◇SH1152◇日本企業のための国際仲裁対策(第36回) 関戸 麦(2017/05/11)

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日本企業のための国際仲裁対策

森・濱田松本法律事務所

弁護士(日本及びニューヨーク州)

関 戸   麦

 

第36回 国際仲裁手続の中盤における留意点(11)-ディスカバリーその6

10. 仲裁地の裁判所を通じた証拠収集・証拠調べ

(1) 概要

 国際仲裁におけるディスカバリーの多くは、第31回から前回(3132333435)にかけて述べた、仲裁手続の枠内で、仲裁廷のもとで行われるものである。但しこのディスカバリーは、前回の9項で述べたとおり、仲裁手続の当事者ではない第三者に対しては、強制力を持たない。そこで意味を持つのが、裁判所を通じた、第三者に対しても強制力を持つ証拠収集・証拠調べである。

 国際仲裁手続のために証拠収集・証拠調べを行う可能性がある裁判所は、仲裁地の裁判所である。その可否、要件、手続等は、仲裁地の仲裁法規によって定まる。

 仲裁法規に関しては、UNCITRAL(国際連合国際商取引法委員会)がいわゆるモデル法[1]を作成しており、各国の立法の参考にされている。このモデル法の27条は、「仲裁廷又は仲裁廷の許可を得た当事者は、この国の権限のある裁判所に対し、証拠調べのための援助を申し立てることができる。裁判所は、その権限内で、かつ証拠調べに関する規則に従い、申立を実施することができる」と定めている。

 日本の仲裁法は、このモデル法を踏まえた立法であるところ、その35条が、日本の裁判所により実施する証拠収集・証拠調べについて定めている。そこで可能とされているのは、次の証拠収集・証拠調べである(同条1項本文)。

  1. •  調査嘱託(民事訴訟法186条)
  2. •  証人尋問(同法190条から206条)
  3. •  鑑定(同法212条から217条)
  4. •  鑑定嘱託(同法218条)
  5. •  文書提出命令(同法220条から225条、227条)
  6. •  文書送付嘱託(同法226条及び227条)
  7. •  検証(同法232条及び233条)

 以下、その要件、手続と、違反に対する制裁について解説する。

 なお、日本の仲裁法35条に基づく手続が必要とされるのは、上記のとおり基本的には、第三者から証拠を得る場合と考えられるが、仲裁手続の当事者から証拠を得る場面でも、日本の仲裁法35条の手続を用いることは可能である[2]

(2) 要件

 まず前提として、日本の仲裁法35条に基づき日本の裁判所における証拠収集・証拠調べを行うためには、上記のとおり、国際仲裁手続の仲裁地が日本でなければならない(仲裁法1条参照)。

 また、仲裁廷が必要と認めたものであることが必要である(仲裁法35条1項本文)。

 申立権者も、仲裁廷か、あるいは申立について仲裁廷から同意を得た仲裁手続の当事者である(仲裁法35条1項本文、2項)。このように日本の仲裁法35条に基づく手続は、仲裁廷が認めない限り進めることができない。

 次に、申立の対象となる証拠収集・証拠調べについて、民事訴訟法の要件を満たす必要がある。例えば、文書提出命令を申し立てる場合には、文書所持者の提出義務(民事訴訟法220条)が認められることが必要である。

 但し、民事訴訟法の要件のうち、証拠調べの必要性の要件は、上記の「仲裁廷が必要と認めたもの」という要件によって充足されるものであり、日本の裁判所が別途判断するものではない。

 なお、当事者間に、日本の仲裁法35条に基づく手続の実施を求める申立をしない合意がある場合には、申立は認められない(同条1項但書)。

(3) 手続

 申立人である仲裁廷又は仲裁手続の当事者が、日本の裁判所に申立書を提出することによって、手続が始まる。管轄する裁判所は、次の地を管轄する地方裁判所である。

  1. •  尋問を受けるべき者又は文書を所持する者の住所・居所
  2. •  検証の目的物の所在地
  3. •  仲裁地が日本の都市名で特定されている場合等、一つの地方裁判所の管轄区域のみに属する地域が仲裁地とされている場合には、当該仲裁地
  4. •  申立人又は被申立人の普通裁判籍(住所等)の所在地(但し、上記の管轄がいずれも認められない場合に限って、補充的に認められる管轄である)。

 裁判所は、申立につき前記(2)の要件が満たされるか否かを審理する。要件が満たされると判断すれば、当該証拠収集・証拠調べを実施する旨の決定をすることになる。他方、要件が満たされないと判断すれば、申立却下決定をする。

 これらの決定に対しては、高等裁判所への上訴(即時抗告)をすることができる(仲裁法35条4項)。

 申立を認め、証拠収集・証拠調べを実施する旨の決定が確定すると、申立を受理した地方裁判所が、当該証拠収集・証拠調べを実施する。この実施手続について、仲裁法35条5項は、「仲裁廷は、文書を閲読し、検証の目的を検証し、又は裁判長の許可を得て証人若しくは鑑定人に対して質問をすることができる」と定めている。その趣旨は、仲裁判断をする仲裁廷ないし仲裁人に、証拠調べに直接参加し、心証を形成する機会を与えることにある。

 この実施手続は、民事訴訟法の規定に従って行われるため、訴訟指揮権は裁判長にあるが(民事訴訟法148条)、実際上、補充質問等において事案解明のリードをとるのは、仲裁廷ないし仲裁人になると思われる[3]

 なお、仲裁法35条に基づく上記の手続は、日本の裁判所における手続であるため、仲裁手続の言語がいかなる言語と定められていても、日本語で行われる(裁判所法74条)。

 また、国際仲裁手続の代理人弁護士には、第1回で述べたとおり、仲裁地が日本であっても、外国弁護士による法律事務の取扱いに関する特別措置法58条の2 本文の定めにより、日本の弁護士以外がつくことができるが、仲裁法35条に基づく上記の手続にはこの定めが適用されないため、代理人弁護士となれるのは日本の弁護士に限られる。

(4) 違反に対する制裁

 仲裁法35条に基づく証拠収集・証拠調べ手続は、民事訴訟法に基づき行われるため、違反に対する制裁も、民事訴訟法に基づき課されうる。例えば、正当な理由なく出頭しない証人に対する訴訟費用の負担と過料(同法192条1項)、第三者が文書提出命令に従わない場合の過料(同法225条1項)が考えられる。これらは、当該手続を担当する裁判所が、決定によって課すものである。

 当事者が文書提出命令に従わない場合について、民事訴訟法224条1項は、「当事者が文書提出命令に従わないときは、裁判所は、当該文書の記載に関する相手方の主張を真実と認めることができる」と定めている。この規定の適用を、仲裁法35条は明示的には排除していないが、当該主張が真実であるか否かを判断するのは、本来仲裁判断を行う仲裁廷であり、仲裁法35条に基づく手続を担当する裁判所ではない。したがって、かかる裁判所が、民事訴訟法224条1項によって「相手方の主張を真実と認める」ことは、基本的には適切ではないと思われる。

 なお、仲裁廷は、前回の8項で述べたとおり、仲裁手続の枠内で、文書提出要求に従わない当事者に対し、民事訴訟法224条1項と同様の制裁を課すことが考えられる。すなわち、仲裁廷は「(提出されなかった)当該証拠が当該当事者にとって不利益なものであると推認することができる」。

以 上



[1] UNCITRALのホームページで参照可能である。
  http://www.uncitral.org/uncitral/en/uncitral_texts/arbitration/1985Model_arbitration.html
 なお、和訳は、首相官邸のホームページで参照可能である。
  http://www.kantei.go.jp/jp/sihouseido/kentoukai/tyuusai/dai1/1sankou3.html

[2] 但し、仲裁手続の当事者からの証拠収集・証拠調べのうち、当事者本人への尋問と、当事者が自ら提出する証拠書類や提示する物についての証拠調べは、対象から除外されている(仲裁法35条1項本文)。これらについては、日本の裁判所の関与を得なくても、仲裁廷において実施可能と考えられるからである。

[3] 近藤昌明ほか『仲裁法コンメンタール』(商事法務、2003年)192頁。なお、同書の著者は、仲裁法の立法担当者である。

 

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