実学・企業法務(第34回)
第2章 仕事の仕組みと法律業務
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
Ⅰ 事業運営に必要な基本機能
企業の業務には、(1)商品(機器・部品・素材等のハードと、役務・コンテンツ等のソフトを含む。以下、本項で「商品」という。)を顧客に提供する過程で商品を直接取り扱う「直接業務」と、(2)この「直接業務」に企業の資産(人・金・物・情報)を最も効果的かつ効率的に投入して活用する機能を果たす「間接業務」がある。「直接業務」はライン業務といわれることが多く、人の体に例えると骨や肉にあたる。「間接業務」はスタッフ業務ともいわれ、骨・肉を動かすのに必要な神経・血液に似た働きをする。
企業では、「直接業務」と「間接業務」を織物の縦糸と横糸のように組み合わせて組織編成し、組織の運営ルールを定めて、企業価値を最大にするための事業運営を行う。
ところが、実際には、組織や運営ルールの制定時には想定外であった事態が発生することがあり、それに対する(3)リスク・マネジメントの重要性の認識が高まっている。リスク・マネジメントの具体的なテーマは、企業の経営状況や市場環境によって異なる。
なお、経営効率の観点から、直接業務や間接業務の一部又は全部を社外に委託して[1]、社内では自社が最も重視する機能に特化する企業も存在する。
以下に、まず、(1) 直接業務、(2) 間接業務、(3) リスク・マネジメントの概要、及び(4) 事業責任者が担う役割を記して企業経営の全体像を把握した上で、直接業務と間接業務について詳しく学ぶ。
(1) 直接業務(通称、ライン業務)
商品の仕様決定・製造・販売の業務の一部を直接担当する部門を総称して直接部門(又はライン部門)という。メーカーの直接業務は、通常、①商品企画、②開発・設計、③製造(製造・調達・品質管理)、④販売・サービス提供、⑤代金回収の5機能で構成される。
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(注) サービスやソフトを提供する企業においてもメーカーの「③製造」に該当する業務訓練・ソフトウェア開発・映像制作等の機能が存在する。
なお、技術の基礎研究は長期にわたり、日常の商品設計等には関わらないことが多いが、本項では技術開発の一部として「開発・設計」に含めている。
〔直接業務の特徴〕
次に、直接業務(ライン業務)の各機能の担当部署名を( )内に例示し、それぞれの特徴的な業務を列挙する。
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① 商品企画(商品企画課)
商品コンセプト作り、ターゲットにする客層と商品のマッチングを検討 -
② 設計(技術課、設計課、デザイン課)
デザイン、開発、仕様決定、設計図作成、商品の取扱い説明書原案作成
(注) 映像における脚本・音楽等を含む。 -
③ 製造(工場、購買課、商品課、生産技術課、品質管理課、原動課)
工場(部品・材料調達、外注管理、材料倉庫、製品製造、機械装置の調達・製作・稼働、出荷検査、品質管理、電力・危険物等の管理、廃棄物処理)、商品仕入、取引先(外注先・商品仕入先)の選定・育成
(注) 映像における制作・キャラクターの商品化等を含む。 -
④ 販売(完成品倉庫、営業所)
市場調査、マーケティング、広告・宣伝、セールス、販売チャンネル構築 -
⑤ 代金回収(営業所、経理課)
与信管理、担保設定、債権回収(販売先破産手続きの場合は配当)