◇SH1215◇顧客本位の業務運営に関する原則の概要(第5回) 有吉尚哉(2017/06/07)

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顧客本位の業務運営に関する原則の概要(第5回)

西村あさひ法律事務所

弁護士 有 吉 尚 哉

 

5 個別の原則に関する実務対応

(5) 原則5:顧客への情報提供

【重要な情報の分かりやすい提供】

原則5.金融事業者は、顧客との情報の非対称性があることを踏まえ、上記原則4に示された事項のほか、金融商品・サービスの販売・推奨等に係る重要な情報を顧客が理解できるよう分かりやすく提供すべきである。

 原則5は、金融事業者に、金融商品・サービスの販売・推奨等に関して、顧客に対する情報提供を求める原則である。各業法では金融取引に際して個別具体的に業者の顧客に対する説明義務が定められているが、金融商品・サービスに関する情報を顧客に提供し、顧客がその内容を十分に理解することは、金融取引を行うための重要な前提であることから、本原則でも個別の原則の一つとして顧客に対する情報提供が掲げられたと考えられる。

 原則5では、提供が求められる情報は、「金融商品・サービスの販売・推奨等に係る重要な情報」である。この点、「金融商品の基本的な仕組みや特性については、当然に「重要な情報」に含まれる」とされているが[1]、提供すべき「重要な情報」の具体的な内容は、金融事業者のサービスごとに異なるものであり、各金融事業者が判断することが求められる。もっとも、この「重要な情報」の基準として、注1で以下の内容が含まれるべきとされていることが情報提供の具体的な内容を決めるに際しての参考となる。

  1.  • 顧客に対して販売・推奨等を行う金融商品・サービスの基本的な利益(リターン)、損失その他のリスク、取引条件
  2.  • 顧客に対して販売・推奨等を行う金融商品・サービスの選定理由(顧客のニーズ及び意向を踏まえたものであると判断する理由を含む)
  3.  • 顧客に販売・推奨等を行う金融商品・サービスについて、顧客との利益相反の可能性がある場合には、その具体的内容(第三者から受け取る手数料等を含む)及びこれが取引又は業務に及ぼす影響

 このうちの金融商品・サービスのリスクとの関係では、森金融庁長官が、日本証券アナリスト協会第8回国際セミナーにおいて、「毎月分配型の投信は、引き続き多く販売されていますが、毎月分配型では複利のメリットが享受できないことをお客様に理解してもらった上で投資判断していただくのが「顧客本位」ではないでしょうか。同様に、過去数年間、高い値上がり率を示している投信も人気ですが、こうした投信の販売にあたっては、高値掴みの危険性についても言及するのが「顧客本位」だと思います」と発言していることが参考となろう。

 また、原則5では、金融事業者が「顧客が理解できるよう分かりやすく」情報提供を行うことが求められている。そのため、形式的に書面を渡したり、読み上げたりするだけで一律に処理をするのではなく、顧客の知識・経験に合わせて、金融商品・サービスの内容を十分に理解してもらえるよう、情報提供の仕方を工夫することが必要である。情報提供の仕方については、(この部分についてはルールベース・アプローチとも言えるほどに)注記で詳細に記述されている。

 まず、注3・注4として、個別の顧客と金融商品・サービスの性質を踏まえた情報提供の必要性が述べられており、金融事業者は、顧客の取引経験や金融知識を考慮の上、明確、平易であって、誤解を招くことのない誠実な内容の情報提供を行うべきこと、また、販売・推奨等を行う金融商品・サービスの複雑さに見合った情報提供を、分かりやすく行うべきことが述べられている。金融商品・サービスの複雑さ・リスクの高さに応じてメリハリを付けることが適切であり、単純でリスクの低い商品の販売・推奨等を行う場合には簡潔な情報提供とし、複雑又はリスクの高い商品の販売・推奨等を行う場合には、リスクとリターンの関係など基本的な構造を含め、より丁寧な情報提供を工夫すべきであると明示されている。

 さらに、情報の重要性に応じてメリハリを付けることも必要とされており、注5として、情報を重要性に応じて区別し、より重要な情報については特に強調するなどして顧客の注意を促すとともに、顧客において同種の金融商品・サービスの内容と比較することが容易となるよう配慮すべきであるとされている。なお、この場合の「同種の金融商品」の例としては、同じ指数に連動するETFと公募投信があげられており、また、同種の金融商品・サービスについて、金融事業者が自社で取り扱っているか否かにかかわらず、顧客が内容を比較することが容易となるよう配慮すべきとされている[2]

(6) 原則6:顧客にふさわしいサービス

【顧客にふさわしいサービスの提供】

原則6.金融事業者は、顧客の資産状況、取引経験、知識及び取引目的・ニーズを把握し、当該顧客にふさわしい金融商品・サービスの組成、販売・推奨等を行うべきである。

 原則6は、金融事業者に、顧客の属性や取引目的の把握を求めた上で、顧客に適した金融商品・サービスの販売・推奨等を求めるものである。金融商品取引法などに定められる適合性の原則や、保険業法に基づく保険販売の場面での意向把握義務などの考え方を金融事業者による取引一般に敷衍するものと評価できる。

 情報提供に関する原則5と同様に原則6についても詳細な注記がある。まず、注2として、金融商品の組成に携わる金融事業者に対して、商品の特性を踏まえて、販売対象として想定する顧客属性を特定するとともに、商品の販売に携わる金融事業者においてそれに沿った販売がなされるよう留意すべきことを述べている。この場合の「顧客属性」とは、年齢や性別及び職業などによる区分の仕方があり得るとされている[3]。また、注3では、特に、複雑又はリスクの高い金融商品の販売・推奨等を行う場合や、金融取引被害を受けやすい属性の顧客グループ(一般には、取引経験や金融知識の少ない顧客が想定される[4])に対して商品の販売・推奨等を行う場合には、金融事業者が、商品や顧客の属性に応じ、当該商品の販売・推奨等が適当かより慎重に審査すべきであることを述べている。なお、年齢などの客観的な基準を用いるだけでなく、定性的な顧客のリスク許容度を加味した上で、当該顧客にふさわしい金融商品の販売・推奨等を行うことはあり得るとされている[5]

 また、個別の販売・推奨等を行う前提として、注4では、金融事業者は、従業員が取り扱う金融商品の仕組み等に係る理解を深めるよう努めるとともに、顧客に対して、その属性に応じ、金融取引に関する基本的な知識を得られるための情報提供を積極的に行うべきことを述べている。



[1]    平成29年3月30日付で金融庁より公表された「『顧客本位の業務運営に関する原則』の確定について-コメントの概要及びそれに対する金融庁の考え方」(以下「パブコメ回答」という)119番。

[2]    パブコメ回答127番・128番。

[3]    パブコメ回答145番。

[4]    パブコメ回答149番。

[5]    パブコメ回答155番。

 

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