◇SH1029◇インド:2017年度予算案と今後の法規制の動向 川島章裕(2017/02/22)

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インド:2017年度予算案と今後の法規制の動向

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 川 島 章 裕

 

 インドのジェートリー財務相は、2017年2月1日、2017年度予算案(「新予算案」)を発表した。新予算案では、2016年11月に実施した高額紙幣廃止措置によって大きな経済的影響を受けたとされる農村に予算を重点的に配分する方針が示されたほか、鉄道、道路等のインフラ施設に対する投資計画が発表された。また、中間所得者層対策として、年収25万乃至50万ルピーの所得者層の所得税率を10%から5%に引き下げるなどの提案を行った。新予算案の内容は多岐にわたるが、財政・租税政策等に関連して法規制の改正方針についても言及しているため、規制分野を中心として今後の法規制の動向について概説する。

 

外国投資促進委員会(Foreign Investment Promotion Board)(「FIPB」)の廃止:

 政府は、2017年度中にFIPBを廃止する方針を示した。FIPBは、財務省(Ministry of Finance)の経済局(Department of Economic Affairs)に属する機関であり、いわゆるFDI政策に基づき政府承認が必要となる特定の産業分野に対する外国直接投資に関して事前承認を行う権限を有する。FIPBの廃止は、9割以上の外国投資がいわゆる自動承認ルートによって行われるまでに投資の自由化が進んだことからFIPBは一定の役割を既に終えており、FDI政策を策定する産業政策推進局(Department of Industrial Policy and Promotion)との行政的重複を解消してより簡素な体制とすることが望ましいとの考えが背景にあると考えられる。政府は今後数カ月の間にFIPBの廃止に向けたロードマップを策定し、公表する方針である。現時点で外国投資規制が残る産業分野においてどのような規制の枠組みに変更されるか注目される。

 なお、上記のFIPB廃止の方針に加えて、外国直接投資に関して更なる規制緩和が検討されており、当該緩和の内容を必要な段階で公表する方針も示されている。具体的な内容については明らかではないが、市場からは不動産業等に関する規制緩和への期待が示されている。

 

資産再建会社(Asset Reconstruction Company)(「ARC」)が発行する担保証券(Security Receipt)(「SR」)の上場許可:

 ARCとは、金融資産の証券化及び再建並びに担保権の実行に関する法(Securitisation and Reconstruction of Financial Assets and Enforcement of Security Interest Act, 2002)(「SARFAESI法」)に基づき金融資産を取得し証券化を行う主体であり、SRとは当該証券化に伴い発行される証券である。SARFAESI法の下では、一定の適格投資家のみがSRに投資することが可能であり、インド証券取引委員会(Securities and Exchange Board of India)(「SEBI」)の上場規則はSRの上場を認めていない。新予算案は、SRの市場を拡大して投資を促進するため、法改正を行いSRの上場を認める方針を示した。

 

デジタルエコノミーの促進に伴う決済制度の改正:

 新予算案は、クリーンな経済システムの実現や資金調達コストの低減を目的として電子決済を軸とするデジタルエコノミーの促進を掲げており、その一環として、支払及び決済システムに関する法律(Payment and Settlement Systems Act, 2007)を改正する方針が示された。具体的には、支払及び決済システムに係る規制及び監督を行うための既存の委員会を廃止し、決済規制委員会(Payments Regulatory Board)(「PRB」)をインド準備銀行内に設立して、より独立的な監督機関とすることが企図されているとみられる。また、電子取引及び手形決済を促進するために、流通証券法(Negotiable Instruments Act)に関する必要な改正を行う方針である。

 

適格機関投資家(Qualified Institutional Buyer)(「QIB」)の拡大:

 現在のSEBIの上場規則によれば、新規公募発行の主体が一定の財務基準を満たさない場合には、QIBが定められた割合の株式を引き受けなければならない。現在、銀行や保険会社等の金融機関のみがSEBIによってQIBとして認められており、QIBのみが新規公募発行に参加することが認められている。新予算案は、新規公募発行市場を強化するため、インド準備銀行(Reserve Bank of India)に規制され、かつ一定の純資産を有する非銀行系金融機関もQIBとして認められるよう法改正する方針を示している。

 

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