◇SH1513◇実学・企業法務(第96回) 齋藤憲道(2017/11/27)

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実学・企業法務(第96回)

第3章 会社全体で一元的に構築する経営管理の仕組み

同志社大学法学部

企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

4. コンプライアンス

(3) コンプライアンスの確保に有効な手段

③ 内部調査力の強化
 企業内で不祥事を察知した場合は、事実関係を明らかにして問題点を整理し、適切な是正措置と再発防止策を講じることが必要である。ところが、実は、この事実関係の調査が難しい。

 次に、内部調査の力を強化するための留意事項を例示する。(筆者の体験を基に作成)

 ㈠ 調査に着手するまでの段階

  1. 1 案件対応の最高責任者・意思決定関与者・調査責任者・報告体制・運営体制を決める
  2. 2 最高責任者と調査責任者が協議して、「最終調査報告書」の取り扱い方を決める
  3. 3 担当部門を決め、メンバー編成を行う
    担当部門: 取締役会、監査部門、該当部門、特別プロジェクト等
    メンバー: 社員だけで編成するケース、社外の専門家・弁護士を加えるケース
    (注) 実務に精通して、勘が働く正義漢を、是非、メンバーに加えたい。
  4. 4 監査役、監査委員会等との関係(どの段階で情報提供するか等)を整理しておく
  5. 5 内部調査の実施がもたらすリスクに備え、業務・広報の対応体制を整える
  6. 6 重大案件・専門的案件の場合は、社外の専門家を選んで依頼する
  7. 7 法人処罰がある場合(独禁法違反、関税法違反、贈賄等)は、外部弁護士と調査方法を相談する
    通常は、個人被疑者(役員、従業員)と会社の立場が対立するので、調査方針の確立が必要
     起用する弁護士(法律事務所)、弁護士費用負担、当局の捜査への協力のあり方
    (注) 米国の司法取引・英国DPA[1]等では、会社と個人(役員、従業員)の意向が異なり得る
     

 ㈡ 調査中の段階  〔調査の手法〕

  1. 1 案件に関する情報が漏洩した場合の影響を分析し、事前に手を打つ(Q&Aを含む)
  2. 2 社外の調査対象者は、世間に知られてよい段階になって聴取する(広報Q&Aを準備する)
  3. 3 常に、内部告発があることを想定して調査を進める

 (ケース1)内部通報が真実であり、不正はすべて日本国内と判明した場合の対応

  1. A. 被疑者Xに直接確認した結果、Xが認めた場合
    1 就業規則に基づく社内処分、損害賠償、刑事告訴・告発
  2. B. 被疑者Xに直接確認した結果、Xが否定した場合
    1 証拠・証人を再検証して、法廷での反証に耐えることを確認する
      内部者の思い込みによる誤った判断を無くすために、外部弁護士の起用を考える。
    2 損害賠償請求、告訴・告発する方針を再確認する
    3 広報対応の準備を特に慎重に行う(Xがマスコミを通じて反論することもある)

 (ケース2)不正行為の一部(又は、全部)が海外の子会社で行われた時の留意点

  1. 1 外国の調査体制を整備する(その国の常識の範囲内で)
    その国の中で協力者(情報提供者、世論形成者)を確保する
     その国の捜査当局からの協力が得られるように説明を尽くす
     (注1) その国の弁護士が味方になるとは限らない(地元当局への忠誠を優先する)
     (注2) 日本人が調査の前面に立つことの是非を見極めて行動する
  2. 2 証拠の散逸を止める
  3. 3 日本の警察・検察は海外に出ようとしないことを前提とする(捜査権限は国境の内側)
    国際捜査共助に関する法律・条約の有無、適用の可否を確かめる

 〔情報の収集・取り扱い〕

  1. 1 証拠を厳重に収集、保管、分析する(電子情報は要注意。必要があれば専門家を起用する。)
    不用意に本人に迫ると、証拠を隠滅される
  2. 2 事情聴取するときは「自分に不利な事は話さない」「無意識に隠す」と心得る   
  3. 3 参考人として聴取する者も「共犯の可能性がある」ことを前提にして、聞く
  4. 4 現場で、現物に当たると、真実が見えてくる
    着服した金が生活に反映される(暮らしが派手になる、借金を返済する等)
    文書(契約書を含む)偽造、印鑑の不正使用・偽造、不正なデータ入力等
  5. 5 決算書類・伝票の数字(金額)から、カネ・人・モノ・情報の動きを読み取る
  6. 6 体験に基く「証言」か、他人からの「伝聞」か、を区別する

 〔実施すべきこと〕

  1. 1 違法行為を発見したら、次の違法行為を止める(知った後は、故意の刑事犯になる)
  2. 2 自社の証人・鑑定人を選んで、確保する
     

 ㈢ 調査終了時以降の段階

  1. 1 広報(社外、社内)の準備をする
  2. 2 再発防止策(暫定、恒久)を講じる
    組織、態勢、担当者、商品設計、業務プロセス等を変える
  3. 3 就業規則に基づく社内処分、刑事告訴・告発等を行う


[1] Deferred Prosecution Agreement(訴追延期合意)

 

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