内閣府、独占禁止法審査手続についての懇談会報告書を公表
岩田合同法律事務所
弁護士 唐 澤 新
内閣府は、平成26年12月24日、「独占禁止法審査手続についての懇談会による報告書」(以下「本報告書」という。)を公表した。
本報告書は、公正取引委員会(以下「公取委」という。)による独占禁止法(以下「独禁法」という。)違反被疑事件における事件関係人の防御権のあり方を検討するために、平成26年2月より計14回にわたって開催された有識者懇親会の検討結果を取りまとめたものである。
本報告書の主要な論点は、①公取委による立入検査時における防御権、②弁護士・依頼者間の秘匿特権及び③供述聴取時における弁護士の立会い及び供述聴取過程の録音・録画である。
まず、①立入検査時における防御権として問題となったのは、弁護士立会いと全提出物について謄写を求める事業者の権利である。現在の公取委の実務上、円滑な立入検査の実施に支障が生じない限り、弁護士による立ち会いを特に拒否されず、また、提出物についても、日々の営業活動に必要があると認められるものについて検査に支障がない範囲で謄写が認められている。本報告書においては、弁護士が到着するまでは立入検査を拒むことができる権利と、立入検査当日に全提出物の謄写を求めることができる権利の2点についてこれらを事業者に対して認めるべきかどうかが議論されたが、前者については、弁護士の到着までに証拠隠滅がなされるおそれが否定できないこと等、後者については現在の実務運用に照らして認める必要性が乏しいこと等をそれぞれ理由として、いずれも権利として認めることまでは適当でないとされた。
次に、②弁護士・依頼者間の秘匿特権(依頼者である事業者が、弁護士との間の一定のコミュニケーションについて、行政当局の調査手続における提出又は開示を拒むことができる権利)については、現在の公取委の実務上、認められていない。かかる公取委の実務に対しては、事業者が公取委に対して資料を提出した場合に、海外(秘匿特権が認められている国・地域)における秘匿特権を放棄したとみなされるおそれがあるとして、我が国においても秘匿特権を認めるべきとの意見もあったが、本報告書においては、秘匿特権の根拠及び適用範囲が明確でないこと等から、現段階で制度導入することは適当でなく、今後の検討課題とされた。
さらに、③供述聴取時における弁護士の立会い及び供述聴取過程の録音・録画についても、現在の公取委の実務においてはいずれも認められていない。しかし、審査担当官が公取委のストーリーに合った調書を取ろうとしていないか、不当な聴取が行われていないかなどを検証できるようにするために、産業界からはこれらを事業者の権利として認めるべきと強く求められていた。この点、本報告書においては、供述聴取時の弁護士の立会いについては、休憩時間等に弁護士と相談できること、また、供述過程の録音・録画については、供述人に萎縮効果が生じる懸念が払拭できないこと等から、いずれも制度導入を認めるべきとの結論には至らず、今後の検討課題とされた。なお、供述聴取に関しては、供述調書作成時における供述人への調書の写しの交付、供述聴取時におけるメモの録取及び自己負罪拒否特権(自己の刑事上の責任を問われるおそれのある事項について供述を強要されない権利)の是非についても議論されたが、結論として、事業者間又は事業者内で口裏合わせが行われる可能性があることや、他の行政制裁との整合性などを理由として、これらは認められなかった。
また、本報告書においては、公取委は、立入検査については、その法的根拠や弁護士を立ち会わせることができる旨、検査当日においても提出物件の謄写が認められる場合がある旨等の事項を、供述聴取については、聴取が任意のものか間接強制権限による審尋であるかや対象者が休憩時間に弁護士に連絡を取り、メモを取ることが妨げられない旨、対象者は調書の記載内容の増減変更の申立てができ、審査担当官の対応に不満がある場合には苦情を申し立てることができる旨等の事項をガイドラインに明記するとともに、これらの事項について対象者に明確にしておく必要のある場合には書面を利用して伝えることが適当である旨の提言もなされている。今後、本報告書の内容を踏まえ、公取委において、どのような措置が取られていくか注目されるところである。