◇SH1551◇実学・企業法務(第102回) 齋藤憲道(2017/12/18)

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実学・企業法務(第102回)

第3章 会社全体で一元的に構築する経営管理の仕組み

同志社大学法学部

企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

2. 金融商品取引法・上場規則の考え方

(2) 証券取引所規則の要請(証券取引所の自主ルール)

「企業グループの構造に係るリスク情報に関して記載した報告書」[1]

 企業グループの構造が特殊なものとして東京証券取引所が認める場合に、提出する。
 

※「決算短信」、「四半期決算短信」

 東京証券取引所は、これらの決算情報(連結を含む)が、有価証券の投資判断に重要な影響を与えるとして、上場会社が適時開示を行うことを求め[2]、決算期末後45日以内(30日以内が望ましい)の開示を促している。ただし、監査証明は必要とされない。

  1. (注) 財務局に提出した「有価証券報告書」は証券取引所でも縦覧に供される(写しとして)[3]

 

(参考) 機関投資家のスタンスの表明

「日本版スチュワードシップ・コード」の策定  金融庁HPに機関投資家の見解が公表されている。

 2014年(平成26年)2月に、金融庁に設置された「日本版スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」において『「責任ある機関投資家」の諸原則(日本版スチュワードシップ・コード[4])」』が策定され、金融庁から公表された。

 「スチュワードシップ責任」とは、機関投資家が、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解に基づき、投資先企業と建設的な「目的を持った対話」等を通じて、その企業の企業価値の向上や持続的成長を促すことにより、「顧客・受益者」の中長期的な投資リターンの拡大を図る責任を意味する。

 金融庁は、本コードの「受入れ表明」を行った機関投資家のリストを公表している[5]

 本コードが所期の目的通り、適切に実行されれば、機関投資家が社外役員と同じ監視・監督の役割を果たすことが期待される。

 

「責任ある機関投資家」の諸原則≪日本版スチュワードシップ・コード≫ の概要

2017年(平成29年)5月29日改定[6]

 本コードは、機関投資家に対して、「投資先企業の持続的成長を促し、顧客・受益者の中長期的な投資リターンの拡大を図る」目的で、次の1~7を行うべきである、とする。

 ※ コーポレートガバナンス、リスクマネジメントと関係が強い事項に、筆者が注記した。

  1. 1 スチュワードシップ責任を果たすための明確な方針を策定し、これを公表する。
    (筆者注)会社には、機関投資家が資金の運用方針を明らかにして企業と対話する機会を作るときに、(議決権行使の意向を含めて)会社に求めている事項を理解し、リスク対応すること     が望まれる。
     
  2. 2 スチュワードシップ責任を果たす上で管理すべき利益相反について、明確な方針を策定・公表する。
     
  3. 3 投資先企業の持続的成長に向けてスチュワードシップ責任を適切に果たすため、その企業の状況を的確に把握する。
    (筆者注)「原則3 指針3-3.」は、把握する会社の状況の例として、ガバナンス、企業戦略、業績、資本構造、リスク(社会・環境問題に関連するもの含む)への対応等の非財務事項    を含むことを想定するとともに、投資先企業の企業価値を棄損するおそれのある事項を早期に把握できるように努めるべきであるとする。
     
  4. 4 投資先企業との建設的な「目的を持った対話」を通じて、投資先企業と認識の共有を図るとともに、問題の改善に努める。
    (筆者注)「原則4」の「指針4-1.」は、機関投資家が会社との対話を踏まえて、その会社の企業価値が棄損されるおそれがあると考えられる場合は、更なる認識の共有を図って問題の改善に努めるべきであると指摘する。会社には、これを素直に聴き、必要に応じてリスク・マネジメントすることが求められる。
     「指針4-3.」は、機関投資家が企業との対話において未公表の重要事実を受領することは、株主間の平等に反する可能性があるので、インサイダー取引を防止するためのリスク・マネジメントが必要であると指摘する。

     
  5. 5 議決権の行使と行使結果の公表について明確な方針を持つとともに、議決権行使の方針については、単に形式的な判断基準にとどまるのではなく、投資先企業の持続的成長に資するものとなるよう工夫する。
    (筆者注)「原則5」の「指針5-2」及び「指針5-3」は、機関投資家の議決権行使が企業の企業の持続的成長に資するものとすべきことを求めている。企業はこれを素直に聴くべきであろう。
     
  6. 6 議決権の行使も含め、スチュワードシップ責任をどのように果たしているのかについて、原則として、顧客・受益者に対して定期的に報告を行う。
     
  7. 7 投資先企業の持続的成長に資するよう、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解に基づき、当該企業との対話やスチュワードシップ活動に伴う判断を適切に行うための実力を備える。


[1] 東京証券取引所有価証券上場規程204条12項2号

[2] 東京証券取引所有価証券上場規程404条

[3] 金融商品取引法24条7項、6条(証券取引所に写しを提出)。なお、有価証券報告書はEDINETを通じて開示され、写しに代えた通知と見なされる(金融商品取引法27条の30の6第1項、2項。同法27条の30の8)。

[4] Stewardship Code

[5] 「金融庁HP:受入を表明した機関投資家リスト」http://www.fsa.go.jp/news/27/sonota/20160315-1/list_01.pdf

[6] 〔2017年5月29日改訂版に盛り込まれた事項〕①アセットオーナーによる実効的なチェック、②運用機関のガバナンス・利益相反管理、③パッシブ運用における対話等、④議決権行使結果の公表の充実、⑤運用機関の自己評価、⑥議決権行使助言会社自身が自らの取組みを公表するように求めること、⑦複数の機関投資家が協同して企業と対話することの得失と留意事項、⑧ESG(環境、社会、ガバナンス)要素のうち、企業にとって重要なものはリスク・収益機会の両面で中長期的な企業価値に影響を及ぼすと考えられること。

 

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