◇SH3097◇厚労省、新型コロナウイルス感染症に係る有期契約労働者や派遣労働者等の雇用維持等に関する配慮の要請 久木元さやか(2020/04/09)

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厚労省、新型コロナウイルス感染症に係る
有期契約労働者や派遣労働者等の雇用維持等に関する配慮の要請

岩田合同法律事務所

弁護士 久木元 さやか

 

1 はじめに

 厚生労働省(以下「厚労省」という。)は、令和2年3月27日、新型コロナウイルス感染症をめぐる状況を踏まえ、日本人材派遣協会等の派遣元企業の業界団体に対し、新型コロナウイルス感染症に係る派遣労働者の雇用維持等に対する配慮について要請(以下「本要請1」という。)した。

 また、厚労省は、同日、日本経済団体連合会等の経済団体に対し、新型コロナウイルス感染症に係る有期契約労働者、パートタイム労働者及び派遣労働者並びに新卒の内定者等の雇用維持等に対する配慮について要請(以下「本要請2」という。)した。

 厚労省では、すでに、令和2年3月5日付けで、新型コロナウイルス感染症に係る雇用維持等に対する配慮について要請しているが[1]、労働者派遣契約等の更新等が多くなる年度末及び新卒者の雇い入れを行う新年度初めを迎えることを踏まえ、改めて、派遣労働者等及び新卒の内定者等の雇用の安定とその保護を図るための対応を要請するに至った。

 以下、要請内容のポイントについて解説する。

 

2 本要請1の概要

 厚労省の派遣元事業主に対する要請のポイントは、以下の3点である。

  1. ① 派遣労働者の就業場所の確保
  2. ② 雇用調整助成金を活用した休業等の対応
  3. ③ 社員寮等に入居している労働者の離職後の入居継続許可
  1. ① 派遣労働者の就業場所の確保について
  2.   派遣元事業主は、労働者派遣契約の解除や不更新により派遣労働者の就業場所の確保ができない場合であっても、別の派遣先等の就業場所の確保を行うなど、派遣労働者の新たな就業機会の確保を図るよう要請されている。
     
  3. ② 雇用調整助成金を活用した休業等の対応について
  4.   就業機会の確保ができない場合であっても、雇用調整助成金を活用して、休業等を行うことにより雇用の維持を図るよう要請されている。
  5.   なお、雇用調整助成金とは、休業等により労働者の雇用の維持を図った場合に、それに要した休業手当等の一部を助成するものであり、新型コロナウイルス感染症の影響を受ける事業主に対する支給要件の緩和等の特例措置がすでに実施されている[2]
     
  6. ③ 社員寮等に入居している労働者の離職後の入居継続許可について
  7.   やむを得ず雇止め、解雇等をする場合であっても、社員寮等に入居している労働者については離職後の一定期間の入居について、できる限りの配慮に努めるよう要請されている。

 

3 本要請2の概要

 厚労省の経済団体に対する要請のポイントは、以下の3点である。

  1. ① 労働者の解雇、雇止め及び内定取消しの留意点の確認
  2. ② 派遣先企業における安易な契約解除・不更新の防止及び派遣労働者の新たな就業機会の確保
  3. ③ 社員寮等に入居している労働者の離職後の入居継続許可

 派遣労働者に関する要請については本要請1の内容と重複する部分があるものの、本要請2は、有期契約労働者等を雇用等する事業主に向けての要請である。

  1. ① 労働者の解雇、雇止め及び内定取消しの留意点の確認について
  2.   労働者の解雇及び契約継続につき合理的な期待を有する有期契約労働者からの労働契約の更新の申込みに対する雇止めについて、法令上、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合にはこれを行うことができないこと(労働契約法17条、19条)を改めて確認・周知した。
     
  3. ② 派遣先企業における安易な契約解除・不更新の防止及び派遣労働者の新たな就業機会の確保について
  4.   上記2①で述べたことに加え、派遣先企業の場合には、派遣労働者の雇用の安定を図るための措置が、法令[3]や指針[4]において明示的に定められていることが注意喚起された。
     
  5. ③ 社員寮に入居している労働者の離職後の入居継続許可
  6.   上記2③で述べたとおりである。

 

4 今後の対応

 本要請1及び本要請2は、企業からのいわゆる「派遣切り」[5]に対する相談が増加したことを踏まえて行われたものと考えられる。派遣労働契約の解除又は不更新や有期契約労働者等の解雇・雇止めに際しては、これが無効と解されるリスクがあるが、加えて、厚労省から具体的要請があるなかでは、ある種のレピュテーションリスクが高まっているともいえる。雇用調整助成金の特例措置等の支援体制は随時追加されているため、これらを有効に活用しつつ、慎重に対応することが求められると言えよう。

以 上



[3] 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号)第29条の2

  1.  「労働者派遣の役務の提供を受ける者は、その者の都合による労働者派遣契約の解除に当たつては、当該労働者派遣に係る派遣労働者の新たな就業の機会の確保、労働者派遣をする事業主による当該派遣労働者に対する休業手当等の支払に要する費用を確保するための当該費用の負担その他の当該派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置を講じなければならない。」

[4] 派遣先が講ずべき措置に関する指針(平成11年労働省告示第138号)第2の6(3)

  1.  「派遣先は、労働者派遣契約の契約期間が満了する前に派遣労働者の責に帰すべき事由以外の事由によって労働者派遣契約の解除が行われた場合には、当該派遣先の関連会社での就業をあっせんする等により、当該労働者派遣契約に係る派遣労働者の新たな就業機会の確保を図ること。」

 

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