◇SH1108◇日本企業のための国際仲裁対策(第33回) 関戸 麦(2017/04/13)

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日本企業のための国際仲裁対策

森・濱田松本法律事務所

弁護士(日本及びニューヨーク州)

関 戸   麦

 

第33回 国際仲裁手続の中盤における留意点(8)-ディスカバリーその3

5. ディスカバリー手続の流れ 

(1) Redfern Scheduleを用いた手続の流れ

 国際仲裁におけるディスカバリーは、通常、相手方当事者から文書等の証拠提出を求めるというものである。この手続においては、実務上、次のような書式(「Redfern Schedule」と呼ばれている)を用いることが一般的である。なお、本稿では便宜上日本語で作成しているが、仲裁手続の言語が英語であれば、当然英語で作成されることになる。

 

  文書の表示 関連性及び重要性 被申立人の返答 申立人の反論 仲裁廷の判断

1

本件商品の仕様書

本件商品の瑕疵の有無を判断する上で、関連性及び重要性がある。

提出に応じる。

2

2016年1月22日試験記録

本件商品の安全性について試験をしたものであり、その瑕疵の有無を判断する上で、関連性及び重要性がある。

関連性及び重要性が認められない。本件の争点とは異なる観点での実験である。

安全性に関する全般的な試験である以上、本件の争いに関連する。

被申立人に提出を命じる。

3

A社との交信記録一式

本件商品の共同開発者であるA社との交信内容は、本件商品の瑕疵の有無を判断する上で、関連性及び重要性がある。

関連性及び重要性が認められない。過度な負担である。

A社との交信内容は、他の証拠では代替できない価値がある。

被申立人の異議を認める。

(以下略)

 

 具体的な手続の流れであるが、4つの段階がある。

 第一段階は、文書等の提出を要求する当事者が、左側二つの欄(「文書の表示」の欄及び「関連性及び重要性」の欄)に記載の上、仲裁廷及び相手方当事者に送付するというものである。文書等の提出を要求する当事者は、申立人のこともあれば、被申立人のこともあり、また、申立人及び被申立人双方からそれぞれ相手方に対し、文書等の提出が要求されることもある。なお、上記の書式例は、申立人から、被申立人が所持する文書の提出が求められた場面のものである。被申立人から、申立人が所持する文書の提出が求められた場合には、上記の書式例における「申立人」と「被申立人」の記載が入れ替われることになる。

 第二段階では、相手方当事者(文書等の提出要求を受ける当事者)が、左から三番目の欄(上記の書式例では「被申立人の返答」の欄)に記載の上、仲裁廷と、文書等の提出を要求する当事者に送付する。第二段階でポイントとなるのは、相手方当事者が、文書等の提出要求に対して異議を唱えて争うのか、あるいは、争わずに任意に文書等を提出するかの判断である。国際仲裁手続において文書等の提出要求を受けた場合、常に争うのではなく、合理的な要求に対しては争わずに任意に提出することが一般的である。

 相手方当事者が争わない場合、左から三番目の欄に、任意に提出する旨を記載することになる。当該文書等については、第三段階に進まずにここで決着となる。

 一方、相手方当事者が異議を述べて争う場合には、左から三番目の欄に、異議の理由を記載する。異議の理由となるのは、前回(第32回)述べたIBA証拠規則(IBA Rules on the Taking of Evidence in International Arbitration)[1]第9章2項に列記された事項である。例えば、当該仲裁事件との十分な関連性の欠如、当該仲裁事件の結果にとっての重要性の欠如、証拠の提出要求に応じることが不合理な負担となるときといったものが、異議の理由となる。また、提出が求められた文書等をそもそも所持していない場合には、それも異議の理由となる。

 このようにして左から三番目の欄を記載したものを、相手方当事者は、仲裁廷と文書提出を要求する当事者に送付する。

 第三段階は、文書等の提出を要求する当事者の反論である。左側から四番目の欄(上記の書式例では「申立人の反論」の欄)に、相手方当事者が述べた異議に対する反論を記載の上、これを仲裁廷と相手方当事者に送付する。

 第四段階は、仲裁廷による判断である。この判断は、相手方当事者の異議を認めて提出要求を排斥するか、あるいは、相手方当事者の異議を認めずに提出要求を認めるかのいずれかである。仲裁廷は、この判断の結論を、一番右の欄(「仲裁人の判断」の欄)に記載する。併せて、判断の理由を記載することもある。仲裁廷は、これらの記載をしたものを、当事者双方に送付する。

 なお、以上の4つの段階の手続、すなわちRedfern Scheduleに従った手続は、IBA証拠規則に定められた手続である(第3章3項、4項、5項)。

(2) インカメラ手続

 文書の提出要求に対する判断をするために、対象となっている文書そのものを見ることが必要な場面が考えられる。日本の民事訴訟においても、文書提出命令申立について、裁判所が対象となっている文書を検討する手続が定められており(民事訴訟法223条6項)、インカメラ手続と呼ばれている。

 但し、仲裁廷が対象となっている文書を見る場合、それによって心証を形成してしまうことが懸念される。本来異議に正当性があり、提出要求が認められるべきではない文書である可能性も考えると、かかる文書が仲裁廷の心証に影響を及ぼす事態は避けるべきである。そこで、IBA証拠規則は、対象となっている文書を検討しなければ異議の正当性が判断できないときは、仲裁廷が、当事者と協議の上、独立かつ公平な専門家を選任し、その専門家に、対象となっている文書を検討させ、異議の正当性について報告を求めることができるとされている(第3章8項)。すなわち、仲裁廷自身は対象となっている文書を見ることなく、文書の提出要求の異議に対する判断を行える仕組みである。

(3) 文書等の提出を行う場合

 文書等の提出を行う場合、対象となる文書等を、文書等の提出を要求した当事者にのみ提出し、仲裁廷には提出しないというのが基本的な形である。この中から文書等の提出を要求した当事者が、証拠として仲裁廷に提出するものを取捨選択することになる。換言すれば、文書等の提出の対象になったものが、全て証拠として仲裁廷に提出される訳ではなく、その中で改めて選択されたもののみが、証拠として仲裁廷に提出されることになる。

 但し、仲裁廷からの命令があれば、対象となる文書等は、文書等の提出を要求した当事者のみならず、仲裁廷に対しても提出することになる(IBA証拠規則第3章4項及び7項)。

 また、仲裁手続の言語以外で作成された文書については、翻訳の要否が問題となるが、基本的な形は、文書等を提出する当事者は翻訳を付さずに対象となる文書を提出し、文書等の提出を要求した当事者が、証拠として仲裁廷に提出する際に、翻訳を作成するというものである。

なお、提出の期限は、仲裁廷の命令によって定められる。

以 上



[1] IBAのホームページで入手可能である。ここでは、英文のみならず、日本仲裁人協会が作成した和訳も入手可能である。
  http://www.ibanet.org/Publications/publications_IBA_guides_and_free_materials.aspx

 

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