◇SH2761◇中国:「市場支配的地位の濫用の禁止に関する暫定規定」の公布 鹿はせる(2019/09/06)

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中国:「市場支配的地位の濫用の禁止に関する暫定規定」の公布

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 鹿 は せ る

 

 2019年7月1日に、中国の市場管理監督総局は、「独占的協定の禁止に関する暫定規定」、「市場支配的地位の濫用の禁止に関する暫定規定」及び「行政権力の濫用による競争行為の排除・制限の制止に関する暫行規定」の3つの規定を公布し、いずれも同年9月1日から施行するとした。本稿では、そのうち「市場支配的地位の濫用の禁止に関する暫定規定」(以下「本暫定規定」という)の重要点について説明する。

 なお、中国独禁法における「市場支配的地位の濫用」規制をおさらいすると、濫用行為として列挙されているものは、①不公正な高価格での販売又は低価格での購入、②不当廉売、③取引拒絶、④強制的取引、⑤抱き合わせ販売及び不合理な取引条件つき販売、⑥差別的待遇及び⑦その他当局が認定する濫用行為である(法17条)。もっとも、これらの行為が違法と認められるためには、行為者が「市場支配的地位」を有していることが前提とされており、同法は当該地位の認定要素として、関連市場での市場占拠率及び競争状況等を列挙している(法18条)。また、単独の事業者の市場占拠率が2分の1、二事業者が合計3分の2、又は三事業者が合計4分の3に達する場合には、「市場支配的地位」が推定されると規定している(法19条)。

 

1 「市場支配的地位」の認定

 まず、本暫定規定は、どういった事業者が「市場支配的地位」を有すると認定されるのか、独禁法の条文をより細分化する規定を置いている(規定6条から13条)。例えば、独禁法では、地位の認定要素として「関連市場の市場占拠率及び競争状況」を考慮すると定められているところ、本暫定規定では、「市場占拠率」の確定に当たっては、一定期間の対象商品の売上金額・数量等、「競争状況」の分析については、関連市場の成長状況、現在の競争者の数、市場シェア、商品の差別化の程度、イノベーションと技術の変化、販売及び購入方法及び潜在的競争者等の要素を考慮すると規定している(規定6条)。また、インターネット産業等の新興型産業の事業者については、経営方法、技術の特性、データの入手及び処理方法等、旧来型産業にはない認定要素を定めている(規定11条)。更に、二以上の事業者による共同市場支配的地位の認定についても、事業者の行為の一致等の要素を加味して考慮すべきことを規定している(規定13条)。

 

2 「濫用」及び「正当化理由」の認定

 次に、本暫定規定は、どういった行為が市場支配的地位の「濫用」として認定されるか、独禁法の条文をより細分化する規定を置いている(規定14条から21条)。例えば、法律で規定された「不公正な高価格での販売又は低価格での購入」については、「不公正な高価格または低価格」の認定について、他の事業者が同一又は近似している市場で販売又は購入する同種商品の価格、同一事業者が他の市場で販売または購入する商品の価格、コストが安定している状況での通常の値上げ・値下げ幅等の要素を考慮すると規定している(規定14条)。また、独禁法上の濫用行為は、「正当な理由なく、コストより低い価格で商品を販売すること」(いわゆる不当廉売、法17条2号)というように、正当化理由の不存在を前提とするものが多いが、本暫定規定では、正当化理由として認められる事情につき、類型ごとに整理されている。例えば、上記独禁法17条2号が定める不当廉売については、季節性商品、事業の清算、新商品の販促等が、正当化理由として認められていると規定されている(規定15条)。今後独禁法に定められた市場支配的地位の濫用行為の解釈にあたっては、常に法律と本暫定規定の条文を合わせて読む必要がある。

 

3 その他

 中国独禁法45条は、独禁法違反の嫌疑により調査が行われている際に、当事者が一定期間に具体的な措置を講じ当該違反行為の効果を解消することを承諾した場合には、当局は調査を中止できると規定している。実務上、当局の調査が入った段階で、当事者から調査中止の申請がなされることも珍しくない。本暫定規定は、「独占的協定の禁止に関する暫定規定」と同様、調査中止申請の方法、要件、調査中止後の報告等の規定を置いているが(規定29条から34条)、独占的協定の場合と異なる点として、当事者からの調査中止の申請が認められない場合について規定されていない[1]。これは、複数の事業者が共同して行うカルテル行為(独占的協定)の方が、通常一方当事者によって行われる市場支配的地位の濫用行為よりも市場に与える危害が大きく、安易に調査の中止申請を認めるべきではないためと説明されている。

以上



[1]独占的協定の禁止に関する暫定協定では、いわゆるハードコアカルテルに当たる場合等一定の場合には、当事者からの調査中止の申請を認めないことが規定されていた。詳しくは前稿「『独占的協定の禁止に関する暫定規定』の公布」を参照されたい。

 

 

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