特定複合観光施設区域整備推進会議の取りまとめについて(4・完)
弁護士法人三宅法律事務所
弁護士 渡 邉 雅 之
8 カジノ事業者に係る公租公課(Ⅴ.カジノ事業者に係る公租公課等)
(1) カジノ事業者に係る公租公課の考え方
推進法12条及び13条は、国・地方公共団体が、別に法律で定めるところにより、納付金又は入場料を徴収することができるものとすると定めている。
また、附帯決議第 15 項においては、
- • 納付金を徴収することとする場合は、その使途は IR 区域の整備の推進の目的と整合するものとするとともに、社会福祉、文化芸術の振興等の公益のためにも充てることを検討すること
- • 制度設計に当たっては、依存症対策の実施をはじめ、推進法第 10 条に定める必要な措置の実施や周辺地方公共団体等に十分配慮した検討を行うこと
とされている。
さらに、「経済財政運営と改革の基本方針2017(骨太の方針2017)」(平成29年6月9日閣議決定)では、「追加的な歳出増加要因については、必要不可欠なものとするとともに、適切な安定財源を確保する。」とされている。
以上を踏まえて、カジノ事業者に係る公租公課の基本原則は以下のとおりとされた。
- ① カジノ事業からの収益については、幅広く公益に還元する。
- ② カジノに対する世界最高水準の規制を行うために発生する歳出増加については、安定財源を確保する。
- ③ 諸外国における公租公課の状況及び IR を取り巻く競争環境、上記①及び②の目的に照らして適切な負担水準とする。
(2) 諸外国における公租公課の種類・歳出先
諸外国におけるカジノ事業者に対する公租公課の種類は、大別して以下のとおりである。
GGR等に対する比例負担 |
カジノの粗収益(GGR:Gross Gaming Revenue)やスロットマシーンやテーブルの台数といった規模に着目してカジノ事業者に課す比例負担 |
定額負担(ライセンス料等) |
カジノ規制庁の一般行政コスト等を賄うことなどを目的として、ライセンス料等の名目で課される定額固定の負担 |
特定の行政経費に対する変動実費負担 |
個別の背面調査費用といった変動の大きい費用を賄うため、実費で徴収される手数料等 |
租税負担 |
法人税や消費税といったカジノ事業者が納付する租税負担 |
なお、諸外国によって課税の仕方が異なるため、単純に比較できないが、概ね20~40%台の実行負担率(手数料を除く)となっている[1]。
(3) 納付金
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ア 納付金の徴収の仕組み
上記(1)のとおり、カジノ収益については幅広く公益に還元するとともに、カジノに対する世界最高水準の規制を行うために発生する歳出増加については、安定財源を確保する必要がある。
この点、上記2のとおり、ライセンス料等の名目で課される定額固定の負担は、カジノ規制当局の一般行政コストに充てられている。一方、GGR等に対する比例負担は、一般財源として公益目的に使用する国が多い。
こうした諸外国の例も踏まえ、我が国の納付金についても、固定的なカジノ管理委員会の経費に相当する定額部分とともに、GGR 比例部分を合わせて一般財源として徴収することとすべきであるとされた。 -
イ 納付金の水準
我が国において、行政コストに対する定額負担を求めている例として、電波法に基づく電波利用料の例がある。これは、無線局全体の受益を直接の目的として行う事務の処理に要する経費(電波利用共益費用)については、毎年の予算で全ての無線局に納付を求めるものである。
この例に倣い、固定部分は、必要な行政経費に相当する額を賦課することとし、GGR 等比例部分については、諸外国では概ね 20~40%台の実効負担率(手数料を除く。)となると機械的には試算されるところ、こうした実効負担の比較や、IR を取り巻く競争環境を踏まえ、その水準を定めることとすべきであるとされた。
このように本取りまとめでは、具体的な課税率については提言がなされていないが、課税要件法定主義の観点から、実施法案の中においては具体的な税率を規定してく必要があると考える。 -
ウ 納付金の使途
諸外国のカジノ税等は主に一般財源に充当されていること、また、附帯決議第 15 項で「法第1条に定める特定複合観光施設区域の整備の推進の目的(観光振興、地域振興、財政の改善)と整合する」とともに、「社会福祉、文化芸術の振興等の公益のためにも充てることを検討すること」とされ、広範な使途が示されており、想定される収入額を大きく上回っていることも踏まえ、附帯決議の趣旨や、推進法の主目的である滞在型観光の実現といった観点を含め、一般財源として幅広く公益に用いることとすべきであるとされた。
この点、公益性を明らかにするために観光振興や文化芸術の振興等の特定財源とすべきとの意見もあるが、特定財源とすると、一部の団体の利権化につながるため妥当ではないと考える。
(4) 手数料
カジノの背面調査は、我が国に例のないものであり、必要に応じて、2次、3次とどこまでも追加調査を行うので、事業者の態様や申告内容により経費に大きな変動が予想される。
米国ネバダ州等においては、当該背面調査費用について、事業者から事前に見積った実費を徴収するとともに、最終的に余剰・不足分を清算することとしている。
そこで、免許・認可等の申請時に行う背面調査等の手数料は、諸外国に倣い、実費徴収(人件費、庁費、旅費、通信費、外部委託費等)とし、調査着手前に十分な額を徴収する仕組みとすべきである。
また、調査の進行に応じたきめ細やかな経費管理や、追加調査に要する費用等の的確な徴収を確実にするために十分な体制を整備すべきである。
なお、マサチューセッツ州は背面調査の調査単価を以下のとおり公表しているが、同州のゲーミング委員会は、背面調査の大半を外部委託していたため単価が高いものと考えられる。
プロジェクトマネージャー、コーディネーター |
395米ドル/時間 |
調査コーディネーター、マネージメント弁護士 |
320米ドル/時間 |
公認会計士、金融調査人 |
315米ドル/時間 |
国際会計士 |
405米ドル/時間 |
リサーチアナリスト、運営管理者 |
170米ドル/時間 |
我が国では、カジノ管理委員会の担当職員(弁護士や会計士などの任期付公務員を含む)が背面調査をするのが基本になると考えられるため、上記ほど高いレートにはならないと考えられる。
賦課対象 |
カジノ事業者(免許等) |
施設/土地所有者(免許等) |
関連機器等製造等事業者(許可等) |
主要株主(認可) |
調査対象者の範囲 |
申請者及びその役員、監査人、事業活動に支配的な影響力を有する者(出資、融資、取引関係者)、従業者、家族、交友関係のある者など、あらゆる関係者に対し、どこまでも徹底的な背面調査を実施 |
左記と同様 |
左記と同様 |
(申請者が法人の場合)左記同様
(申請者が個人の場合) 本人、家族、交友関係のある者等、あらゆる関係者に対し、どこまでも徹底的な背面調査を実施 |
(5) 入場料
上記6 (5) 参照。
(6) 国・地方の配分関係等
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ア 公租公課等の徴収について
納付金(GGR 比例部分)及び入場料の徴収については、地方消費税に倣い、国が一括徴収して認定都道府県等に払い込むこととすべきであるとされた。
なお、納付金(定額部分)については、カジノ管理委員会の経費に充てるため、国の歳入となる。 -
イ 公租公課等の配分
IR 区域の整備は国と地方がそれぞれの役割を果たすこととなっており、カジノ事業からの収益を国・地方がそれぞれ幅広く公益目的に用いるという観点から、納付金(GGR 比例部分)及び入場料の配分については、国・認定都道府県等の折半とすべきであるとされた。
この点、委員の中には、認定都道府県等が入場料を独自に定めることを認めるべきという意見があったが、上記6 (5) で説明したとおり、このような考え方は認めるべきではないと考える。 -
ウ 立地市町村等周辺自治体への配慮
附帯決議第15項においては、納付金を徴収する場合の制度設計に当たり、「周辺地方公共団体等に十分配慮した検討を行うこと」とされている。これを踏まえ、徴収された納付金や入場料を国から交付される認定都道府県等から、納付金の一部を立地市町村や周辺自治体等に交付できることとすべきである。
また、交付内容や方法については、認定都道府県等が作成する区域整備計画に記載することとすべきである。
なお、周辺自治体等は、納付金の一部を受領する可能性はあるが、認定都道府県等との間で地方自治法上の一部事務組合を組成して認定都道府県等となることはできないものと考える。
なぜなら、認定都道府県等はIR事業者の監督主体となるとともに、国(国土交通省)から監督を受ける立場となるところ、一元的な主体でないと責任の所在が明確化しないからである。
9 カジノ管理委員会(VI. カジノ管理委員会)
(1) 基本的な考え方
諸外国では、カジノに係る懸念への対処を含めた厳格な事業規範の確立や、その業務方法や財務活動について厳格な規制を事業者に課しており、これらを厳正に監督する専門の規制当局が設置されている。
カジノ管理委員会の権限の行使に当たっては、IR 推進・振興に関係する他の行政機関や利害を有するカジノ事業者等との関係を踏まえ、組織として独立性を有し、公正・中立な立場での意思決定及び手続等が求められる。
この点、推進法第11条においては、同委員会を「内閣府の外局」として置くことが規定され、かつ、附帯決議第13項においては、「独立した強い権限を持ついわゆる三条委員会として設置」することとされている。
そこで、カジノ管理委員会は、IR 推進・振興に関係する他の行政機関とは一線を画し、カジノに関する規制を厳格に執行する独立した行政委員会として位置付けるべきである。
(2) カジノ管理委員会が担うべき基本的機能
カジノ管理委員会の活動の全体像、及び担うべき機能については、以下のとおり整理された。
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①カジノ規制の企画立案等
カジノ規制の企画立案、実施法に基づく具体的なカジノ事業の規制ルール策定(カジノ管理委員会規則、カジノ事業者等に対する各種ガイドライン等) 等 -
②免許等による参入規制
カジノ事業者(代表者、役員、株主、監査人等を含む。)、土地/施設の所有者等、カジノ関連機器等製造等事業者等、指定試験機関等に対する厳格な参入規制と徹底した背面調査 等 -
③カジノ事業活動の規制
カジノ行為の種類・方法の制限、カジノ行為の不正防止のための措置、カジノ施設利用約款の認可、広告・勧誘の制限、コンプの規制、金融業務の限定、入場規制・本人確認、業務委託の制限、従業者の確認・届出、内部管理体制の整備、カジノ施設内関連業務の制限、秩序維持・苦情処理のための措置 等 -
④IR事業に関する規制の執行及びその廉潔性の確保
カジノ事業以外のIR事業の委託契約の認可及び委託先の背面調査、取引契約の認可及び取引契約先の背面調査、IR 事業に関する内部管理体制の監査等 -
⑤カジノ施設・機器等の規制
カジノ施設の数・規模、施設の構造設備、カジノ関連機器等の基準等、型式検定 等 -
⑥懸念への対応
依存防止対策、青少年の健全育成、マネー・ローンダリング対策等 等 -
⑦納付金等の徴収等
カジノ事業者からの納付金、カジノ管理委員会の背面調査の手数料等の適正な賦課・徴収・債権管理 等 -
⑧国民・利用者の声・違反行為の端緒の把握、国民への説明
苦情・相談窓口の設置、違法行為の通報受付、国会への法運用の状況報告 等 -
⑨国際連携
二国間のカジノ規制当局による MOU(Memorandum of Understanding:覚書)締結やカジノ規制当局の国際的な枠組みへの積極的な参画 等
(3) カジノ規制の実効性確保の方策
-
ア 基本的な考え方
カジノ管理委員会が、カジノ事業参入時、カジノ事業運営時、カジノ事業者等の違反発見時等の各局面で果たす主な役割は、以下のとおりである。 -
①カジノ事業参入時
カジノ事業免許申請時等における財務健全性等の審査、徹底した背面調査の実施により、カジノ事業者等としての適格性、廉潔性を確認。 -
②カジノ事業運営時
カジノ事業者等による各規制の遵守状況、事業の実施状況や内部管理体制等を、専門的な知見を活かし、継続的かつ機動的にチェック(情報収集・常時監視)。 -
③カジノ事業者等の違反発見時等
迅速な指導、カジノ事業等からの排除も含めた厳しい処分の積極的な運用。
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イ カジノ管理委員会の規制権限
カジノ管理委員会が担うべき機能を適時適切に、かつ、確実に果たすため、カジノ管理委員会に、①調査権限、②監査義務、③行政処分権限を設けるとともに、④金銭的不利益処分を導入すべきである。
また、カジノ管理委員会の職員によるカジノ施設の立入時において、職員が現場で対応できるような法制上の手当てを行うべきである(⑤)。 -
①調査権限
カジノ管理委員会は、役員、株主等関係者の背面調査やカジノ事業の規制等を行うことから、これらについて徹底した調査を行うため以下の法制上の権限を設けるべきである。 -
- • カジノ事業等に係る報告徴収及び資料の提出命令等
- • 職員によるカジノ施設等への立入検査
- • 公務所、公私の団体その他の関係者への照会
- • 外国規制当局との情報交換
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この調査権限は、弁護士法23条の2に基づく弁護士会の公務所または公私の団体に対する照会(弁護士会照会)に近いものになるものと考えられる。
国税通則法74条の2に基づく税務職員による税務調査に近いものになるとも考えられるが、税務調査による質問調査権はこれを正当な理由なく拒否すると罰則の対象となり得るところ、ここまでの権限をカジノ管理委員会に認められるかについては慎重な検討を要するだろう。
任意調査であるので、調査対象者はこれを拒否することができるが、拒否した場合には免許等の審査において不利になると考えられる。 -
②監査義務
カジノ事業者が各種の規制に従って事業を実施しているか、また、財務報告書等を適正に作成しているかを継続的に確認するため、カジノ管理委員会にこれらの確認を毎年行うことを義務付けるべきである。 -
③行政処分権限
カジノ事業者による義務履行を確保するため、業務運営・財産状況の改善命令のほか、カジノ事業者・従業者等が法令違反や公益を害する行為をしたとき、カジノ事業者等が行政処分やカジノ事業免許の付与条件等に違反したときその他公益上の必要性があるときのカジノ事業免許等の取消し、業務の全部又は一部の停止命令をカジノ管理委員会が行えるよう、これらに係る法制上の権限を設けるべきである。
行政処分については、仮の決定や命令といった枠組みも設けるべきとの意見もあった。 -
④金銭的不利益処分の導入
不正なカジノ行為等による経済的利得(いわゆる「やり得」)を許さないためには、改善命令等の行政処分に加え、他国のカジノ規制当局においても活用されている金銭的な不利益処分を導入すべきである。
金銭的不利益処分については、処分の実効性を確保するために、金融商品取引法上のインサイダー取引規制の課徴金のような不当な利益の没収だけでは不十分であり、行政制裁金的なものでなければならないと考える。 -
⑤カジノ施設立入時の対応
カジノ管理委員会の職員によるカジノ施設への立入時において、例えば、技術基準に適合しないカジノ関連機器等を発見したときに当該機器等の使用禁止を指示するなど、現場での対応が求められることから、これが可能となるよう法制上の権限を設ける必要がある。 - ⑥カジノ管理委員会の具体的な活動イメージ
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- (ⅰ) 背面調査
- • カジノ管理委員会は、Multi Jurisdictional Personal History Disclosure Form(カジノ事業免許の申請における共通確認事項)と同等の申請書様式を規定。
- • 申請者本人(法人を含む。)に、上記様式に従い自己申告させるとともに、必要な書類等を添付させた上で、カジノ管理委員会自身が調査を実施。
- • カジノ管理委員会は、申請者本人(法人を含む。)から背面調査に係る包括的な同意を得て、関係行政機関への照会を実施する等、綿密な裏付調査を実施。
- • 調査対象については、例えば、法人の役員本人だけでなく、その配偶者、被扶養者等の親族、仕事上密接な関係を有する者等、カジノ管理委員会が調査に必要と考える者は、全て対象。
- • 調査事項については、犯罪歴や暴力団との関係、刑事・民事訴訟の内容、雇用歴や学歴等の非財務事項及び資産情報、負債情報等の財務事項等を対象として、詳細に調査を実施。
- • 外国における財務事項の調査等専門的な知見を要する事項については、調査の外部委託等合理的と考えられる手法の活用も視野。
- (ⅱ) 免許等審査過程
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- • 免許付与等の判断を的確に行うため、カジノ管理委員会自身が免許申請者等から直接ヒアリングする機会を設けること等も視野。
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⑦米国ネバダ州における背面調査の実態
第3回推進会議に参考人として出席されたコナミホールディングス株式会社坂本専務取締役によれば、米国ネバダ州では以下のような背面調査が行われているとのことである。 -
- • 米国ネバダ州では、ライセンスの付与に当たって、ライセンスを申請する会社自体に対してのみならず、申請会社の取締役、執行役員、株主に対しても調査を行っている。
- • 申請会社への調査に関しては、組織構成、株主構成、他の国でのゲーミングビジネスの有無、訴訟歴、税務状況、財務状況等についての書類を提出している。
- • 個人への調査に関しては、調査の必要性があると判断した取締役、執行役員、株主には徹底的な背面調査が行われる。この調査は、本人だけでなく、家族、子供も対象となる部分があり、これまでの住居地や職歴、学歴、過去の住居地での犯罪証明等、多岐にわたっている。
- • 背面調査等にかかる費用については、申請者側の負担となっており、相当程度の金額が必要になる。
- • 米国ネバダ州では、製造ライセンスの更新が1年毎に行われる。
(4) 納付金の適正な徴収
納付金については、適正・確実な収益を確保するため、GGR の集計方法のルールをカジノ管理委員会が規定し、事業者に遵守させるべきである。
また、カジノ事業者における集計状況については、記録の保存や公認会計士等による監査を義務付けるべきである。
その他、背面調査の手数料等についても、カジノ管理委員会が確実に徴収できる措置が必要である。
(5) 外国規制当局等との連携
国際的な業種であるカジノ事業に関する規制行政を効果的・効率的に行うためには、外国規制当局との連携・協力が不可欠になることから、カジノ管理委員会が円滑に外国規制当局と情報交換できるための方策をとるべきである。具体的には、カジノ管理委員会と外国規制当局との情報交換の法的基盤の整備や、二国間のカジノ規制当局による MOU の締結、相互の交流による協力関係の構築が考えられる。
外国人株主等の調査については、外国規制当局(Nevada Gaming Control Board等)との連携は不可欠である。また、外国の当局が日本人の調査をする際にも、日本の官公庁は情報提供についてあまり協力的ではないのが実態であるので、外国規制当局に積極的に協力すべきであろう。
また、世界最高水準のカジノ規制を実施していくためには、諸外国の規制政策の動向に絶えず学ぶことが必要である。具体的には、International Association of Gaming Regulators(IAGR)等の国際的な枠組みへの積極的な参画等が考えられる。
(6) カジノ管理委員会の在り方
- ア カジノ管理委員会の構成等
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①委員の構成
委員長及び委員は、人格が高潔であって、カジノ管理委員会の業務について公正な判断をすることができ、かつ、高い識見を持つ者により構成する必要がある。具体的には、カジノ事業の特性を踏まえて考えていくべきである。 -
②国会同意等
委員長及び委員の任命に当たっては、国会同意を必要とすべきである。また、委員長及び委員の職務の公正性・独立性を確保する観点から、適切な任期を設定すべきである。 -
③委員会の透明性の確保・運営ルールの整備
カジノ管理委員会は、カジノ規制の運用状況について、ホームページ等により分かりやすく公表するとともに、国会に対し、適時適切に報告を行うべきである。また、委員会の運営ルール、意思決定プロセスを整備すべきである。 -
イ カジノ管理委員会の事務体制
シンガポールや米国ネバダ州の規制当局の組織構成を念頭に組織構成の検討を進めるべきである。 -
- • 免許審査・付与や法令遵守に係る監督部局
- • 背面調査等の調査部局
- • ゲーム技術の調査を含む基本政策の企画・立案部局
- • 人事・会計等の総務・管理部局
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ウ 専門的知見を有する人材の確保等
カジノ管理委員会が担うカジノ事業活動の規制の内容は、カジノ施設での職員の常駐監視、マネー・ローンダリング対策、カジノ施設・カジノ関連機器等の規制等、高い専門性と的確な執行が要求されるものとなる。このため、このような業務の特性に応じた専門性の高い人材の確保及び十分な組織・定員の整備が必要となる。そのために必要な方向性は以下のとおりである。 -
①関係機関との対等性、マンパワーの確保
カジノ管理委員会は IR の枠組みにおいて、いわゆる三条委員会として独立性を有し、IR 推進・振興に係る他の関係行政機関とは一線を画し、カジノに関する規制の厳格な執行や制度の企画立案等を行う立場にある。
したがって、カジノ管理委員会が、他の行政機関等と対等に協議・調整を行うためには、組織編成上も、他の関係行政機関と対等に位置付ける必要がある。
併せて、徹底した背面調査や綿密な監督事務、国際連携等の広範な事務を全うするため、十分な定員の確保が必要である。
外国のカジノ規制庁の人員は、米国ネバダ州が402名、シンガポールが約160名、マカオが327名、豪州ビクトリア州が215名となっている。
シンガポールの人数が少ないのは、カジノ(IR)の数が2つということもあるが、背面調査をほぼゲーミングコンサルタントに外部委託をして行っているためという実態が大きいと考える。
筆者としては、背面調査についてはノウハウの集積が重要であり、継続的な組織という面では、背面調査の外部委託をするのではなく、最初からカジノ管理委員会自らが行うべき体制をつくるため、シンガポールよりも多い300人規模くらいの組織が必要と考える。
これに対しては、他の委員から、「行革の時代に、何百人にもなる組織を作るのは前代未聞であり、民間に委託できる業務は民間に委託する等の対応が必要ではないか。」との意見もあった。 -
②人材の確保・トレーニング
カジノ管理委員会は、背面調査やカジノ事業者のオペレーション、財務・会計処理、カジノ関連機器等のチェック等の業務を、専門的知見をもって、的確に担うことができる人材を確保することが必要である。このため、法執行業務や税務・監査業務等の経験のある職員、弁護士、公認会計士、カジノ関連機器等の技術専門家等の専門的知見を有する人材の活用が必要である。
また、職員の専門的知見を向上させる観点からは、外国規制当局における研修・人材交流、カジノ規制等の研究機関への派遣等、職員に対する十分なトレーニングを実施すべきである。
我が国にはゲーミングの背面調査のノウハウがないことに鑑みると、Nevada Gaming Control Board等に職員を出向させることが必要だろう。また、ネバダ州立大学ラスベガス校(UNLV)のInternational Gaming Instituteでは、” Pre-Licensing Financial & Background Investigations”などの背面調査に関するオープンスクールが行われているので、このような所に職員を派遣することも考えられるだろう。 -
③カジノ管理委員会の厳正な内部規律の確保・行動規範等の確立
カジノ事業には大きな利害が絡むことから、これを規制するカジノ管理委員会自身においても、厳正な内部規律を確保する必要がある。特に、カジノ管理委員会の委員、職員等は、カジノ事業者等に関する機微にわたる情報を取り扱うことから、厳格な守秘義務を課すべきである。併せて、専担の監察部門を設けるなど、組織の廉潔性確保のための方策を取るべきである。
また、カジノ管理委員会のミッションに即した職員等の行動規範、評価基準を確立する必要がある。 -
④国際部門の充実
カジノ事業は国際的な業種であり、規制行政を効果的・効率的に行うためには、外国規制当局との連携・協力や国際的な枠組みへの積極的参画が不可欠であることから、体制面においてもこれらを担保する必要がある。
10 刑法の賭博に関する法制との整合性
(1) 刑法の賭博罪と保護法益
カジノ合法化において必ず検討しなければならないのが、刑法185条の賭博罪、同法186条1項の常習賭博罪、同条2項の賭博場開帳罪との関係である。
賭博罪(刑法185条)の保護法益について、判例は、賭博行為は、国民をして怠惰浪費の弊風を生ぜしめ、健康で文化的な社会の基礎をなす勤労の美風を害するばかりでなく、甚だしきは暴行、脅迫、殺傷、強盗罪その他の副次的犯罪を誘発し又は国民経済の機能に重大な障害を与えるおそれすらあるとしている(最大判昭和25年11月22日刑集4巻11号2380頁)。
(2) 賭博罪の違法性阻却の要件
刑法35条においては、「法令又は正当な業務による行為は、罰しない」と規定されており、法律の規定するところに従って行われる行為は、法令行為として違法性が阻却される。同条は、刑法以外の他の法領域で適法とされる行為が、刑法上も違法とされないことを確保する規定である。例えば、公営競技等は、政策的理由(財政上又は経済上の理由等)により、本来違法であるはずの行為につき違法性を解除している。
この点について、刑法を所管する法務省からは、
- ① いわゆる公営競技等は、特別法において、事業の公正性、公益性等を制度上十分に担保するよう努めており、カジノ規制の在り方についても、同様の配慮が必要と思われる、
- ② 公営競技等に係る特別法の立法に当たっては、これまで刑法を所管する法務省の立場からは、例えば、目的の公益性、運営主体等の性格、収益の扱い、射幸性の程度、運営主体の廉潔性、運営主体への公的監督、運営主体の財政的健全性、副次的弊害の防止等に着目し、意見を申し述べてきたところであり、カジノ規制の在り方についても、同様である、
- ③(上記②の)8つの諸要素は、刑法が賭博を犯罪と規定した趣旨と整合しているものであるかどうかを判断する上での考慮要素の例であり、刑法との整合性は、これらの要素の1つの有無や程度により判断されるべきものではなく、制度全体を総合的にみて判断されるべきものである
旨が説明されている。
(3) 民設民営のカジノは違法性阻却されるのか?
平成28年12月8日に参議院内閣委員会で大門実紀史議員から提出された法務省作成資料の中では、「目的の公益性」及び「運営主体の性格」について、「目的の公益性(収益の使途を公益性のあるものに限ることも含む)」、「運営主体の性格(官又はこれに準ずる団体に限るなど)」と記載されていた。
これは、「目的の公益性」としては「収益の使途が公益性のあるものに限られる」こと、「運営主体の性格」については「官又はこれに準ずる団体に限られる」ことを要求しているようにも読め、これが民設民営カジノ(正確にはカジノ施設を含む統合型リゾート)では8つの観点から賭博罪の違法性阻却が認められないとする主要な論拠となっていた。
しかしながら、平成28年12月8日の参議院内閣委員会における大門実紀史議員の質問に対する加藤 俊治 政府参考人 (法務省大臣官房審議官)の答弁において、刑法の所管官庁である法務省としては、①「目的の公益性」に関して「収益の使途の公益性」は一例でこれに限定されないこと、②「運営主体の性格」に関して「官又はこれに準ずる団体」であることは一例にすぎないことが明らかになった。
この点について、筆者は、第8回推進会議において、菊池法務省大臣官房審議官に確認したところ、同審議官からは、「御指摘いただいたペーパーの中で、括弧書きで「官又はそれに準じる団体に限る」といった記載がございますのも、既存の公営競技等において、例えば、運営主体が官またはそれに準ずる団体に限られているということを踏まえてそのように規定したものでございまして、いずれも各考慮要素のいわば例示でございますので、括弧書きにあるものしか許容されないという意味で記載したものではございません。この8つの考慮要素の関係にいたしましても、例えば、運営主体の性格とか収益の扱いについても、6番目に掲げられている運営主体の公的監督と併せて考えなければいけないものだろうと思いますので、そのように理解しているところでございます。」との回答があった。
また、菊池審議官からは、「民間が主体であることのみをもってして直ちにそれが許容されなくなるというものではないだろうと思います。他の仕組みも総合的に考慮して判断する必要があるだろうと思います」との回答もあった。
以上のとおり、審議会の議論の中で、8つの要件等を満たす場合は、我が国の刑法の下においても民設民営のカジノが認められ得ることが明らかになった。
(4) 推進会議における違法性阻却の検討
推進会議においては、以下のとおり、8つの考慮要素を含めて、本取りまとめにおいて提言されているIR 制度・カジノ規制全体を総合的に考察・評価した結果、今後、政府において、下記①~⑧の点を踏まえて制度設計を行えば、全体として、刑法の賭博に関する法制との整合性は図られていると考えるとした。
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11 結語
推進会議には、集中的に非常に中身の濃い検討がなされた。
IRの導入反対派の意見にも相当程度留意しながら制度設計を検討している。特にギャンブル依存症等への懸念を払拭する制度設計は入場回数制限やマイナンバーカードを用いた本人確認など非常に厳しい制度設計をしている。
他方、カジノ面積の制限や入場回数制限、マイナンバーカードを用いた本人確認については、事業者側からは収益性に影響を与えるとの不満が寄せられているところである。しかしながら、上記10で説明したとおり、「射幸性の程度」や「副次的弊害の防止」といった違法性阻却の要件を満たすためには、厳格な措置を導入せざるを得ないことについて理解をして欲しい。
公聴会、パブリックコメントを経て、「世界最高水準の規制」である実施法案が政府により国会に提出されることを期待したい。
[1] 推進会議第6回資料1「カジノ事業者に係る公租公課等について」8頁
(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ir_promotion/ir_kaigi/dai6/siryou1.pdf#page=9)