◇SH1121◇実学・企業法務(第41回) 齋藤憲道(2017/04/20)

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実学・企業法務(第41回)

第2章 仕事の仕組みと法律業務

同志社大学法学部

企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

2. 開発・デザイン・設計

(3) 適正な商品・サービスの設計

a. 適切な表示
 商品に関する必要で適切な情報を、消費者・使用者に提供することを目的として、食品・日用雑貨・耐久消費財・その他多くの分野で法令が定められている。法令は社会の要請に応じてしばしば変更されるので、企業はそのときどきの最新法令を確認し、それに準拠しなければならない。

 以下に、日本の表示規制法を例示する。

  1. ⑴ 表示に関する一般法である景品表示法[1]は、①内容についての不当表示(優良誤認)、②取引条件についての不当表示(有利誤認)、③商品・役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されると認めて公正取引委員会が指定する表示[2]、を禁じている。同法に基づく「商品の原産国に関する不当な表示[3]」は、その商品の内容について実質的な変更をもたらす行為が行われた国が原産国であると定義し、例えば、水産物を2ヶ所以上で飼養した場合は、最も飼養期間の長い場所(最長の飼養地)を原産地とする[4]
  2. ⑵ 商品の品質・成分・特性・基準適合等の表示を義務付ける法令として、食品表示法[5](JAS法[6]・食品衛生法[7]・健康増進法の3法の食品表示規制が一元化された)・家庭用品品質表示法[8]・消防法施行規則[9]・住宅品質確保法[10]等がある。
  3. ⑶ 消費生活用製品安全法・液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律(略称:液石法)・ガス事業法・電気用品安全法に定める規制対象製品の製造又は輸入を行う事業者は、これらの製品が「技術基準[11]」に適合していることを確認し、販売する製品に所定の表示[12]を付す義務を負う。
  4. ⑷ 医薬品医療機器等法[13]は、医薬品・医薬部外品・化粧品・医療用具について製造業者・輸入販売業者、名称、製造番号又は製造記号、重量等の内容量、有効成分の名称・分量、使用期限[14]、用法・用量・使用上の注意、その他の事項を詳細に表示することを義務付けている。
  5. ⑸ 食品の「消費期限」「賞味期限」、医薬品の「使用期限[15]」、特定の電気製品に関する「長期使用製品安全表示制度[16]の標準使用期間」等は、商品を安全に使用・飲食できる期限を表示することを法令で義務付け、消費者にその期間を超えて飲食・使用等して事故を招くことがないように注意している。

b. 警告表示
 製品は、生命・身体・財産を一切侵害しないよう安全に設計・製造されるのが理想だが、製品に内在する製品開発時点の技術等で対応できない人身危害・財産損害のリスクが残ることがあり、それを、想定される使用者や一般人が誤解なく理解して危険回避行動をとるように導くために警告表示を行う。この表示は、製品本体・取扱説明書・カタログ・梱包材等に一定の基準[17]に従って行い、リスクのレベルは危険・警告・注意等に分けられる。

 製造物責任法では、消費者が製品の使用方法・危険性を正しく理解しない場合は、指示・警告の欠陥があるとされ、製造業者・輸入業者が損害賠償責任を負う。

  1. (参考)ピクトグラム(Pictogram 図記号、絵文字)
     日本では、1964年の東京オリンピックの時と、1994年の製造物責任法制定の時に、ピクトグラムが普及した。1964年オリンピックの東京開催がIOC総会で決定した1959年に日本に入国した外国人は約12万人[18]で、日本人の大半は外国人に接したことがなく、英語等の外国語も分からない。そこで、施設(トイレ、食堂等)や競技(競技場、競技種目)の図記号が制作・使用されて大いに役立った。
     また、1994年前後から、使用者に注意喚起するための警告表示マークを製品自体や取扱説明書に表示して「警告の欠陥」を取り除こうとする動きがメーカーの間に広がった。
     現在、図記号・絵文字は、警告や道路標識等に広く展開されている。

c. 取扱説明書
 取扱説明書は、使用者に製品を正しく安全に使用するための方法を伝える手段として一般的に用いられる。

 商品・サービスに関する情報を伝達する手段には、文章・単語・標識・図記号又はイラストの使用・聴覚もしくは視覚に訴える情報の使用、又は、これらの組み合わせがある。情報は、製品自体又は包装に表示もしくは添付される。添付される情報の媒体例には、取扱説明書・使用説明書・音声又は画像データのデジタル化情報がある[19]

 なお、取扱説明書への記載は、設計上の欠陥を必ずしも十分に補うものではない。

 近時の取扱説明書には、文字数が多く、字が小さいものも多い。メーカーには、消費者が取扱説明書に記載された警告等をどれだけ理解して商品を使用しているのかを日頃から確認し、必要に応じて伝達方法を改善することが望まれる。



[1] 不当景品類及び不当表示防止法。4条1号、2号、3号参照。

[2] 無果汁の清涼飲料水等についての表示、商品の原産国に関する不当な表示、消費者信用の融資費用に関する不当な表示、不動産のおとり広告に関する表示、おとり広告に関する表示、等が指定されている。

[3] 景品表示法第4条第1項第3号の規定に基づく昭和48年10月16日公正取引委員会告示第34号。同運用基準では、和文によるフランスパン・ボストンバッグ・ホンコンシャツ等は一般名称とされ、原産国が外国であることを示すものでないことが明らかな表示であるとする。

[4] 「商品の原産国に関する不当な表示」の原産国の定義に関する運用細則で規定する。

[5] 2013年6月28日制定

[6] 農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律の通称。一般的に適用される品質表示基準(生鮮食品、加工食品、遺伝子組み換え食品)、個別の生鮮食品に係る品質表示基準(玄米及び精米、水産物、しいたけ)、個別の加工食品に係る品質表示基準(食料缶詰及び食料瓶詰、飲料、食肉製品及び魚肉ねり製品、他)、個別の加工食品で原料原産地表示が義務づけられているものの品質表示基準(野菜冷凍食品、農産物漬物、うなぎ加工品、削りぶし)等

[7] 食品衛生法施行規則、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令

[8] 繊維製品品質表示規程、合成樹脂加工品品質表示規程、電気機械器具品質表示規程、雑貨工業品品質表示規程、洗濯表示(JISでテスト法を規定)等

[9] 誘導灯及び誘導標識の基準

[10] 住宅の品質確保の促進等に関する法律の通称。日本住宅性能表示基準等

[11] 電気用品の技術上の基準を定める省令(経済産業省)が改正され、電気用品安全法の技術基準が、それまでの「仕様規定」から「性能規定」に変更された。2013年7月1日公布(2014年1月1日施行)

[12] 消費生活用製品安全法のPSCマーク、液石法のPSLPGマーク、ガス事業法のPSTGマーク、電気用品安全法のPSEマーク。

[13] 2014年6月13日に薬事法を改正と同時に「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(略称、医薬品医療機器等法)に改題。関係する法令として、医薬品等適正広告基準。

[14] 医薬品医療機器等法で、医薬品(50条10号)、医薬部外品(59条7号)、化粧品(61条5号)、医療機器(63条7号)を定める。

[15] 「薬事法第50条第12号等の規定に基づき使用の期限を記載しなければならない医薬品等」(昭和55年9月26日厚生省告示第166号)。この他に、企業が自主的に表示するケースが多い。

[16] 電気用品安全法の技術基準省令により2009年4月に施行された制度。扇風機・エアコン・換気扇・洗濯機(洗濯乾燥機を除く)・ブラウン管テレビ の5品目を対象とする。製品に、①製造年、②設計上の標準使用期間「○○年」 、③「設計上の標準使用期間を超えて使用すると、経年劣化による発火・けが等の事故に至るおそれがある」旨の説明、を表示することを義務付ける。違反行為に対しては、勧告・公表・命令・罰則等の措置を取る。

[17] 例えば、消費者用警告図記号(JIS S 0101)、ISO 7010(Graphical symbols-Safety colours and safety signs-Resistered safety signs)

[18] 法務省入国管理局「出入国管理統計」

[19] 以上、取扱説明書について、JIS S 0137(消費生活用製品の取扱説明書に関する指針)より引用。なお、ISO/IEC Guide37( Instructions for use of products ofconsumer interest)、ISO/IEC Guide51参照。

 

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