◇SH3846◇「デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」中間論点整理 浜崎祐紀(2021/12/03)

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「デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」中間論点整理

岩田合同法律事務所

弁護士 浜 崎 祐 紀

 

 金融庁は、令和3年11月17日、デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会による中間論点整理(以下「本論点整理」)を公表した。以下では、本論点整理において中心的に論じられている「ステーブルコインに関する規律のあり方」の概要を紹介する。

 

(金融審議会総会資料2-1「デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」
中間論点整理 説明資料8頁(2021年11月22日)より)

 

1 ステーブルコインの種別分け

 本論点整理は、ステーブルコインについて、特定の資産と関連して価値の安定を目的とするデジタルアセットで分散台帳技術(又はこれと類似の技術)を用いているものとし、このうち、法定通貨と価値の連動を目指すものについて、以下のとおりに分類している。

  1. ① 法定通貨の価値と連動した価格(例:1コイン=1円)で発行され、発行価格と同額で償還を約するもの(及びこれに準ずるもの)(デジタルマネー類似型)
  2. ② アルゴリズムで価値の安定を試みるもの[1]等(①以外)(暗号資産型)

 

2 「デジタルマネー類似型」と既存のデジタルマネーの関係

 本論点整理は、「デジタルマネー類似型」は、分散台帳等を用いて「発行者」と「移転・管理を行う者」が分離した形態でサービスが提供されているのが一般的である。他方、既存のデジタルマネーは現時点では両者は同一であるが、将来的には分離する可能性もある。このため、「同じビジネス、同じリスクには同じルールを適用する」との考え方に基づき、法制度の検討に当たっては対象を「テジタルマネ一類似型」に限定するのではなく、既存のデジタルマネーについても「発行者」と「移転・管理を行う者」が分離し得ることを前提に検討を行う必要がある、としている。

 

3 電子的支払手段の3つの機能

 本論点整理は、電子的支払手段を用いた送金・決済サービスを以下の3つの機能に分類している。

  1. ① 発行、償還、価値安定の仕組みの提供(裏付資産の管理やカストディサービスを含む)
  2. ② 移転(取引の検証メカニズムを含む)
  3. ③ 管理、取引のための顧客接点(顧客の秘密鍵を管理するウォレットサービスやコインの取引を可能とするアプリの提供を含む)

 

4 「発行者」及び「仲介者」に求められる規律

 本論点整理は、かかる規律について、概要、以下のとおりに整理している。

 ⑴ 発行者

 電子的支払手段を発行・償還する行為は、現行法上、為替取引に該当し、銀行業免許又は資金移動業登録が求められる。

 利用者の発行者に対する償還請求権が明確に確保され、発行者又は仲介者の破綻時において利用者の償還請求権が適切に保護されることが重要である。

 現行制度の下で発行者と仲介者が分離することを想定すると、発行者に対する上記の要請を満たす仕組みとして、以下が考えられる。

  1. ・ 預金債権の発生・消滅について、銀行から代理権を付与された仲介者が、個々の利用者の持分を管理し、振り替える仕組み(仲介者が持分を管理するいわゆる連名預金)[2]
  2. ・ 信託法制の適用を前提に、預金を信託財産とした信託受益権を仲介者が販売・移転する仕組み

 利用者保護等に照らして問題のあるものの発行は認めるべきではない。

 ⑵ 仲介者

 暗号資産取引における交換業者同様、取り扱う電子的支払手段に係る情報提供や適切なAML/CFT対応のほか、これらの前提となる適切な体制整備等が確保されるべき。さらに、海外発行のものを含め、利用者保護等に支障を及ぼすおそれのある電子的支払手段は取り扱わないこととすべき。

 ⑶ 「発行者」と「仲介者」の関係等に関する規律

  1. ・ システム障害等によって利用者に損害が生じた場合の対応及び責任関係の明確化
  2. ・ 償還請求に係る手続等の明確化
  3. ・ AML/CFT上の要請等に対応できる仕様のシステムの採用
  4. ・ 不正取引に対する補償方針の策定
  5. ・ 顧客情報の適切な取扱い

 

5 終わりに

 本論点整理において言及されている規律は、既に存在し、又は将来的に導入される可能性のあるものである。現在又は将来、ステーブルコインに係るサービスを提供し、又は提供することを検討している会社においては、かかる規律について留意されたい。

以上


[1] 例えば交換所等においてステーブルコインが取引可能である場合に、法定通貨との交換比率が一定比率内に収まるよう、一定のアルゴリズムに基づいて相場介入を行うこと等によって、価値の安定を図るもの。

[2] 銀行が連名預金(顧客口名義)の総額を管理し、仲介者が業規制に基づく帳簿管理義務等の下で各顧客の持分を管理することが想定される。この連名預金は共有ではなく、顧客がそれぞれ預金債権を有することを想定している。
銀行預金は要求払預金とすることが想定される。この要求払預金は預金保険で全額保護される決済用預金と定額保護される一般預金等のいずれの場合もあり得る。
発行者を資金移動業者とするスキームも考えられる。この場合、送金上限金額や顧客資金の滞留規制等が適用される。

 


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(はまさき・ゆうき)

岩田合同法律事務所アソシエイト。2004年東京大学経済学部卒業。2010年早稲田大学大学院法務研究科修了。2013年弁護士登録及び公認会計士登録。2003年から2006年まで監査法人トーマツに勤務。2012年から2013年まで原口総合法律事務所に勤務。2013年から2015年までPwC税理士法人に勤務。一般企業法務、会計監査業務、税務コンサルティング業務等に従事。

岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/

<事務所概要>
1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。

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