コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(34)
―あるべき組織になるために、我々は何をするべきか―
経営倫理実践研究センターフェロー
岩 倉 秀 雄
前回は、運動の第2ステップである「『新生・○○』を考える」のサブテーマのうち「組織の社会的存在意義は何か」、「組織の事業は社会のニーズに応えているか」、「組織は魅力ある存在になっているか」について述べた。今回は、その続きとして「総合的に見て一番望まれる組織の姿は何か」、「それを実現するための課題は何か」に関する職場討議結果を述べる。
【あるべき組織になるために、我々は何をするべきか】
組織を根底から変える組織文化革新を進める場合、時には抽象的なテーマの推進も避けて通れない。現場の推進事務局は、どう討議を進めるべきかについて苦しんだ(後述する)が、筆者は、組織の未来を全員参加の職場討議で考え共有しようとした。
不祥事発生組織の組織文化革新は、「あれが悪いからこう変えるべきだ」と上からの指示命令だけでは、最初は受け入れたとしても、次第に「やらされ感」がつのり成功しない。
また、反省だけでも推進のエネルギーは生まれない。反省を踏まえ、今後どうするかを全員で考え共有化し前に進む必要がある。
運動の第2ステップ「『新生・○○』を考える」の後半の議論は下表のとおりであった。
表.運動の第2ステップ「組織のあるべき姿」の議論(後半)
(前回に続きチャレンジ「新生・○○」運動NEW No.2を基に筆者がまとめた)
第2ステップの統一テーマ:「新生・○○」を考える
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サブテーマ
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討議結果
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総合的に見て一番望まれる組織の姿は何か
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① 組織理念が明示され共有されている組織
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(これまでの討議で、組織は「酪農家と生活者の懸け橋」になるべきであるとされ、従来の標語「酪農民の心を心として」に替わる新たな組織理念と行動規範を作成することになった。)
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② 酪農を啓蒙・普及し、高度な専門情報を発信する組織
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(酪農家の酪農へのロマンを代弁しその素晴らしさを社会に訴えるとともに、一人一人の職員が高度な専門知識を持ち酪農家、流通、生活者に独自の商品・サービスを提供する。また、行政に会員農協・酪農家・生活者の声を届け、社会の進歩に役立つ。)
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③ 内外に開かれ、情報公開や地域社会との交流が活発に行われる組織
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(酪農家と生活者の懸け橋になるためには、情報が活発に導入・発信される開かれた組織でなければならない。酪農も工場も地域とかかわりが深いので、情報公開、工場開放、地域活動への参加等、地域との交流を積極的に行う。)
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④ 人を大切にし、多様な価値観や個性を尊重する自由な雰囲気の組織
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(今回の事件で、社会常識の働かない閉鎖的で縦割りの組織風土や人事システムの不備が反省され、一人一人が命令に盲目的に従うのではなく、自分で考え行動する重要性を認識した。討議により、組織に働く全ての人が自由に発言でき、互いに個性を尊重し、コミュニケーションが円滑で、責任の所在が明らかな組織になりたいことが確認された。)
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組織のあるべき姿を実現するための課題は何か
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① 組織理念と行動規範を明示して浸透させる
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(そのためには、会長以下役員が、経営理念と行動規範の重要性を認識しあらゆる機会を通じて職員に訴えるとともに、研修により徹底的に共有化する。組織の意思決定や業務上の判断が、理念と行動規範の視点から行われることを習慣化する。)
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② 専門能力が評価され、情報創造・発信力が高い組織になる
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(人も組織も高い専門性を持つために、まず組織が専門能力を評価し承認を与える。次に、計画的・組織的・継続的に情報・専門性のパワーを強化するために仕組みを作り資源投入する。)
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③ 生産者や生活者のニーズを的確にとらえる
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(運動の柱の一つに、「外部との対話」があるが、最終ユーザーとの対話や意見交換を通じて、ユーザーの真のニーズをとらえる仕組みを作る。)
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④ 自由に意見が述べられる開かれた組織を作る
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(自由に意見が述べられ、情報が円滑に流れ、活発な意見交換が行われるためには、それを尊重する価値観を形成するとともに、情報化、仕事のルール化、組織のフラット化等を進め、意思決定や組織行動を迅速化する。)
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⑤ 人を大切にし、実績を正しく評価する人事を行う
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(この運動では、人事制度に対する不満や問題指摘が多かった。人事に対する一定程度の満足感が無ければ、組織への忠誠心が失われ、組織革新のエネルギーを結集できない。この運動は、「事件を反省し酪農の原点に返って出直す」とともに、「新しく活性化された組織風土形成」を目指してきたが、それは、最終的には人事制度に反映されなければならない。組織文化は制度に反映されるからである。)
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以上、この運動は、20年以上前に実施した不祥事発生組織における組織文化革新運動であるが、我が国の大企業の不祥事が再び増えている今日、議論の内容は少しも色あせていないと考える。