◇SH1338◇特定複合観光施設区域整備推進会議の取りまとめについて(1) 渡邉雅之(2017/08/08)

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特定複合観光施設区域整備推進会議の取りまとめについて(1)

弁護士法人三宅法律事務所

弁護士 渡 邉 雅 之

 

 平成29年7月31日に政府の「特定複合観光施設区域整備推進会議」(以下「推進会議」という。)は『特定複合観光施設区域整備推進会議取りまとめ~「観光先進国」の実現に向けて~』(以下「本取りまとめ」という。)を公表した[1]。本取りまとめは、政府が今後国会に提出するカジノを中心とした統合型リゾート施設(Integrated Resort、以下「IR」という。)の実施法案(以下「実施法案」という。)の方向性を示すものである。本取りまとめは、翌8月1日に「特定複合観光施設区域整備推進本部」(以下「推進本部」という。)に提出され、パブリックコメント[2]に付された(同年8月31日が意見提出期限)。同8月中には全国各地で本取りまとめについての公聴会が開催される。

 推進会議は、平成28年12月に成立した「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(平成28年法律第115号、以下「推進法」という。)の規定に基づき、推進本部の下、特定複合観光施設区域(以下「IR区域」という。)の整備の推進のために講ぜられる施策に係る重要事項について調査審議するために設置された会議である。推進法自体は、プログラム法であり、政府に対して1年以内に「必要となる法制上の措置」(同法5条)すなわち、「実施法案」の策定を求めるものである。政府は、実施法案を平成29年秋の臨時国会に提出することになるだろう。

 筆者は、推進会議の委員(有識者)の一人として本会議の審議に参加する機会を得た。本稿では、本取りまとめのポイントについて論点ごとに解説する。なお、本稿における意見は、私見であり推進会議全体の意見ではないものもあることに留意されたい。

 

1 本取りまとめ全体の構造

 本取りまとめは、以下の章立てとなっている。

 はじめに~「観光先進国」の実現に向けた世界初のIR法制度~

 Ⅰ. 日本型IRの全体像

 Ⅱ. IR制度の枠組み

 Ⅲ. 世界最高水準の規制①:カジノ規制

 Ⅳ. 世界最高水準の規制②:弊害防止対策

 Ⅴ. カジノ事業者に対する公租公課等

 Ⅵ. カジノ管理委員会

 Ⅶ. 刑法の賭博に関する法制との整合性

 「はじめに~「観光先進国」の実現に向けた世界初のIR法制度~」では、本取りまとめの根本原則である、公共政策としての「日本型IR」のイメージが検討されている。

 「Ⅰ. 日本型IRの全体像」においては、公共政策としての IR が目指すべき具体的な目標とIR規制とカジノ規制の関係について検討されている。

 「Ⅱ. IR制度の枠組み」においては、「IR区域等の定義」、「国の区域認定主体(主務大臣)」「区域認定の申請主体」、「区域認定手続等に関する諸論点」、「区域数の上限」、「IR 区域整備・IR 事業者の監督」について検討がされている。

 「Ⅲ. 世界最高水準の規制①:カジノ規制」においては、「厳格な免許制の構築」、「多重的かつ広範な参入規制」、「IR事業運営形態の類型の検討」、「カジノ施設・機器の規制」、「カジノ事業活動の規制」について検討されている。

 「Ⅳ. 世界最高水準の規制②:弊害防止対策」においては、「依存防止対策、青少年の健全育成」、「マネー・ローンダリング対策、暴力団員の入場禁止等」について検討されている。

 「Ⅴ. カジノ事業者に係る公租公課等」においては、「納付金」、「手数料」、「入場料」、「国・地方の配分関係等」について検討されている。

 「Ⅵ. カジノ管理委員会」においては、「カジノ規制の実効性確保の方策」、「納付金の適正な徴収」、「外国規制当局等との連携」、「カジノ管理委員会の在り方」について検討されている。

 「Ⅶ. 刑法の賭博に関する法制との整合性」においては、上記の検討を前提として、民設民営のカジノが刑法の賭博罪との関係で違法性が阻却されるか「目的の公益性」、「運営主体等の性格」、「収益の扱い」、「射幸性の程度」、「運営主体の廉潔性」、「運営主体の公的管理監督」、「運営主体の財政的健全性」、「副次的弊害の防止」の8つの観点から検討されている。

 

2 公共政策としての日本型IR(はじめに~「観光先進国」の実現に向けた世界初のIR法制度~)

 本章においては、公共政策としての「日本型IR」が目指すべき姿についての、本取りまとめの根本原則が示されている。

 「観光先進国」の実現を図る我が国にとって、IR (推進法においては「特定複合観光施設」と定義される。)には、①MICE[3]誘致戦略の中核となる機能(アジア最大級のMICE施設)、②多様なエンターテイメントやアクティビティの提供(日本の魅力の「ショーケース」、日本の「魅力発信」機能)(例:一流のエンターテインメントの提供、ナイトライフの充実等)、③日本の旅の「ゲートウェイ」機能(例:コンシェルジュ機能をワンストップで提供)、④さまざまなニーズを生み出す「宿泊」機能(例:日本最大級・最高水準の宿泊施設等)の4つの中核施設の機能が期待される。

 これらの4つの機能こそが、公共政策(公益)としての「日本型IR」 が達成すべき目標であり、従前から諸外国で認められてきた単なるカジノの運営とは、その概念や目的が全く異なるものである(Not a Casino, but an IR)。

 IR に期待されるこれらの機能に鑑みれば、我が国のIR 制度は、単なる「カジノ解禁法」でなく、また、IR 事業を認めるだけのものであってはならず、さらに、単にカジノを核として他の観光施設を申し訳程度に附置するようなカジノ導入を主眼としたものではあってはならない。我が国のIR 制度は、MICE 施設や宿泊施設、レクリエーション施設等の集客施設にカジノを加えた統合型リゾート施設の設置・運営等を法制度の中に位置付ける世界初の取組である。

 カジノも含めたIR 事業を実施し公共政策(公益)を具体化するIR 事業者やその関係者に対しては、その前提として、高い廉潔性を確保することが不可欠である。このため、本取りまとめにおいては、諸外国のカジノ規制を踏まえ、①「例外的特権」と表裏一体の高度な規範・責任、②「免許」制による厳格な参入規制と徹底した背面調査、③ゲーミングの公正性の確保、④厳格な事業規範とカジノ規制当局による厳正な監督による健全な事業運営の確保、を前提に、「世界最高水準の規制」の在り方についての検討が検討された。

 また、「カジノ事業者に係る公租公課等の負担の在り方」、「カジノ管理委員会の在り方」、「刑法の賭博に関する法制との整合性」についても検討された。

 

3 日本型IRが目指すべき具体的目標・IR規制とカジノ規制の関係(Ⅰ.日本型IR の全体像)

(1) 概要

 我が国のIR 施設は、集客施設とカジノ施設から構成されることが前提となっているが、これらの施設がそれぞれ果たすべき役割としては、①集客施設(MICE、魅力発信、宿泊、ゲートウェイの4つの機能を有する施設)には、民間ならではの自由な発想で国際的・魅力的なコンテンツを提供するなど、国内外から観光客を誘客し、滞在させる機能、②カジノ施設には、高い収益を得て、IR 事業全体の採算性を担保する機能が、それぞれ期待されていると考えられる。

 日本型IR においては、これらの集客施設及びカジノ施設を、民間事業者が、民間事業者ならではの創意工夫を活かして一体的に設置・運営することとなる。

(2) 公共政策としてのIR

 公共施設としてのIRが目指すべき具体的な目標は、①世界で勝ち抜くMICE ビジネスの確立、②滞在型観光モデルの確立、③世界に向けた日本の魅力発信である。

  1. ア 世界で勝ち抜くMICE ビジネスの確立(MICE機能)
    日本型IRの整備は、現状26%(2015年)まで低下している、アジア・大洋州主要国における我が国の国際会議開催のシェアを、世界水準のMICE 施設とエンターテイメント施設、宿泊施設、ショッピングモール等が集約して設置されることにより、我が国の国際会議開催のシェアを大きく回復させうるものである。
  2. イ 滞在型観光モデルの確立(宿泊機能)
    日本型IR において、我が国が誇るコンテンツを活かし、世界に通用するコンテンツを擁するワールドクラスのショービジネスを育てることを通じて、ラスベガスのように、我が国のショービジネスの市場規模を更に飛躍的に増大させ、日本の新たな魅力を創り上げ観光客を呼び込むという好循環を生み出すことが可能となる。
  3. ウ 世界に向けた日本の魅力発信(ショーケース・ゲートウェイ機能)
    日本型IR においては、日本ならではの伝統・文化・芸術・先端技術、さらには四季の自然や全国各地の様々な魅力を、VR 等の最先端技術も駆使して紹介することで、外国人旅行客が「また必ず日本に来たい」「次は、ここに実際に行ってみたい」と感じ、日本のファン・リピーターとなることが期待される。
    また、日本型IR において、全国各地の魅力的な観光地や観光ルートを紹介し、日本型IR を拠点にして、旅行者が全国に旅立つことで、全国津々浦々にインバウンドの消費効果が波及することが期待される。

(3) IR制度とカジノ規制の関係

  1. ア IR 制度:公共政策機能の発揮
    IR 制度は、IR 事業が公共政策としての機能を発揮しながら実施されるために必要な制度的枠組として、IR 施設の構成施設等の要件や、国の区域認定等のプロセス、IR 事業者の監督に係る国と地方公共団体の役割分担等を定めるものである。
  2. イ カジノ規制:廉潔性の確保のための厳格な規制
    カジノ規制は、カジノ事業がIR 事業全体としての公共政策としての機能を損なうことがないよう、IR 事業実施のための前提条件として必要なカジノ事業の廉潔性の確保に必要な制度的枠組として、参入規制や事業規制、弊害防止対策等の規制及びカジノ管理委員会の設置等を定めるものである。

 

4 IR制度の枠組み(II. IR制度の枠組み)

(1) 推進法の規定

 プログラム法である推進法2条1項においては、「特定複合観光施設」を「カジノ施設(中略)及び会議場施設、レクリエーション施設、展示施設、宿泊施設その他の観光の振興に寄与すると認められる施設が一体となっている施設」と規定し、施設の種類を例示するにとどまっている。このため、国際競争力の高い滞在型観光の実現等の法目的を達成するために必要な、①特定複合観光施設が備えるべき施設の種類・機能、②推進法が「一体となっている施設」と定める「一体性」の要件等の具体的な内容は、政府による実施法案の制度設計に委ねられている。

(2) IR施設の構成施設の種類・要件の考え方

 上記3(2)で説明したとおり、日本型IRにおいては、公共政策としてMICE誘致機能、②魅力発信機能(ショーケース機能)、③ゲートウェイ機能、④宿泊機能という4つの機能が期待されている。

 そこで、IR施設を構成すべき中核施設の種類・機能は、カジノ施設に加え、①MICE 誘致に当たり、日本の国際競争力の向上が図られる機能を有する施設(国際会議場・展示場等)、②我が国の伝統・文化・芸術・先端技術等の魅力をショーケースとして強力に発信する機能を有する施設(劇場、博物館、美術館その他のレクリエーション施設、レストラン、ショッピングモール等)、③ショーケースで触れた日本の魅力を実際に現地で体験するため、全国各地へ観光客を送り出す機能を有する施設(日本国内の旅行を提案・アレンジする施設等)、④国際競争力のある滞在型観光拠点として、宿泊需要に対応し、かつ、宿泊需要を生み出す機能を有する施設(ホテル等)とし、特定複合観光施設は、これら全てが一体となっている施設とすべきである。

 また、各構成施設の要件については、各構成施設が国際競争力を有するとともに、全国的な見地からも我が国を代表する施設として経済効果を生み出すものとすべきであるとされた。

 この点については、「地方創生の観点も重要。施設規模のバリエーションも考えることが必要。」との意見もあった。

 もっとも、推進法には「地方創生」という用語は用いられていない。その主目的はあくまで国レベルでの国際競争力の高い滞在型観光の実現である。推進法で示されたIRの目的の一つである「地域経済の振興」とは、最少限の数が立地されるIR から各地に送客が行われることで、観光消費が全国に波及することと理解すべきである。IR 区域が立地しない自治体が存在することが大前提となっており、立地自治体のみが潤うことを目的とするものではない。したがって、筆者としては、「地方創生」を強調する議論については疑問を有しているところである。

(3) IR施設の一体性

  1. ア IR事業主体の一体性
    IR事業の公益性を確実に担保するためには、①カジノ事業を含めたIR 事業全体の経営責任の明確化、②カジノ事業からカジノ事業以外のIR 事業への収益還元の確実化、それを通じたIR 事業全体の継続性の確保、③厳格な審査による免許を得たカジノ事業のみならず、カジノ収益が及ぶIR 事業全体の廉潔性の確保を図るとともに、この公益性を最大化するためには、④一体性が確保された事業主体による経営判断により、IR各事業の相互連携・相乗効果を最大化する必要があり、これら①~④を担保するためには、一体性が確保された事業者(SPC(Special Purpose Company)等を含む。)がIR事業を経営することが必要である。

  1. イ IR施設の地理的一体性
    上記アの④のとおり各事業の相互連携・相乗効果の最大化を図る上では、構成施設が複数の地域に分散していると、各施設の集客効果が分散し、相乗効果が発揮できなくなると見込まれる。このため、IR 施設の各構成施設を単一の区画に集約して設置することを事業者に求めるべきである。

  1.   同一都道府県内の複数の市町村がIR事業を行うことは、IR施設の地理的一体性の観点で認められない。
  2. ウ IR区域・IR施設・IR事業者の関係
    推進法の附帯決議第4項においては、IR区域の数について「国際的競争力の観点及びギャンブル等依存症予防等の観点から、厳格に少数に限ること」とされている趣旨を踏まえれば、IR施設の敷地を超えた面積を、IR 区域の範囲として認めるべきではない。このため、IR区域については、「IR施設ごとに当該施設が設置される単一の区画」と定義すべきである。
     したがって、「事業主体の一体性」及び「地理的一体性」、並びに IR 施設と区域の対応関係を踏まえれば、IR 区域・IR 施設・IR 事業者の関係は、「事業運営の一体性が確保された事業者が1つの IR 施設を運営し、この施設の敷地と同一の単一の区画が、IR 区域である」と整理できる(IR区域・一IR施設・一IR事業者の原則)。

  1.   よって、地方公共団体によるIR区域の面積が広いからといって、複数のIR事業者による複数のIR施設を設置することはできないことになる。

(4) 国の区域の認定主体(主務大臣)

 区域の認定主体である「国」については、IR事業の主目的である「国際競争力の高い魅力ある滞在型観光の実現」と関係の深い単一の主務大臣が認定することとし、具体的には国土交通大臣とすべきであるとされた。

 また、IR の整備推進に当たっては、国土交通大臣が所掌しない課題(依存防止対策、カジノ事業者の監督等)への対応も必要になることから、国土交通大臣は区域認定に当たり、関係府省や推進本部に意見を求めることで、より効果的な区域整備を図る仕組みとすべきであるとされた。

 これにより、IR事業者に対する監督は、IR事業全体については国土交通大臣により、カジノ事業についてはカジノ管理委員会により受けることとなる。

(5) 区域認定の申請主体

 IR 区域の整備に当たり、申請主体にはインフラや周辺環境の整備等の広域的な施策及び依存防止対策等について総合的な役割を果たすことが求められる。このため、申請主体は広域的・総合的な役割を担いうる都道府県を基本とすべきである。この場合、申請に当たって、政令指定都市を含む立地市町村・特別区と協議等を行うこととすべきである。

 また、基本的に都道府県と同等の権能を有する政令指定都市についても申請主体に含めるべきである。この場合、広域施策等における行政運営上の調整を図る必要があることから、申請に当たって都道府県と協議等を行うこととすべきである。

 この考え方によれば、同一都道府県内の複数の市町村が立地市町村となることを求めている場合には、当該都道府県がその中から立地市町村を選んだ上で申請をすることになる。また、立地市町村となることを求めていない市町村を立地市町村として申請をすることも考えられる。

 一つの都道府県と当該都道府県内の政令指定都市がIR区域認定の申請主体となることを求めている場合には、当該都道府県と当該政令指定都市が協議の上、いずれが申請主体となるかを決定した上で申請をする必要があると考えられる。

 この点、都道府県と政令指定都市が一部事務組合を設立して申請主体となることができないかが問題となるが、後述のとおり、認定地方公共団体は国(国土交通大臣)による監督を受けること、及び、認定地方公共団体としてIR事業者に対する監督の主体になることに鑑みると、複数の申請主体があることは望ましくなく、両者が地方自治法上の一部事務組合を設立して申請をすることは認められないものと考えられる。

(6) 区域認定手続等に関する諸論点

  1. ア 国による「基本方針」と都道府県等による「実施方針」
    区域認定を申請する都道府県・政令指定都市(以下「都道府県等」という。)は、 IR 事業者の選定に際しては、民間事業者に公平な参加機会を与え、客観的かつ公正に審査を行うことが求められる。したがって、都道府県等は、IR 区域整備の意義・目標、IR 区域やその規模、施設の種類や IR 事業者の募集・選定手続等を定めた「実施指針」を作成し、公募により IR 事業者を選定すべきである。
    また、都道府県等の IR 事業者選定や区域認定の申請に先立ち、国は、IR 区域整備を進めていく上での政府全体の共通指針を示すとともに、都道府県等からの申請に対する認定基準を示す必要があることから、IR 区域整備の意義や目標、区域認定に関する基本的な事項等を規定した「基本方針」を定めるべきである。
  2. イ 事業者選定と区域認定の先後関係
    区域認定手続等には、都道府県等が事業者を選定する手続国が区域認定をする手続がある。推進法には事業者選定と区域認定の先後関係について規定されていない。
     推進会議においては、以下のとおり、それぞれの手続きの長所・短所を検討した上で、IR事業が総体として公益性を有するかについて、国が公正かつ客観的に審査を行う必要があることや、申請を行う都道府県等において具体的な事業計画に基づく地元の合意を得る必要があることを踏まえて、都道府県等による事業者選定を先行することが妥当であるとされた。
    この手続きでは、都道府県等は、まず IR事業者を公募・選定した上で、区域、IR 事業者からの提案に基づいた事業基本計画に加え、懸念事項への対応、周辺インフラの整備や周辺環境対策等の都道府県等の施策を含む具体的な「区域整備計画」を IR事業者と共同で作成し、国に申請を行い、国は当該区域整備計画に係る区域を認定することとなる。(なお、申請段階では、SPC 等の事業者が特定されていることが必要である。)
  事業者選定を先行実施 区域認定を先行実施

手続き

  1.   地方公共団体は、事業者の選定の後、その提案に基づいた具体的な事業計画を作成した上で国に申請を行い、国は当該事業計画等に基づき区域を認定する。
  1. ・ 地方公共団体は、具体的な事業計画が無いまま国に申請を行い、国が区域を認定した後、地方公共団体が事業者を選定する。

メリット

  1. ・ 国は、具体的な事業計画に基づき、事業内容の法目的との整合性や経済効果、事業継続性、懸念事項への対応等について公正かつ客観的な審査を行うことにより、当該事業の公益性の確保が可能となる。
  2. ・ 地方公共団体は、具体的な事業計画に基づく地域住民への説明を行うことにより、地元合意に向けて説得力のある取組みが可能となる。
  1. ・ 事業者は、事業の実施が確実な認定された区域について、地方公共団体に事業計画を提案し、具体的な投資判断を行うことができる。

デメリット

  1. ・ 事業者は、区域認定がされておらず、事業の実施が不確実な段階で、事業計画を作成し、具体的な投資判断を迫られることとなる
  1. ・ 国は、具体性、実行確実性のない計画に基づき審査を行わなければならず、当該事業が真に公益性を有するのか、公正かつ客観的な判断ができない。
  2. ・ 地方公共団体は、計画に具体性がないことから地域住民に説得力を持った説明ができず、合意形成が困難となる可能性がある。
  1.   事業者選定の先行については、区域と IR事業者をセットで認定すると、国が事業者にお墨付きを与えたように見え、また、事業者は廉潔性等に問題がある可能性もあるため、米国マサチューセッツ州のように、RFQ(Request for Qualification)を行い、廉潔性等について一応の確認をした上で、区域と事業者を認定すべきではないかとの意見もあった。
    しかしながら、筆者としては、国が事前に 10~20 の事業者を審査しなければならないため、米国マサチューセッツ州のように RFQ を行うのは困難ではないかと考える。代替案として、国が地方公共団体を認定する段階で事業者に対し予備審査を行うべきではないかと考える。国が定める基本方針やガイドラインにおいて、IR事業者選定の段階で、都道府県等に事業者の審査を一定程度行うプロセスを踏ませることも考えられる。
    いずれにせよ、基本方針等の国の指針は、実施法施行後速やかに策定されることが望ましい。
    国による区域認定申請受付は、都道府県等による事業者選定に必要となる合理的な時間的余裕を考慮して、公正、公平なタイミングで開始する必要がある。筆者としては、2020年~2021年ぐらいのタイミングで国による区域認定が行われるのが妥当と考える。
    なお、事業者選定を先行する場合には、同一の事業者が複数の都道府県等の事業者選定手続に対して申請をすることができるかが問題となるが、実施法案上は特段の制限は設けられないものと考えられる。実施法案は、同一の事業者が複数の都道府県等のIR事業者となることについても特段制限を設けるものではないものと考えられる(但し、独占禁止法上の独占の問題は別途検討する必要がある。)。
    もっとも、都道府県等の中には自己の手続に申請した事業者は他の都道府県等において申請することは認めないとの条件を実施方針に定めるところも出てくる可能性がある。この場合でも、当該条件は当該都道府県等の事業者選定手続において落選した事業者が、その後に実施される他の都道府県等における事業者選定手続に申請することまで制限することは当然できないだろう。
  2. ウ 立地市町村等への協議等
    「都道府県が区域整備計画を作成する場合」には、広域的な観光施策の推進や弊害防止対策について、十分な効果が得られる内容を盛り込む観点から、①政令指定都市を含む立地市町村・特別区に協議等を行うとともに、②公聴会等住民の意見を反映するための措置を設けるほか、周辺自治体等の関係機関等を構成員とする協議会も都道府県の判断で設置を可能とし、③区域整備計画作成主体である都道府県の議会の議決を得る(協議先の立地市町村・特別区においては議会の議決は任意)、といったことを行った上で、国に認定申請を行うこととすべきである。
    「政令指定都市が区域整備計画を作成する場合」には、基本的に上記①~③と同様に取り扱うこととするが、上記①の関係では、都道府県に協議等をし、また、上記③の関係では、政令指定都市の議会の議決を得ることとすべきである。
  3. エ 区域認定に当たって考慮すべき要素等
    推進法第8条では、「政府は、地方公共団体による特定複合観光施設区域の整備(中略)に係る構想のうち優れたものを、特定複合観光施設区域の整備の推進に反映するため必要な措置を講ずるものとする」とされている。また、附帯決議第3項では、「特定複合観光施設については、国際的・全国的な視点から、真に観光及び地域経済の振興の効果を十分に発揮できる規模のもの」とすることとされている。
    したがって、国は区域認定に当たり、国際的・全国的な見地から、様々な懸念事項への対応も含む多様な要素を考慮すべきである。
    また、IR 区域整備の効果を最大化するため、IR 施設を構成すべき各構成施設について、どの程度国際競争力を有しているか、我が国を代表する施設として相応しいか等を含め、これらの様々な考慮要素を総合的、かつ、客観的に評価し、国際的・全国的な見地から、効果の高いものを国が認定する仕組みとすべきである。
    筆者としては、国による区域認定の考慮要素としては、以下のような事項も含まれると考える。
  1. ① IR施設の各構成要素(MICE施設、魅力発信施設、ゲートウェイ施設、宿泊施設)が国際競争力を有するものか
  2. ② IR区域の候補となる立地の状況
  3. ③ IR施設のコンセプト・デザイン
  4. ④ 国の経済の活性化、財政の改善、社会保障の充実への寄与
  5. ⑤ 都道府県等の地域経済の振興、就業機会の増大、地方財政の改善への寄与
  6. ⑥ 立地市町村の合意形成・周辺地方自治体との関係
  7. ⑦ 社会的負の影響の予測およびそれに対する対策
  8. ⑧ プロポーザルの実現可能性
  1. オ 実施協定
    地域の創意工夫や民間の活力を活かしながら、IR事業を実施していくためには、区域整備計画に加え、国の区域認定を受けた都道府県等と IR 事業者が主体となって事業内容について具体化した取決めを行いつつ、その着実な履行を担保できる仕組みが必要である。
    米国マサチューセッツ州では、事業者がカジノ施設の立地自治体との間で地域貢献や弊害防止対策に係る費用負担に関する協定(Accord)を締結していること、民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(PFI 法)では、地方公共団体と民間事業者が事業の実施に当たって運営権実施契約を締結していることを参考に、都道府県等と IR事業者においては、事業主体・施設・事業内容等の詳細、実施プロセス、事業評価のためのモニタリングに関する措置、事業継続が困難となった場合の措置、弊害対策に関する役割分担・費用負担、広域観光その他自治体施策への事業者の協力等を記載した実施協定を、事業実施に当たって締結することとすべきである。

(7) 区域数の上限

 推進法の附帯決議第4項では、IR区域数について、「我が国の特定複合観光施設としての国際的競争力の観点及びギャンブル等依存症予防等の観点から、厳格に少数に限ることとし、区域認定数の上限を法定すること」とされている。また、同法の国会審議の際には、認定数について、2つか3つくらいからスタートして、効果を検証し、段階的にどの程度増やしていくのか検討すべき旨が提案者より答弁されている。

 したがって、区域数の上限については、まずは当初の区域数の上限を検討することとした。また、区域数の上限の検討に当たっては、国際競争力及びギャンブル等依存症予防等の観点以外に、厳格な背面調査を行うカジノ管理委員会の当初のキャパシティ、魅力あるIR事業を提供するための競争環境の安定性も考慮する必要がある。

 なお、推進法附則第2項において、同法の「施行後5年以内を目途として、必要な見直しが行われるべき」と規定されていることから、制度運用開始後の効果等を踏まえ、必要に応じて区域数の上限は見直されるべきと考えられる。

(8) IR 区域整備・IR 事業者の監督

  1. ア 主務大臣と都道府県等の役割分担
    主務大臣は、①都道府県等及び IR 事業者が区域整備計画を適切に実施しているかを監督するとともに、②国際的・全国的な見地等から必要があると認めるときに都道府県等及び IR事業者を監督することとすべきである。
    都道府県等は IR 事業者を選定し、区域整備計画を作成するとともに、IR事業者と共同で事業を実施する立場から、区域整備計画に定める IR 事業を着実に実行するため、IR事業者を監督することとすべきである。
    なお、「共同で事業を実施する」とは、区域整備計画におけるそれぞれの役割、事業内容に関する IR事業者と都道府県等の合意に基づき、IR事業者が IR 事業を実施するとともに、都道府県等は区域整備に係るインフラ整備、IR推進のための国際観光・弊害防止対策等を実施することを意味する。
  2. イ 主務大臣によるIR事業監督
    主務大臣は、基本方針等の IR制度の運営に向けた方針を示し、区域整備計画(IR事業者が作成する事業基本計画を含む。)の認定、実施協定の認可を行うとともに、①区域整備計画、実施協定が適切に実施されていない場合、②国際的・全国的見地等から必要があると認める場合や複数の IR区域での調整が必要となる場合、には、IR事業者に対し報告徴収、立入検査、指示等を行うこととすべきである。
    また、上記も含め、主務大臣の監督権限として、事業計画の内容の確認、報告徴収、立入検査、指示、区域整備計画の変更指示や区域整備計画認定の取消しを定めるべきである。
    加えて、区域整備計画の認定及び実施協定の認可は、更新制とすべきである。
    区域整備計画の認定の更新制については、いったん選ばれた地域、IR 事業者の投資や利益が十分に確保されるよう、一定程度長い期間(例えば、10年程度)にすべきであると考える。
  3. ウ 都道府県等による IR 事業監督
    都道府県等と IR事業者においては、区域整備計画に加え、事業実施に当たって実施協定を締結することとすべきである。また、実施協定の締結に当たっては、主務大臣が認可を行うこととすべきである。
    加えて、都道府県等は IR事業者に対し、実施協定の着実な履行を求めるとともに、区域整備計画の着実な実行のため必要がある場合には、IR 事業者に対し、事業計画の協議・承認、報告徴収、実地調査、指示等を行えることとすべきである。

  1. エ IR事業の評価制度
    IR 事業の評価を経済社会情勢の変化に応じて機動的に実施することで、IR 事業の効果の最大化と公益性確保を図る仕組みとするため、定期的に IR 事業の実施状況について評価を行うこととすべきである。
    具体的には、主務大臣が毎年度、都道府県等から区域整備計画の実施状況(自己評価)について報告を受け、推進本部の意見を聴いた上で、評価を行い、その結果を公表、都道府県等に通知するとともに、必要に応じ、IR 事業者に改善の指示等を行うこととすべきである。
    加えて、主務大臣は、事業計画期間(例えば3年間)の終了時や区域整備計画の認定更新時に、評価の結果が事業運営に適切に反映されていることを確認することとすべきである。


[1] 推進会議の取りまとめ、資料、議事録は首相官邸のページ(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ir_promotion/ir_kaigi/index.html)に掲載されている。

[3] 企業等の会議(Meeting)、企業等の行う報奨・研修旅行(インセンティブ旅行)(Incentive Travel)、国際機関・団体、学会等が行う国際会議(Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)の頭文字のことであり、多くの集客交流が見込まれるビジネスイベントなどの総称。

 

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