◇SH1576◇日本企業のための国際仲裁対策(第66回) 関戸 麦(2018/01/11)

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日本企業のための国際仲裁対策

森・濱田松本法律事務所

弁護士(日本及びニューヨーク州)

関 戸   麦

 

第66回 仲裁条項の作成(3)

2. 各仲裁機関の基本型モデル仲裁条項の検討

(1) ICC

 ICC(国際商業会議所)のモデル仲裁条項は、次のとおりである[1]

  1.   All disputes arising out of or in connection with the present contract shall be finally settled under the Rules of Arbitration of the International Chamber of Commerce by one or more arbitrators appointed in accordance with the said Rules.

 この仲裁条項の主たる要素は、①対象となる紛争、②紛争解決方法の拘束力、③利用する仲裁手続、の3点である。

 まず、①対象となる紛争は、「All disputes arising out of or in connection with the present contract」となっており、当該契約(当該仲裁条項を含む契約)に関する全ての紛争を広く対象としている。この範囲が狭いと、第12回の4(3)項で述べた「仲裁合意の範囲」に関する争いが生じる可能性が高まり、望ましくない。この範囲を広くするためのキーワードは2つあり、一つが冒頭の「All」であり、他の一つが「arising out of or in connection with」である。これらの表現は、仲裁条項を含め、紛争解決条項においてよく用いられる表現である。

 次に、②紛争解決方法の拘束力であるが、「shall be finally settled」という表現で、(所定の方法で)解決されなければならないと定めている。ここでキーワードは「shall」である。これが、例えば、「may」という表現であると、仲裁条項で定められた仲裁手続以外の手続も許容できるように読めてしまい、紛争解決方法に関する無用な争いが生じる。

 その次は、③利用する仲裁手続であり、ここでは、「under the Rules of Arbitration of the International Chamber of Commerce」という、ICC仲裁規則に基づくという表現で、ICCの仲裁手続を特定している。なお、ここでは、ICCという略称は用いずに、「the International Chamber of Commerce」という正式名称を用いている。略称の場合、他の意味であると争われる余地が生じうるため、これを避けるという趣旨である。

 このICCのモデル仲裁条項には、上記①から③の要素の他に、「by one or more arbitrators appointed in accordance with the said Rules」という記載もある。但し、これは、ICC仲裁規則に従って1名又はそれ以上の仲裁人によって判断されることを述べているだけであり、特に意味のない記載である。

 以上の他、ICCのホームページ(モデル仲裁条項を掲載している箇所)によれば、記載することが考えられる項目として、次の4点が指摘されている。

 まず、(i)仲裁地をどの都市(あるいは国、地域)とするかである。

 次は、(ii)仲裁人の数である。通常は、1名又は3名である。

 その次は、(iii)仲裁の言語である。多くの場合英語であるが、その他の言語を指定することもあり、また、英語及び日本語という形で複数の言語を指定することもある。複数の言語を指定することについては、手続の混乱が生じるという批判もあるが、上記の場合でいえば、英語及び日本語間の翻訳の手間及びコストを削減できるというメリットはある。

 最後は、(iv)当該仲裁条項を含む契約の準拠法である。但し、これは、仲裁条項内で記載するというよりは、当該契約全体の準拠法を定めるものであるため、当該契約の別の条項とする方が通常は望ましい。

 以上が、ICCのモデル仲裁条項である。

 

(2) SIAC

 SIAC(シンガポール国際仲裁センター)のモデル仲裁条項は、次のとおりである[2]

  1.   Any dispute arising out of or in connection with this contract, including any question regarding its existence, validity or termination, shall be referred to and finally resolved by arbitration administered by the Singapore International Arbitration Centre (“SIAC”) in accordance with the Arbitration Rules of the Singapore International Arbitration Centre (“SIAC Rules”) for the time being in force, which rules are deemed to be incorporated by reference in this clause.
     The seat of the arbitration shall be [Singapore].
     The Tribunal shall consist of _________________ arbitrator(s).
     The language of the arbitration shall be ________________.

 この仲裁条項の主たる要素は、ICCのモデル仲裁条項と同じ3点である。但し、表現は、以下のとおり、若干異なっている。

 まず、①対象となる紛争は、「Any dispute arising out of or in connection with this contract, including any question regarding its existence, validity or termination」となっている。当該契約(当該仲裁条項を含む契約)に関する全ての紛争を広く対象とする点は、ICCと同様であるが、「All」の代わりに「Any」という表現を用い、また、「including any question regarding its existence, validity or termination」と記載し、当該契約の存在、有効性及び終了についても、対象となる紛争になることを明示している。この点は、前回(第65回)の1(5)項で述べた「分離可能性ないし独立性(severabilityないしseparability)」の考え方からすれば、明示しなくても同じ結論になるが、SIACのモデル仲裁条項は、無用な争いを排除するという趣旨からかと思われるが、この点を明示している。

 次に、②紛争解決方法の拘束力であるが、表現はICCと若干異なるものの、「shall」というキーワードは、SIACでも用いられている。

 その次は、③利用する仲裁手続であり、ここでは、SIAC仲裁規則に基づくという表現に加え、「by arbitration administered by the Singapore International Arbitration Centre (“SIAC”)」という、SIACによって管理されるという表現も記載し、SIACの仲裁手続を特定している。

 また、SIAC仲裁規則についても、「for the time being in force, which rules are deemed to be incorporated by reference in this clause」という表現を記載し、SIAC仲裁規則が改正された場合には、仲裁申立時に効力を有するSIAC仲裁規則に従う旨を明記している。なお、ICCの場合には、モデル仲裁条項にこのような記載はないものの、ICC規則6.1項の定めにより、仲裁申立時に効力を有するICC規則が原則として適用されるため、同じ結論となる。

 なお、SIACのモデル仲裁条項においても、ICC同様、略称ではなく、「the Singapore International Arbitration Centre」という正式名称を記載している。

 さらにSIACのモデル仲裁条項では、ICCのホームページで記載することが考えられるとした4点についても、文例が示されている。

 まず、(i)仲裁地については、「The seat of the arbitration shall be [Singapore].」となっている。「Singapore」が仮に記載されているが、他の都市(あるいは国、地域)とすることもできる。

 次に、(ii)仲裁人の数については、「The Tribunal shall consist of ____ arbitrator(s).」となっており、仲裁人の数を定める空欄部分には、奇数を入れることが推奨されている。通常は、1名又は3名である。

 その次の、(iii)仲裁の言語については、「The language of the arbitration shall be ______.」となっている。この空欄部分に、「English」等の言語を記載することになる。

 最後に、(iv)当該仲裁条項を含む契約の準拠法については、「This contract is governed by the laws of ______.」という文例が用意されている。この空欄部分に「Japan」等の準拠法を特定する国又は地域名を記載する。

 

 今回は、以上までとし、HKIAC(香港国際仲裁センター)及びJCAA(日本商事仲裁協会)のモデル仲裁条項については、次回検討することとする。

以 上

 

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