◇SH2672◇シンガポール:フェイクニュース規制の導入 松本岳人(2019/07/17)

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シンガポール:フェイクニュース規制の導入

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 松 本 岳 人

 

 2019年5月8日、シンガポールの議会においてフェイクニュース等を規制する新たな法律案Protection from Online Falsehoods and Manipulation Act(以下「POFMA」という。)が可決し、6月25日に公布された。オンライン上のフェイクニュースや偽情報は、その拡散力から社会に深刻な悪影響を与える可能性があり、規制の必要性が検討される一方で、表現の自由を侵害するとの懸念もあり、規制のあり方について議論があるところである。欧州など既に規制が進んでいる国もあり、日本でも総務省の「プラットフォームサービスに関する研究会」において規制のあり方についての議論が進んでいる。本稿では、これらの諸外国の規制状況も踏まえてシンガポールにおいて新たに制定されたPOFMAの概要について紹介する。

 

1. 規制対象表現

 POFMAは、シンガポールにおける電子的なコミュニケーション手段による虚偽の「事実」(fact)の陳述を規制対象としている。そのため、個人の「意見」(opinion)を規制するものではないとされる。

 また、規制対象である電子的なコミュニケーションには、インターネット上で一般に公表されるものだけでなく、MMSやSMSによる個人間、グループ間での通信も含まれている。

 

2. 規制対象行為

 虚偽の事実であることを知り又は虚偽であると判断する十分な根拠がありながら、シンガポールの安全保障、公衆衛生、平穏、金融、国際関係等に偏見を与えるおそれのある事実、選挙の結果に影響を与えるおそれのある事実、異なるグループ間の対立や憎悪をあおるおそれのある事実、政府の機能低下をもたらすおそれのある事実などを陳述することが禁止されている。これらに違反した場合には、最大で、10年以下の禁固若しくは10万シンガポールドル以下の罰金又はその両方が科せられる可能性がある。

 また、虚偽の事実陳述をさせる自動化コンピュータプログラム(BOT)を作成する行為や虚偽の事実の陳述を誘因する行為なども規制対象とされている。

 

3. シンガポール政府の権限

 オンライン上で虚偽の事実陳述がなされている場合、シンガポールの関係当局としては、事実の訂正の指示又は中止の指示をすることができる。また、当事者がそれに従わない場合には、シンガポールメディア開発庁を介して、インターネットアクセスサービスプロバイダーに対してアクセスをブロックするための合理的な措置をとるよう命令することも認められている。

以上

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