◇SH0809◇冒頭規定の意義―典型契約論― 第13回 冒頭規定の意義―制裁と「合意による変更の可能性」―(10) 浅場達也(2016/09/23)

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冒頭規定の意義
―典型契約論―

冒頭規定の意義 -制裁と「合意による変更の可能性」-(10)

みずほ証券 法務部

浅 場 達 也

 

Ⅱ 冒頭規定と制裁(2) ―請負契約を例として―

(2) 役務を提供する契約に対する制裁の働き

 図4 印紙税法の制裁と請負契約書

 図3で示した制裁が、請負契約書(4-②)に対してどのように働くかについて示したのが図4である。4-①の過怠税のリスクを回避・最小化するために(4-③)、契約書作成者は、適切な印紙を貼付する(4-④)だろうが、それと同時に、民法632条をそのまま組み入れた(4-⑥)請負の成立要件に関しても、リスク増大の可能性を回避するように行動するだろう(4-⑤)。

 ここまでは、図2の金銭消費貸借と同じである。ところが、4-⑥における請負の要件が「仕事の完成」と「結果に報酬」というやや抽象的なものであるため、ここでのリスクは、金銭消費貸借とはかなり異なる働き方を見せる。次の印紙税法の解説は、「仕事の完成を約し、その結果に報酬を支払う」という要件が、対価を得て一定の役務を提供する契約に対して、広汎に適用されていくことを示している[1]

「このように一部に請負の事項が併記された契約書又は請負とその他の事項が混然一体と記載された契約書は、印紙税法上請負契約に該当することになり、民法上例えば委任契約に近いといわれる混合契約であっても、印紙税法上は請負契約としてとらえられるものも生ずることになります。
請負の目的物には、家屋の建築、道路の建設、橋りょうの架設、洋服の仕立て、船舶の製作、車両の製作、機械の製作、機械の修理のような有形のもののほか、シナリオの作成、音楽の演奏、舞台への出演、講演、機械の保守、建物の清掃のような無形のものも含まれます。」(下線は引用者による)

 通常「請負」から想起される「家屋建築」等の他に、「洋服の仕立て」など比較的小型なものの作成、そして、「舞台出演」等の無形のものも含まれるとしている。すなわち、対価を得て一定の役務を提供する契約が広く含まれている。この根拠として、印紙税法の規律である「通則2」がある。以下で引用しておこう[2]

 

課税物件表の適用に関する通則 2
一の文書でこの表の2以上の号に掲げる文書により証されるべき事項又はこの表の1若しくは2以上の号に掲げる文書により証されるべき事項とその他の事項とが併記され、又は混合して記載されているものその他一の文書でこれに記載されている事項がこの表の2以上の号に掲げる文書により証されるべき事項に該当するものは、当該各号に掲げる文書に該当する文書とする。(下線は引用者による)

 

 1つの文書において、ある部分が印紙税法上の課税文書に該当する場合、他の事項が併記されたり混合して記載されていても、当該課税文書として扱うことが規定されている。このため、「仕事の完成」と「結果に報酬」という内容を持つ契約書は、印紙税法上、「請負契約書」として扱わなければならないことになる。そして、この要件が社会のさまざまな役務を提供する取引を包摂しうるがゆえに、印紙税法上の「請負」は、広く混合契約にその適用範囲を及ぼしていくことになるわけである。上の印紙税法の解説でいえば、「シナリオ作成契約」「舞台出演契約」(4-⑦)等がこれに当たるだろう。過怠税を課されるリスクが存在し(注[1]の引用文は、「シナリオ作成契約」「舞台出演契約」等を印紙税法上の「請負」としており、そのリスクは極めて高いといえよう)、そのリスクを回避・最小化するためには、これら契約を印紙税法上の請負と認め、適切な印紙を貼付する必要性が生ずる。こうした状況のもとでは、例えば、契約の名称や要件に変更を加え、「請負」とは異なるような体裁を付する行為に対して、印紙税納付義務を潜脱しようとしているのではないか、との疑いが向けられる(4-⑧)。そのようなリスクを回避・最小化するためには、これら契約の内容が「一方が仕事の完成を約し、他方が結果に報酬を支払う」というものである以上、印紙税法上の請負に該当することを認めた上で、適切な印紙を貼付することが必要となる(4-⑨)。こうした印紙貼付に到る流れを当事者の合意によって排除することは困難であろうから、別の表現を用いれば、当該契約が「部分的にせよ請負たらざるを得ない」といってもいいだろう[3]



[1] 小高・前掲第12回注[2] 192頁を参照。

[2] 小高・前掲第12回注[2] 437頁を参照。

[3] ここでの「冒頭規定の内容を持つ契約が(部分的にせよ)○○契約であることを当事者の合意で排除することは難しい」という規律は、混合契約論・複合契約論において、出発点として重要だろう。【来栖三郎博士の記述(3)】及び【鈴木祿彌博士の記述(2)】への本稿からのコメント(3 2. 及び 3. )を参照。

 

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