経産省、グレーゾーン解消制度に基づき
民泊へのフロント設置義務に関する旅館業法上の取扱いを明確に
岩田合同法律事務所
弁護士 羽 間 弘 善
経済産業省は、事業者から、産業競争力強化法に基づく「グレーゾーン解消制度」に基づいて、コンビニエンスストア等にチェックインポイントを設け、そこで入手した電子鍵により玄関の鍵の開閉を行うスマートロックを活用した民泊サービスとして簡易宿所営業の許可を受けるに当たって、旅館業法施行令上、その宿泊施設に玄関帳場(フロント)の設置が義務づけられるかとの照会が行われたのに対して、同法施行令において、玄関帳場(フロント)の設置基準は設けられていないことから、都道府県等が条例で定めた場合を除き、設置を義務づけるものではない旨の回答を行った。
近年、住宅(戸建住宅、共同住宅等)の全部又は一部を活用して、宿泊サービスを提供する、いわゆる「民泊」がインターネットを通じ急速に普及している。
「民泊」については、急増する訪日外国人観光客のニーズや大都市部での宿泊需給の逼迫状況への対応や、地域の人口減少や都市の空洞化により増加している空き家の有効活用の観点から、その必要性が叫ばれている。他方で、民泊を有償にて反復継続して行う場合、我が国においては旅館業法に基づいて都道府県知事等より許可を取得する必要があり、それにもかかわらず許可を得ずに実施される違法な民泊が広がっている点について問題視されてきた。
この問題に対応するため、旅館業法上の簡易宿所営業の取得要件の緩和が行われ、同法上の許可の取得促進が行われてきた。具体的には、平成28年4月1日より、同法施行令が改正され、従前、簡易宿所営業の客室延床面積は33㎡以上とされていたところ、宿泊者数を10人未満とする場合には、宿泊者数に応じた面積基準(3.3㎡×宿泊者数以上)とするよう緩和された(同法施行令第1条3項参照)。
また、同法施行令の改正に伴い、旅館業における衛生等管理要領(「公衆浴場における衛生等管理要領等について」(平成12年12月15日付け生衛発第1811号厚生省生活衛生局長通知)についても改正された。具体的には、簡易宿所営業の許可を与える際に、運用上、玄関帳場(いわゆるフロント)やそれに類する設備の設置義務が定められていたが、これを緩和し、 玄関帳場を設置することが望ましいとした上で、①玄関帳場等に代替する機能を有する設備を設けることその他善良の風俗の保持を図るための措置が講じられている場合、又は、②事故が発生したときその他の緊急時における迅速な対応のための体制が整備されている場合、宿泊者数が10人未満の施設については、玄関帳場等の設置義務がないことが定められた。
今回の経済産業省の照会回答は、かかる法令改正の経緯を踏まえ、旅館業法施行令の解釈としては、玄関帳場(フロントの)設置義務はなく、都道府県等が条例によって定められるべき事項であることを明らかにし、民泊事業を行おうとする人々の予測可能性を高めた点に意義がある。
民泊については、この他にも、国家戦略特別区域法13条に基づく都道府県知事等の認定により、旅館業法の適用が除外される区域(いわゆる「民泊特区」)が設けられるなど、規制緩和による民泊の推進が図られている(この点については、SH0744 ピクセル、書類送検に関するお知らせ 泉 篤志(2016/07/26)を参照されたい)。