◇SH1357◇日本企業のための国際仲裁対策(第50回) 関戸 麦(2017/08/24)

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日本企業のための国際仲裁対策

森・濱田松本法律事務所

弁護士(日本及びニューヨーク州)

関 戸   麦

 

第50回 国際仲裁手続の終盤における留意点(5)-ヒアリングその1

3. ヒアリング

(1) 当事者及び証人の出頭

 第46回の1項で述べたとおり、ヒアリングは重要な手続と認識されているため、ヒアリングを省略した仲裁手続は、当事者双方が同意しない限り認められない。第25回の1項で述べたとおり、国際仲裁手続の審理に関する二大原則の一つとして、主張立証の十分な機会付与の原則(Full Opportunity to Present Case)があるところ、その一内容として、各当事者がヒアリングで主張立証を行う機会の確保が求められている。

 そのため、ヒアリングに当事者が出頭することには重要な意味があるが、他方において、当事者が欠席した場合にヒアリングが行えないということではない。仮にヒアリングが行えないとなると、ヒアリングを欠席することによって、一方当事者が仲裁手続の進行を止められることになってしまい、ひいては敗訴することを回避できるという不合理な結果となる。

 仲裁機関の規則には、当事者が欠席した場合にも、ヒアリングが実施できることを明示的に定めているものがある(ICC規則26.2項、SIAC規則24.3項、JCAA規則46条2項)。但し、欠席に正当な理由が無いことと、欠席した当事者に対して呼び出しが適切に行われたことが前提とされている。すなわち、ヒアリングに出席する機会があったにもかかわらず、その機会を放棄したといいうる状況であることが必要とされている。

 証人予定者が欠席した場合も、ヒアリングは実施可能である。この点、IBA証拠規則は、事実証人(fact witness)について、出頭を求められた証人が正当な理由無く出頭しなかった場合には、当該証人の陳述書(witness statement)を、仲裁廷が例外的に別段の判断をする場合を除き、心証形成の基礎としてはならないと定めている(4章7項)。当該陳述書の証拠価値は、本来当該証人に対する反対尋問を通じて判断されるべきであった以上、その反対尋問が行えなかった場合には、原則として証拠価値を認めないという考えと解される。

 専門家証人(expert witness)についても、当事者が選任した専門家証人(party-appointed expert)については、正当な理由無く出頭しなかった場合について、その専門家意見書(expert report)を、仲裁廷が例外的に別段の判断をする場合を除き、心証形成の基礎としてはならないと定めている(5章5項)。

(2) 冒頭陳述

 ヒアリングの進行は、前回(第49回)において述べたとおり、一般的には、冒頭陳述(opening statement)から始まる。また、冒頭陳述の順序は、先に申立人から行い、次に被申立人が行うことが一般的である。

 冒頭陳述は、各当事者が、その主張内容と、ヒアリングにおける立証計画を仲裁廷に対して口頭で説明するものである。米国の民事訴訟のトライアルにおいても、冒頭陳述が行われ、そこで各当事者が説明する内容は同様に、主張内容と、トライアルにおける立証計画である。国際仲裁においても、また、米国の民事訴訟においても、ヒアリングないしトライアルの早い時期に、判断権者に良い印象を与えることが重要であると考えられており、冒頭陳述はそのための重要な機会と考えられている。冒頭陳述で、プロジェクターやスクリーンが活用されうることも、国際仲裁と米国民事訴訟において共通である。

 但し、両者の違いとしては、米国民事訴訟のトライアルでは、多くの場合判断権者が陪審員という法律の素人であるのに対し、国際仲裁における判断権者である仲裁人は、弁護士等の法律の専門家であることが多い。また、仲裁人は、第46回の1項で述べたとおり、ヒアリングの前から、当事者が提出する主張書面、書証、事実証人の陳述書、専門家証人の意見書を検討している。

 そして、国際仲裁では、冒頭陳述の際に、仲裁人から質問が投げかけられるという、仲裁人と当事者(代理人弁護士)との双方向のやり取りがある。米国の民事訴訟では、陪審員から質問が投げかけられることはない。このように、国際仲裁と米国民事訴訟とでは、冒頭陳述につきいくつかの違いがある。

 当事者(代理人弁護士)の視点からすると、冒頭陳述における仲裁人との双方向のやり取りは、仲裁人の関心の所在や、更には暫定的な心証を推測する機会として重要である。国際仲裁や訴訟といった強制力ある紛争解決手続においては、判断権者と当事者(代理人弁護士)との間で認識のズレが生じるおそれがあり、これが、放置されるといわゆる不意打ち的判断等の当事者からみて納得のいかない判断となる危険性が高まり、また、当事者(代理人弁護士)の時間と労力をかけた主張立証が、効果の薄いものとなりかねない。そこで、判断権者と当事者(代理人弁護士)との間で、何が重要な争点ないし勝敗の分水嶺であるかなどについて、できる限り共通認識を形成することが重要であり、日本の民事訴訟実務においても、昨今、これを目的とした口頭議論の活性化が強く意識されている。冒頭陳述における双方向のやりとりは、国際仲裁において、判断権者である仲裁人と、当事者(代理人弁護士)との間で共通認識を形成する貴重な機会であるから、冒頭陳述の準備及び当日の留意点の一つとして、この双方向のやり取りを効果的に行うことを筆者は意識している。

以 上

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