◇SH3771◇米国デジタルヘルス規制ガイド―米国デジタルヘルス市場参入指針として― 第7回・完 山田愛子(2021/09/30)

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米国デジタルヘルス規制ガイド
―米国デジタルヘルス市場参入指針として―

第7回・完

K&L Gates外国法共同事業法律事務所

弁護士・ニューヨーク州弁護士 山 田 愛 子

 

  1. 目 次
  2. Ⅰ はじめに
  3. Ⅱ デジタルヘルス事業者に適用される米国規制

    1. 1 HIPAA – 医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律
      (The Health Insurance Portability and Accountability Act of 1996)
    2. 2 その他個人情報保護に関する留意点
    3. 3 FDCA – 連邦食品・医薬品・化粧品法
      (The Federal Food, Drug, and Cosmetic Act)
    4. 4 HIPAAおよびFDCA以外の関連規制
  4. Ⅲ 米国外から米国デジタルヘルス市場に参入する場合の留意点

    1. 1 外国製造者に課される外国代理人要件(FDCA)
    2. 2 その他留意点
  5. Ⅳ 結び

 

Ⅲ 米国外から米国デジタルヘルス市場に参入する場合の留意点

 モバイルアプリ事業者その他IT企業が米国外に所在する場合、これまでに述べてきたデジタルヘルス規制に加え、外国製造者を対象とした規制をも検討・分析しなければならない。

1 外国製造者に課される外国代理人要件(FDCA  

 ⑴ 米国代理人要件の概要

 前述のとおり、モバイルメディカルアプリ事業者を含む医療機器製造者は、その施設を登録しかつ米国で上市する医療機器をFDA(連載第5回参照)の医療機器データベースに登録しなければならない。医療機器製造者が米国外に所在する施設において米国への輸出向け「モバイルメディカルアプリ」(医療機器)を製造、調製、宣伝、合成または処理する場合、当該外国製造者は施設登録手続の一環として、当該米国外施設のため米国代理人を選任しなければならない。

 ⑵ 米国代理人の適格要件

 米国代理人は、米国内に居住するかまたは米国内に事業拠点を有しなければならない。米国代理人は、その住所として私書箱を利用することはできず、また電話代行サービスを利用することもできない。米国代理人は、通常の営業時間中、電話対応可能な状態であるかまたはその従業員に電話対応させなければならない。

 ⑶ 米国代理人の責務

 米国代理人の責務は限定的であるところ、たとえば以下のものが挙げられる[65]

  1.   米国外施設とのやり取りについてFDAを支援する
  2.   米国に輸入されまた輸入予定の外国製造機器に関する質問に回答する
  3.   FDAによる外国製造施設査察を支援する
  4.   FDAが直接かつ迅速に米国外施設と連絡することができない場合、FDAは米国代理人に情報または文書を提供することができ、当該提供により当該米国外施設自身に当該情報または文書を提供したものとみなすことができる。

 米国代理人は、FDCA(連載第5回参照)が課す有害事象報告に関する責任や市販前承認申請・市販前届出手続に関する責任は負わない。外国製造者は、市販前承認申請や市販前届出を自身の名で実施しその保有者となることができ、かつ当該保有者として有害事象報告の責任を負うことになる。

 

2 その他留意点

 ⑴ 各州の規制

 米国のいくつかの州は、 医療機器の流通に関し、FDAによる連邦規制に加え州独自の許認可規制を設けている。当該規制は州ごとに多種多様であり、かつ医療機器の種類その他諸要素によって異なる。したがって、外国製造者はその医療機器を米国市場に流通させる際、FDAによる連邦規制に加え関連する州の許認可要件をも事前に検討・分析する必要がある。

 ⑵ 外資規制

 非米国企業を対象とした規制は厳格化の傾向にある。たとえば、2018年外国投資リスク審査現代化法(the Foreign Investment Risk Review Modernization Act of 2018(FIRRMA))[66]および財務省(the Department of the Treasury)の最終規則(final rule)[67]に基づく対米外国投資委員会(the Committee on Foreign Investment in the United States(CFIUS))の権限拡大・強化により、重要技術(critical technologies)[68]、重要インフラ(critical infrastructure)[69]または米国民に関する機微な個人情報(sensitive personal data)[70]にかかわる米国事業[71]に関しては、支配権を取得しない一定の投資(covered investment)[72]についてもCFIUSの審査権限が及ぶこととなった。デジタルヘルスの分野にでは、米国民に関する機微な個人情報(sensitive personal data)にかかわる米国事業への該当性の判断は特に注意を要するであろう。

 CFIUSへの届出が義務付けられている所定の場合[73]を除き、CFIUSに届出を行うか否かは企業の裁量による。もっとも、CFIUSの審査権限の範囲が広範かつ曖昧であり、かつクロージング後の取引も審査対象たり得ることに鑑みると、審査された取引が将来改めて審査の対象となることはない旨の確認(safe harbor clearance)を得るべく、クロージングに先立ちCFIUSに任意に届出を行うことが取引の安定性確保等の観点から適切な場合もあり得る。また、CFIUSへの届出において企業は、詳細な通知(notice)[74]のほか簡易な申告(declaration)[75]を選択することも可能であるが、CFIUSが簡易申告の審査ののち通知(notice)による届出を要請する権限等を有すること[76]に鑑みると、いずれの届出方式を選択するかについても取引の安定性確保等の観点から慎重な検討が必要といえる。

 

Ⅳ 結び

 これまで述べてきたとおり、米国のデジタルヘルス市場は連邦法および州法により様々な観点から規制されている。当該市場に参入する場合、これら多様かつ多層な規制について包括的かつ統一的な検討を行うことが重要である。さらにかかる規制は常に修正され流動的であり、このコロナ禍の緊急事態下においてその状況は特に顕著である。当該市場への参入を思案中の企業におかれては、これらの複雑かつ流動的な規制を遵守のうえ当該参入およびその後の事業展開を成功に導くため、当該規制を合理的かつ実務的に解釈および運用する必要がある旨留意頂きたい。

(完)

 

[67] 31 C.F.R. part 800. – 2020年2月13日発効

[68] 31 C.F.R. § 800.215.

[69] 31 C.F.R. § 800.214.

[70] 31 C.F.R. § 800.241.

[71]「TID U.S. business」と総称される。31 C.F.R. § 800.248.

[72] 31 C.F.R. § 800.211.

[73] 31 C.F.R. § 800.401.

[74] 31 C.F.R. § 800.501.

[75] 31 C.F.R. § 800.402.

[76] 31 C.F.R. § 800.407.

 


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(やまだ・あいこ)

K&L Gates外国法共同事業法律事務所 カウンセル
コーポレートM&A、データ保護、ヘルスケア・FDAのK&L Gatesグローバル実務グループに所属。クロスボーダーM&Aを含む企業間取引を主に手掛ける。データ保護などに係る国内外の法令遵守に関するアドバイスを含む、ライフサイエンス/ヘルスケア業界、テクノロジー業界等の規制対応にも従事。製薬会社、医療機器会社、バイオテクノロジー企業、IT企業など幅広いクライアントを代理。
1996年上智大学法学部国際関係法学科卒業、2000年弁護士登録(第一東京弁護士会)、2006年コロンビア大学ロースクール(LL.M)卒業、2007年ニューヨーク州弁護士登録。
Chambers Asia-Pacific Awards (ライフサイエンス-日本)においてNoted Practitioner (2018年)、Recognized Practitioner(2019年)と評される。

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