米国デジタルヘルス規制ガイド
―米国デジタルヘルス市場参入指針として―
第5回
K&L Gates外国法共同事業法律事務所
弁護士・ニューヨーク州弁護士 山 田 愛 子
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Ⅱ デジタルヘルス事業者に適用される米国規制(続き)
3 FDCA – 連邦食品・医薬品・化粧品法 (The Federal Food, Drug, and Cosmetic Act)
⑴ FDCAとは何か?
FDCAは、モバイルメディカルアプリを含む医療機器(device)の安全性および有効性を確保するための連邦法である。
「医療機器(device)」とは、疾病等の診断または疾病の治療もしくは予防の目的または人の構造もしくは機能に影響を与える目的を有する器具、装置、用具、機械、装置、移植物、体外試薬またはその他類似もしくは関連する品目(部品・付属品を含む)と定義される[38]。
「疾病の診断、治療または予防に関係せず健康的生活を維持または増進する目的」を有するソフトウェア[39]その他所定のソフトウェアは、現行のFDCAにおいて「医療機器(device)」の定義から明確に除外されている[40] [41]。
FDCAに関する執行機関は米国医薬品、食品、化粧品局(the U.S. Food & Drug Administration)(以下「FDA」という)である。
⑵ モバイルヘルスアプリ事業者へのFDCA適用可能性および留意点
モバイルヘルスアプリを含む医療機器としてのソフトウェアに関するFDAの監督方針は、FDAソフトウェア医療機器ガイダンス [42]に明記されている。
FDAソフトウェア医療機器ガイダンスは、(i)モバイルメディカルアプリがFDAの監督下にあること、および(ii)FDAは、誤作動が生じた場合のリスクが高い、ごく一部のアプリに対する監督を重点的に行うことを明記している。
モバイルヘルスアプリが(i)「医療機器(device)」の定義(前述)に該当し、かつ(ii)次のいずれかの目的を有する場合、当該アプリはFDCAが規制する「モバイルメディカルアプリ」すなわち医療機器に該当する。
- • 医療機器の付属物(例:点滴ポンプの機能または設定を変更するアプリ)
- • モバイルプラットフォームの医療機器への変換(例:血糖値測定モバイルプラットフォーム付属品作動アプリ)
- • 他の医療機器から得られたデータの精緻な解析(例:患者個人のパラメーターを用いて放射線治療計画を策定するアプリ)
⑶ モバイルヘルスアプリが医療機器として規制される場合の留意点
モバイルヘルスアプリが医療機器たる「モバイルメディカルアプリ」として規制される場合、当該アプリの製造者は、医療機器クラスごとに定められた規制に服し、当該クラス分類および関連規制に従った管理・監督を受けることになる。
ア 医療機器のクラス分類
FDAの監督に服するモバイルメディカルアプリの評価は、FDAが他の医療機器に適用する規制基準および危険性評価手法と同じ基準・手法に従って行われる。すなわち、 FDAは、モバイルメディカルアプリ(医療機器)が消費者に与え得るリスクならびに使用の目的および適応に基づき、医療機器をクラスI、クラスIIおよびクラスIIIの3クラスに分類する[43] 。リスクが低い医療機器についてはクラスI医療機器として最小限の規制を課し、ある程度のリスクがある医療機器についてはクラスII医療機器としてクラスIより厳しい規制を課して機器の安全性および有効性を合理的に確保し、最もリスクの高い医療機器についてはクラスIII医療機器として最も厳しい規制を課す。
イ 各クラスにおける規制
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a クラスI 医療機器には、以下の一般規制のみが課される。
- • 製造施設および医療機器の登録 (21 C.F.R. part 807)
- • 品質管理規制 (21 C.F.R. part 820)
- • 表示規制 (21 C.F.R. part 801)
- • 有害事象報告 (21 C.F.R. part 803)
- • 市販前届出(510(k))(21 C.F.R. part 807)- もっとも、ほとんどのクラスI 医療機器について市販前届出は免除されている
- • 改修・回収報告 (21 C.F.R. part 806)
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• 治験用医療機器免除(IDE)の適用要件(21 C.F.R. part 812)
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b クラスII 医療機器には、上記一般規制に加え特別規制が課され、かつほとんどのクラスII医療機器について市販前届出(510(k))が必要となる。
- c クラスIII 医療機器には、上記一般規制が課されるとともに、市販前承認(Premarket Approval(PMA))の取得(21 C.F.R. part 814)が必要となる。
ウ 医療機器に関する主な規制の概要
- • 製造施設および医療機器の登録[44]:医療機器の製造者は、医療機器のクラス分類いかんにかかわらず、自身の製造施設および医療機器をFDAのデータベースに登録(有料)しなければならない。
- • 品質システム規制[45] :品質システム規制の下、医療機器製造者は、安全かつ有効な医療機器製造基準を制定し、医療機器の設計、製造および販売のための手法および手続を構築し、医療機器の安全かつ有効な使用確保のためのコンピュータプラットフォームおよびソフトウェアを適切に検証・認証し、医療機器の安全な販売、設定および作動を確保するため適切な管理・作業手順を構築しなければならない。
- • 表示規制[46]: 医療機器製造者は、FDCA所定の表示規制を遵守しなければならない。
- • 有害事象報告[47]:有害事象報告規制の下、医療機器の製造者・輸入者は、(i)自身が販売する医療機器によって死亡もしくは重症事例が生じたこと、または(ii)誤作動の発生かつ当該誤作動が仮に再発した場合には死亡もしくは重症事例が生じ得ることを合理的に推察させる何らかの情報を受領または認識した場合、FDAに報告しなければならない。
- • 市販前手続[48]: FDAは原則として、市販前届出(510(k))を通じ、クラスIおよびクラスII医療機器について、また市販前承認(Premarket Approval(PMA))を通じてクラスIII医療機器について、それぞれその安全性および有効性を市販前に評価する。
- • 改修・回収報告[49]: 医療機器製造者は、手続開始から10営業日以内に医療機器の改修・回収に関する措置をFDAに報告しなければならない。
- • 治験用医療機器免除(IDE)の適用要件[50]: 治験用医療機器免除(IDE)は、市販前承認申請または市販前届出のために必要な安全性・有効性データ取得のため未承認・未届出医療機器を治験で用いることを認める。リスクが大きい医療機器の治験は、治験開始前にFDAおよび倫理審査委員会の承認を得る必要がある。リスクが小さい医療機器の治験については倫理審査委員会の承認のみで足りる。
⑷ 執行裁量
FDAは、その執行裁量権の行使により、FDCAが定義する「医療機器(device)」に該当するものの患者への「リスクがほとんどない」モバイルヘルスアプリに関しては、適用規制の遵守を強制しない。
「リスクがほとんどない」機器には、具体的治療案を提示せず患者・利用者自身による疾患管理を支援するのみのモバイルヘルスアプリ、または医療従事者の単純作業を自動化するのみのモバイルヘルスアプリが含まれる。
執行裁量の対象となるソフトウェアの機能としては、たとえば以下のものが挙げられる。
- • 日常生活における患者の健康管理支援のため指導・指示を行う診療補助機能
- • 患者の健康状態に関する情報へのアクセスを容易にする機能
- • 患者および医療従事者間の連絡支援機能
- • 臨床業務において日常的に用いられている単純な計算を行う機能
⑸ モバイルヘルスアプリが医療機器として規制されない場合の留意点
モバイルヘルスアプリが医療機器として規制されない場合であっても前述のHIPAA(連載第1回乃至第4回参照)が適用される可能性は残り、かつその他の法令の規制(後述)を受ける可能性もあることから、事案ごとの個別具体的検討が必要である。
⑹ コロナ禍におけるFDCAの執行
FDAはコロナ禍の公衆衛生緊急事態に対処するためいくつかのガイダンスを発した。当該ガイダンスとしてはたとえば以下のものが挙げられる。
- ア FDAは、精神疾患治療用デジタルヘルス機器に関し、コロナ禍における執行方針[51]として、(i)所定の規制(たとえば、市販前届出、改修・回収報告)を遵守することなく、コンピュータ化された行動療法機器その他デジタルヘルス治療機器を精神疾患治療のため販売・使用することに異議を述べない旨明示し、(ii)その他デジタルヘルス製品に対する規制を柔軟に運用する旨明示した。
- イ FDAは、患者管理支援用非侵襲遠隔管理機器に関し、コロナ禍における執行方針[52]として、通常であれば必要となる市販前届出を行うことなく、公衆衛生緊急事態下において患者管理支援のために用いられる非侵襲の遠隔管理機器の適応、効能範囲、機能またはハードウェアもしくはソフトウェアへの限定的な変更を実施することについて異議を述べない旨を明示した。
第6回につづく
[38] 21 U.S.C. §321(h).
[39] 21 U.S.C. §321(h), 21 USC §360j(o)(1)(B).
[40] 21 U.S.C. §321(h), 21 USC §360j(o).
[41] かかる除外は2016年成立のthe 21st Century Cures Actに基づくものであるところ、FDAはかかる除外を反映すべく2021年4月19日付で医療機器のクラス分類を改定した。https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2021/09/2021-07860.pdf
[42] https://www.fda.gov/regulatory-information/search-fda-guidance-documents/policy-device-software-functions-and-mobile-medical-applications. Policy for Device Software Functions and Mobile Medical Applications Guidance (updated in 2015 and 2019).
[43] https://www.fda.gov/about-fda/cdrh-transparency/overview-medical-device-classification-and-reclassification.
[44] 21 C.F.R. Part 807.
[45] 21 C.F.R. Part 820.
[46] 21 C.F.R. Part 801.
[47] 21 C.F.R. Part 803.
[48] 21 C.F.R. Parts 807 and 814.
[49] 21 C.F.R. Part 806, https://www.fda.gov/medical-devices/postmarket-requirements-devices/recalls-corrections-and-removals-devices.
[50] 21 C.F.R. Part 812.
[51] https://www.fda.gov/media/136939/download. Enforcement Policy for Digital Health Devices For Treating Psychiatric Disorders During the Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Public Health Emergency (April 2020).
[52] https://www.fda.gov/media/136290/download. Enforcement Policy for Non-Invasive Remote Monitoring Devices Used to Support Patient Monitoring During the Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Public Health Emergency (June 2020).
(やまだ・あいこ)
K&L Gates外国法共同事業法律事務所 カウンセル
コーポレートM&A、データ保護、ヘルスケア・FDAのK&L Gatesグローバル実務グループに所属。クロスボーダーM&A
1996年上智大学法学部国際関係法学科卒業、2000年弁護士
Chambers Asia-Pacific Awards (ライフサイエンス-日本)においてNoted Practitioner (2018年)、Recognized Practitioner(2019年)と評される。