◇SH1078◇最三小判 平成29年1月24日 クロレラチラシ配布差止等請求事件(山崎敏充裁判長)

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 本件は、消費者契約法(以下「法」という。)2条4項の適格消費者団体であるXが、健康食品の小売販売を営むYに対し、Yが自己の商品の原料の効用等を記載した新聞折込チラシ(以下「本件チラシ」という。)を配布することが、消費者契約の締結について勧誘をするに際し、いわゆる不実告知(法4条1項1号)を行うことに当たると主張して、法12条1項及び2項に基づき、新聞折込チラシに上記の記載をすることの差止め等を求めた事案である。本件チラシの配布が法12条1項及び2項にいう「勧誘」に当たるか否かが争われた。

 

 事実関係等の概要は、次のとおりである。

 (1) Yは、昭和48年から、単細胞の緑藻類であるクロレラを原料にした健康食品を販売している。

 (2) Yは、平成25年8月、クロレラには免疫力を整え細胞の働きを活発にするなどの効用がある旨の記載や、クロレラの摂取により高血圧、腰痛、糖尿病等の様々な疾病が快復した旨の体験談などの記載がある本件チラシを、京都市内で配達された新聞に折り込んで配布した。

 (3) 本件チラシは、平成27年1月22日以降、配布されていないところ、Yは、同年6月29日以降、上記(2)の記載がないチラシを配布している上、今後も本件チラシの配布を一切行わないことを明言しており、Yが本件チラシを配布するおそれがあるとはいえない。

 

 原審は、法12条1項及び2項にいう「勧誘」には不特定多数の消費者に向けて行う働きかけは含まれないところ、本件チラシの配布は新聞を購読する不特定多数の消費者に向けて行う働きかけであるから、上記の「勧誘」に当たるとは認められないと判断して、Xの上記各項に基づく請求を棄却した。

 これに対し、Xが上告受理申立てをしたところ、最高裁第三小法廷は、本件を上告審として受理した上、判決要旨記載のとおり判示して、「勧誘」に関する原審の上記判断には法令の解釈適用を誤った違法があるとしたが、前記2の事実関係等によれば、法12条1項及び2項にいう「現に行い又は行うおそれがある」とはいえないから、原審の判断は結論において是認することができるとして、原告の上告を棄却した。

 

 法12条1項及び2項の「勧誘」(法4条1項ないし3項の「勧誘」と同義と解されている。以下、単に「『勧誘』」ともいう。)については、法に定義規定はなく、解釈に委ねられている。そこで、まず、この点に関する立法当時及び立法後の議論の状況、裁判例、文言の意義及び用例について概観する。

 (1) 法は、平成12年に成立した法律であるが、その法案作成に至るまでの調査・審議及び国会の法案審議のいずれにおいても、「勧誘」の解釈を主たる論点として実質的な議論が行われた形跡はうかがわれない。しかし、法の成立後に刊行された立案担当者((当時)経済企画庁国民生活局消費者行政第一課、(現)消費者庁消費者制度課)の執筆による『逐条解説 消費者契約法』(平成12年初版発行。平成27年第2版補訂版発行)には、「勧誘」の解釈について、「特定の者に向けた勧誘方法は『勧誘』に含まれるが、不特定多数向けのもの等客観的にみて特定の消費者に働きかけ、個別の契約締結の意思の形成に直接に影響を与えているとは考えられない場合(例えば、広告、チラシの配布、商品の陳列(中略)等)は『勧誘』に含まれない。」などと記載された。そのため、「不特定多数向けのものは『勧誘』に含まれない。」とするのが所管官庁の解釈であると一般に理解されるようになったが、上記の解釈に対しては、学者から、不特定多数向けのものであっても「勧誘」に当たる場合がある旨の批判が相次いだ(潮見佳男『消費者契約法・金融商品販売法と金融取引』(経済法令研究会、2001)34頁等)。

 その後、法の見直し等の検討の中で、「勧誘」についても、不特定多数向けの広告・チラシ等を一定の範囲で取消しの対象とすることについて検討・議論が重ねられ、平成27年12月にとりまとめられた消費者委員会消費者契約法専門調査会の報告書では、「勧誘」の要件の在り方について、「消費者の契約締結の意思の形成過程に瑕疵を生じさせたか否かが重要であり、その手段・方法は、必ずしも特定の者に向けたものでなければならないわけではないと考えられる。」とされ、当面の対応として、その旨を逐条解説に記載すること等とされた。

 (2) 不特定多数の消費者に向けた事業者の行為が「勧誘」に当たるか否かについて取り扱った最高裁判例はなく、この点について判断したと考えられる下級審裁判例として公刊物に掲載されたものも乏しく、仲裁センターのパンフレットの記載が「勧誘」に当たることを前提に同記載が一般人に誤認を生じさせるものとは認められないとして法4条1項1号に基づく取消請求を棄却した神戸簡判平成14・3・12(消費者法ニュース60号212頁)などがみられる程度である(広告等が「勧誘」に当たらないとした裁判例として高松高判平成24・11・27判時2176号33頁が挙げられることもあるが、同裁判例の広告等に関する判示は、そもそも傍論にすぎないものであり、また、その解釈についても見解が分かれている。)。

 (3) 勧誘という文言自体は、一般的には、特定の者に対して働きかけをする場合に限定されず、「すすめさそうこと」を広く指すものである(広辞苑第6版、大辞林第2版等)。そして、勧誘という文言が個別の法令で用いられている場合について、具体的な用例を比較してみると、各法令で想定されている勧誘の解釈は一律ではなく、当該法令において個々の規律の対象として想定されている行為との関係で定まってくるものと理解することができる。法における「勧誘」についてみると、その文言が用いられている規定(法4条1項等)の規律の対象として想定されている行為(不実告知、断定的判断の提供等)の内容に照らすと、必ずしも特定の消費者に対する働きかけに限定されるべきことにはならないものと考えられる。

 

 以上のような立法当時及び立法後の議論の状況、文言の意義及び個別の法令における用例等を踏まえれば、「勧誘」について、特定の者に対する行為に限定すべき必然性はないものと考えられる。

 そもそも、法は、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差に鑑み、消費者の利益の擁護を図ること等を目的として(1条)、事業者等が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、消費者の意思形成に不当な影響を与える一定の行為をしたことにより、消費者が誤認するなどして消費者契約の申込み又は承諾の意思表示をした場合には、当該消費者はこれを取り消すことができることとし(4条1項から3項まで、5条)、さらに、一定の要件の下で適格消費者団体が事業者等に対し上記行為の差止め等を求めることができることとするものである(12条1項及び2項)。そして、事業者等が不特定多数の消費者に向けて働きかけを行う場合についてみると、例えば、事業者が、その記載内容全体から判断して消費者が当該事業者の商品等の内容や取引条件その他これらの取引に関する事項を具体的に認識し得るような新聞広告により働きかけを行うときは、その働きかけが個別の消費者の意思形成に直接に影響を与え、これにより当該消費者が誤認するなどして消費者契約を締結することもあると考えられるから、事業者等が不特定多数の消費者に向けて働きかけを行う場合を「勧誘」に当たらないとして法の適用対象から一律に除外することは、上記の法の趣旨目的に照らし相当とはいえないものと考えられる。

 本判決は、以上のような「勧誘」をめぐる議論の経緯や文言の意義等を前提に、法の趣旨目的を踏まえて、不特定多数の消費者に向けられた働きかけであったとしても、そのことから直ちに「勧誘」に当たらないということはできないと判断したものと解される。なお、本判決は、事業者等が不特定多数の消費者に向けて行う働きかけのうち、どのような働きかけであれば「勧誘」に当たると認められるかについては具体的に判断しておらず、この点は、今後の事例の集積を待つことになると考えられる。

 

 本判決は、法12条1項及び2項の「勧誘」について最高裁が初めて判断を示したものであり、この「勧誘」については、法の見直しに関して今後引き続き検討が行われるべき論点の1つとされていることも踏まえると、理論的にも実務的にも重要な意義を有するものといえる。

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