公取委、アマゾンジャパン合同会社に対する独占禁止法違反被疑事件の処理
岩田合同法律事務所
弁護士 粉 川 知 也
1 事案の概要
公正取引委員会(以下「公取委」という。)は、平成29年6月1日、アマゾンジャパン合同会社(以下「アマゾン」という。)がAmazonマーケットプレイスの出品者との間の出品関連契約において、価格等及び品揃えの同等性条件(以下「同等性条件」という。)を定めることにより出品者の事業活動を制限している疑いがあるとの独占禁止法違反の審査に関し、アマゾンから自発的な措置を速やかに講じるとの申出がなされ、その内容を検討したところ、上記の疑いを解消するものと認められたことから、審査を終了することを公表した。
本件で問題となった同等性条件とは、アマゾンが出品者に対し、Amazonマーケットプレイスに出品する商品の販売価格及び販売条件は、出品者が他の通販サイトなどで販売する同一商品の販売価格及び販売条件と比べて最も有利なものとする、また、色やサイズといった品揃えについても他の通販サイトなどに出品した物は全て出品するとの条件を課すという内容(下図参照、公取委のHPより引用[1])で、いわゆる「最恵国待遇条項(MFN条項)」と呼ばれるものである。
公取委は、この同等性条件が、独占禁止法違反である「不公正な取引方法」の1つである拘束条件付き取引(同法2条9項6号ニ、不公正な取引方法[2]12項)に該当する疑いがあるとして、平成28年8月8日にアマゾンに対して立入検査を行い、審査を進めてきた。
2 本件における公取委の判断及び解決について
「拘束条件付き取引」とは、「相手方とその取引の相手方との取引その他相手方の事業活動を不当に拘束する条件をつけて、当該相手方と取引すること」とされており(不公正な取引方法12項)、これに違反したとされる場合には、排除措置命令が課されることになる[3]が、要件として相手方の事業活動を「不当に」拘束することが求められており、公正な競争に悪影響を与えるものであることが必要である。そのため、取引において同等性条件が定められていたとしてもそれだけで直ちに「拘束条件付き取引」に該当するものではなく、市場内でのシェアや、相手方が条件に違反した場合の罰則などによる実質的な拘束の程度など、同等性条件の存在が市場における競争に与える影響の実態に即して判断することが求められる。
この点、公取委は、本件の同等性条件の存在による影響について、①出品者の他の販路における出品価格の引下げや品揃えの拡大を制限するなど、出品者の事業活動を制限する、②当該電子商店街による競争上の努力を要することなく、当該電子商店街に出品される商品の価格を最も安く、品揃えを最も豊富にするなど、電子商店街の運営事業者間の競争を歪める、③電子商店街の運営事業者による出品者向け手数料の引下げが、出品者による商品の価格の引下げや品揃えの拡大につながらなくなるなど、電子商店街の運営事業者のイノベーション意欲や新規参入を阻害する、といった効果が生じることによる懸念を示したに留まり、市場内でのアマゾンのシェアや、条件に違反した場合の罰則などによる実質的な拘束の程度など、同等性条件の存在が市場における競争に与えた影響の程度についても触れることなく、独占禁止法違反に該当するのかについても判断を示さなかった。
公取委が当該部分の判断を示さなかった理由は本発表からは判明しないが、これまでにMFN条項の存在のみを理由に処分を行った事例は発見できていないところ、本件においても、市場における公正な競争に悪影響を生じさせることを基礎づける事実を認めるに至らなかった可能性はある。
また、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定の実施に伴い、独占禁止法違反の疑いのある行為について、公正取引委員会と事業者間の合意により、問題を早期に是正し解決する仕組み(確約手続、末尾表[4]参照)を導入する法案が既に成立[5]しているところ、公取委が、拘束条件付き取引に該当するかの困難な判断を避け、確約手続的解決を模索した可能性も考えられる。
3 まとめ
本件においては、アマゾンが新規契約については同等性条件を削除し、既契約について同条項の適用を放棄するなどの自発的な措置を取ったことにより、公取委は独占禁止法違反の疑いがなくなったものとして審査を終了させ、事案としては一応の帰結を見た。
もっとも、公取委は、本件の同等性条件が拘束条件付き取引に該当するかなどの判断は示すことなくアマゾンの措置に基づいて審査を終了させたため、①今後、同種のMFN条項が設けられた取引に対して公取委がどのような対応・判断を示していくのか、②確約手続に準ずるような本件と同様の処理が今後も見られ、そして増加していくのかなどについても、引き続き留意しておく必要があると考えられる。
[2] 不公正な取引方法(昭和57年公取委告示15号)
[3] 当該違反については、課徴金納付命令は対象外である。
[5] http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h28/dec/161209_4.html
ただし、施行期日はTPP協定が発効した日とされており、米国の同協定からの離脱により、施行の目途は経っていない。