改正民法の「定型約款」に関する規律と諸論点(8・完)
弁護士法人三宅法律事務所
弁護士 渡 邉 雅 之
弁護士 井 上 真一郎
弁護士 松 崎 嵩 大
9 定型約款に関する経過規定(改正法附則1条2号・附則33条)
(施行期日)
- 第1条 この法律は、公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
- 一(略)
- 二 附則第33条第3項の規定 公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日
-
三(略)
(定型約款に関する経過措置)
- 第33条 新法第548条の2から第548条の4までの規定は、施行日前に締結された定型取引(新法第548条の2第1項に規定する定型取引をいう。)に係る契約についても、適用する。ただし、旧法の規定によって生じた効力を妨げない。
- 2 前項の規定は、同項に規定する契約の当事者の一方(契約又は法律の規定により解除権を現に行使することができる者を除く。)により反対の意思の表示が書面でされた場合(その内容を記録した電磁的記録によってされた場合を含む。)には、適用しない。
- 3 前項に規定する反対の意思の表示は、施行日前にしなければならない。
改正民法は、公布の日(平成29年6月2日)から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日から施行されるものの(改正附則1条本文)、定型約款に関する規律は、施行日前に締結された定型取引についても適用される(改正附則33条1項)。
ただし、定型取引の当事者の一方(契約又は法律の規定により解除権を現に行使することができる者を除く。)により反対の意思の表示が書面でされた場合(電磁的記録による場合を含む。)には、定型約款に関する規律は適用されないことになる(同条2項)。この反対の意思表示は、「改正法の公布の日から起算して1年を超えない範囲内で定める政令で定める日」(改正附則1条2号)からすることができ、施行日の前までにしなければならない(同33条3項)。
契約又は法律の規定により解除権を現に行使することができる者については、定型約款に関する規律の適用を受けたくない場合には、契約を解除すればよいため、定型約款に関する規律の適用に対する反対の意思表示が認められていないものと解される。ただし、何らの負担もなく自由に解除権を行使できる場合に限られるわけではなく、違約金や解約清算金等を支払わなければ解除できないような場合であっても、解除権を現に行使できることに変わりはなく、定型約款の規律の適用に対する反対の意思表示は認められないとする指摘もある。[1]この考え方に従えば、相手方が違約金や解約清算金等を負担しても解除ができない契約は限定的であると思われ、相手方から定型約款の規律の適用除外を求められるケースはあまり考えられないように思われるが、仮にそのような契約がある場合に相手方から反対の意思表示を受けるのを避けたいのであれば、相手方に解除権を与える旨の規定を追加する約款の変更をしておくことが考えられる。
10 結語
以上のとおり、本稿においては、改正民法における定型約款に関する規律について検討してきた。
定型約款に関する議論はまだ未成熟であり、今後の解釈に委ねられるところが多いが、本稿がその一助となれば幸いである。
以 上