◇SH1426◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(16)-合併会社のコンプライアンス② 岩倉秀雄(2017/10/10)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(16)

――合併会社のコンプライアンス②――

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、合併組織のコンプライアンスに関する筆者の問題認識を述べた。

 合併組織は、単一組織に比べて、組織文化の違いによるコンフリクトが発生しやすくなっており、かつコンフリクトの顕在化を制御する統制力(公式権限や調整メカニズム)が十分に機能していないので、コンフリクトの顕在化によるマネジメントの困難度が高いために、コンプライアンスの浸透・定着が難しいことを、筆者の合併組織における初代コンプライアンス部長の経験や組織文化研究会のメンバーの生の声を踏まえて報告した。

 今回は、マーチ&サイモン(J.G., March, & H.A., Simon, Organizations, New York, 1958.(J. G. March, & H. A. Simon(土屋守章訳)『オーガニゼーションズ』(ダイヤモンド社、1977年)))のコンフリクトの発生メカニズムに関する研究を踏まえて、どうすればマネジメントの困難性を減じてコンプライアンスを組織文化に浸透・定着できるのかについて、筆者の理論的考察を述べる。[1]

 

【研究の視点】

 これまで述べたように、合併組織ではコンフリクトが発生しやすくコンフリクトの顕在化を制御する統制力が十分に機能発揮できないので、コンフリクトが顕在化しやすく、一定の歴史を持つ単一の組織に比べてマネジメントの困難度が高い。(マネジメントの一種である、コンプライアンスの組織内への浸透・定着も難しい。)

 筆者のマネジメントの困難度を減ずるためのアプローチは、次の2方向からとらえる。

  1. A: コンフリクトの発生そのものを抑える
  2. B: コンフリクトが発生しても、組織内に統制力(公式権限や調整メカニズム)を働かせて、コンフリクトの顕在化を抑制する

 筆者は、この一方又は両方向からのアプローチが、マネジメントの困難度(コンフリクトの顕在化)を減じ、コンプライアンスを組織内に浸透・定着させるために必要であると考える。

 コンフリクトは、マーチ&サイモンによれば、「個人もしくは集団が、行為の代替的選択肢の中から1つを選ぶのに困難を経験する原因となる意思決定の標準的メカニズムの故障」のことであり、個人でも組織の内部においても組織間においても発生する(前掲、マーチ&サイモン、169頁)としている。

 組織の中での集団間コンフリクトの必要条件は、個人コンフリクトが存在しないことに加えて、「組織の参加者の間で積極的な共同意思決定の必要感が存在すること」と「目的の差異か現実についての知覚の差異のどちらかないしはその双方が存在すること」であるとしている。(前掲、マーチ&サイモン、183頁)

 そして、「共同意思決定の必要感はスケジュール的・資源的に相互依存性が大ほど大となり、目的の差異は組織目的の主観的操作性が小であるほど大となり、知覚の差異は情報源の数や情報処理チャネル数が大きいほど大となる」としている。(前掲、マーチ&サイモン、193頁)

 これに対して、筆者は「コンフリクトの顕在化」と「統制力」の概念を用いて「コンフリクトとマネジメントの困難度」の関係について考察する。

 すなわち、コンプライアンスを組織内に浸透・定着させると言うマネジメントの困難度は、組織内でコンフリクトの顕在化が大きい場合に発生する現象であり、コンフリクトの顕在化を減ずることがマネジメントの困難度を下げ、コンプライアンスの浸透・定着を容易にする。そのためには、コンフリクトの発生源を減ずるか消滅させる(Aの方向)、あるいは組織における公式権限や調整メカニズムである統制力を働かせてコンフリクトの顕在化を抑制ないし防止する(B方向)ことであると、考える。

 合併組織では、一定の歴史を持つ単一の組織に比べて、組織文化の違いや、共同意思決定の必要性が高いにもかかわらず組織成員間に目的の差異や知覚の差異、あるいは両方が大きく、そのためにコンフリクトが発生しやすいだけではなく、組織内の統制力(公式権限やそれ以外の非公式な調整メカニズム)が、十分に確立されていない。そして、統制の裏づけである公式権限や公式の調整メカニズムがあったとしても、その機能が効果的に発揮されるために必要な共通の組織文化や相互信頼関係が確立されていないことから、コンフリクトが顕在化しやすくマネジメントの困難度が高くなると言える。

(次回に続く)



[1] 今回「合併組織のコンプライアンス」を論述するにあたり、筆者は、自身のこれまでの研究(岩倉秀雄『組織連合体の環境適合戦略』(青山学院大学大学院国際企業戦略研究科修士論文、1994年)、岩倉秀雄「協同組合組織の環境適合戦略」日本中小企業学会編『中小企業21世紀への展望』(同友館、1999年)、岩倉秀雄『コンプライアンスの理論と実践』(商事法務、2008年))を再考察した。

 

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