中国民法総則 (2)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 川 合 正 倫
中国の民法総則が2017年3月15日の全国人民代表大会(我が国の国会に相当)において制定された。前稿において、民法総則の位置づけ、構成及び第一章の基本規定に関して記載したが、続編である本稿では、第二章(自然人)から第五章(民事権利)における特徴的な規定を紹介したい。
民事主体(第二章~第四章)
民事権利義務の主体は、自然人、法人、非法人組織とされている。
自然人に関する規定の中では、遺産相続、贈与等に関して「胎児」に権利能力が認められた点(第16条)、制限民事行為能力者の年齢が「10歳以上」から「8歳以上」に引き下げられ(第19条)未成年者の意思の尊重が図れている点が注目される。なお、成年年齢は民法通則における「18歳」が維持されている(第17条)。また、社会的弱者の保護を目的とする「監護」に関する規定が大幅に増加している点も特徴的である(第26条~第39条)。
法人に関しては、「営利法人」「非営利法人」「特別法人」の三形態に分類された点が重要である。
「営利法人」は、利益を取得し、これを株主等の出資に配分することを目的とする法人をいい、会社法上の有限責任会社や株式有限会社が含まれる(第76条)。
「非営利法人」は、公益目的その他非営利目的のために設立し、出資者等に利益を配分しない法人をいい、社会団体、社会サービス機構等が含まれる(第87条)。
「特別法人」は、機関法人、農村集団経済組織法人、合作経済組織、末端大衆自治組織法人(住民委員会、村民委員会)等の中国特有の法人をいう(第96条)。
非法人組織は、法人格を有しないが、法律に従い自己名義で民事活動に従事することができる組織をいい、個人独資企業、パートナーシップ企業等が含まれる(第102条)。また、非法人組織の出資者及び設立者は原則として無限責任を負うとされている(第104条)。なお、民法総則における非法人組織は登記をすることが義務付けられており(第103条)、いわゆる権利能力なき社団を対象としていない点に注意が必要である。
法定代表者が法人の責任者となるが、定款等における法定代表者の権限に対する制限は善意の相手方に対抗することができないとされた(第61条)。また、法人の状況と登記事項に不一致がある場合、登記事項と異なる内容を善意の相手方に対抗することができないとされている(第65条)。法人の不法行為に関して、法定代表者が職務上第三者に損害を与えたときは、第一次的には法人が責任を負うものの、過失のある法定代表者に対する求償権が規定されている(第62条)。
法人の組織再編に関しては、合併前の権利義務について合併後の法人が承継する旨に加え、分立(日本における「会社分割」)後の法人は、債権者及び債務者との間に別段の定めがあるときを除き、分立前の法人の権利義務につき連帯債権及び連帯債務を負担することが規定されている。これらの規定は会社法の規定と改めて確認したものといえよう。
民事権利(第五章)
自然人が享受する権利として、生命権、身体権、健康権、氏名権、肖像権、名誉権、栄誉権、プライバシー権、自主婚姻権、法人及び非法人組織が享受する権利として、名称権、名誉権、栄誉権が列挙されているが(第110条)、いわゆる「人格権」の概念は採用されていない。また、自然人の個人情報保護に関する権利が明確化されている(第111条)。個人情報保護に関する包括的な法律がない中国において、民法通則において個人情報保護に関する基本規定が制定された意義は小さくないと思われる。また、コンピュータ社会の発展を反映し、データ及びネットワークバーチャル財産の保護についても原則的な規定がなされている(第127条)。このほか、知的財産権の客体として、著作物、発明、実用新案、外観デザイン、商標、地理的表示、商業秘密、集積電子回路図デザイン、植物新品種が明示的に列挙されている(第123条)。「地理的表示」を知的財産権の対象としている点が特徴的である。上記に加え、不法行為、事務管理、不当利得等の基本的規定(第118条~第122条)、権利濫用の禁止に関する規定(第132条)も定められている。
続く