を満たすことの証明書となる旨が規定されている(通達40号の18.3条)。すでに述べた通り、政令11号の施行に伴い、「専門家」として認められるための要件は事実上厳格化された傾向があるため、旧政令の下で発行された既存の労働許可書の存在自体が政令11号の下での「専門家」として認められるための要件を充足していることの証明書として使用できることは、事実上、要件の厳格化に伴って労働許可書の更新が認められなくなってしまうことに対する救済措置を図っているものと解することができる。

(2)につづく

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