ミクシィ、子会社前代表取締役の書類送検
岩田合同法律事務所
弁護士 鈴 鹿 祥 吾
京都府警は、平成30年1月11日、株式会社ミクシィの子会社で日本国内最大手のチケット転売サイト「チケットキャンプ」を運営する株式会社フンザの前代表取締役及び転売業者3名を書類送検し、ミクシィは同日この事実を開示した。
報道によると、4名は、共謀して、平成29年4月頃、他人名義を用い、転売目的で、歌手の安室奈美恵氏のコンサートチケットを購入した詐欺の容疑がかけられている[1]。
安室氏を含む複数のアーティスト、団体等は、チケットの高額転売に反対する立場を表明しており[2]、実際に、購入資格としてファンクラブ入会・プレイガイド会員登録を要求して多重登録を防止する、公演当日はIDチェックを厳格化して本人確認を行う等の対策を講じている[3]。上記転売業者が被疑事実とされているチケットの購入を行った際においても、そのような措置が講じられ、他人名義による購入の禁止や、転売目的の購入の禁止等の告知もされていたものと思われる。
namie amuro Final Tour 2018 ~Finally~のチケット申込条件の一部(現時点のもの)[4]
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詐欺罪は、「人を欺いて財物を交付させ」る又は「不法の利益を得」ることにより成立する犯罪であり(刑法246条)、①人を欺く行為、②これによる相手方の錯誤、③錯誤に基づく物・財産上の利益の交付の各要件を充足する必要がある。そして、①に関しては、全ての「欺く行為」がこれに該当するのではなく、相手方が財産的処分行為をするための判断の基礎となる重要な事項を偽ることを意味すると解されている。したがって、たとえば、未成年者に販売することが禁止された物品を、未成年者が年齢を偽って購入するような場合には、(販売業者にとって、一般的に当該物品の対価が得られるか否かが重要であって、購入者が未成年者か否かによる利害関係が乏しいから、)直ちに詐欺罪が成立するとは考えられていない[5]。
この点の議論は、悪意を持って金融機関で口座開設し、通帳やキャッシュカードを受領した事案において行われてきた。他人名義で口座の開設を申し込んだ事例(最高裁平成14年10月21日決定・刑集56巻8号670頁)、通帳等を第三者に譲渡する意図を秘して自己名義の口座の開設を申し込んだ事例(最高裁平成19年7月17日決定・刑集61巻5号521頁)、約款で暴力団員からの貯金の新規申込みを拒絶する旨を定めている銀行に対し、暴力団員であるのに暴力団員でないことを表明、確約して口座の開設を申し込んだ事例(最高裁平成26年4月7日決定・刑集68巻4号715頁)において、いずれも詐欺罪の成立が認められている。
事案 | 重要な事項の偽りであることの理由付け | ||
1 |
平成14年判例 |
他人名義で口座開設 |
(特段の記載なし) |
2 |
平成19年判例 |
譲渡目的で口座開設 |
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3 |
平成26年判例 |
暴力団員が口座開設 |
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本件と類似の事案において、神戸地裁[6]は、「コンサートチケットは、その性質上販売数が限定されているものであり、営利目的転売を企図した購入が横行すると、真にコンサートに参加したい一般客の機会が奪われ、又は一般客が適正価格を著しく超過した暴利価格を支払うことを余儀なくされ、最終的に音楽業界全体に大きな不利益が生じることによれば、購入者が営利目的転売の意思を有しているかどうかは、販売会社にとって販売の判断の基礎となる重要な事項と認められる。」と述べており、上記のようなチケット申込条件が定められている場合、チケットの申込時には1名が複数回の申込を行うことができず、入場時には同行者を含め申込時の情報と照合する本人確認が実施され、本人確認ができない場合は入場できないことに照らせば、チケットの転売は許されておらず、仮にチケット販売業者において申込者が転売目的であったと知っていればその申込みに応じてチケットを販売することはなかったといえるとして、詐欺罪が認められる可能性が高いといえよう。
消費者に対する取引においては、相手方の本人確認を行ったり相手方の取引の目的について一定の条件を付したりすることで、法令や行政指導の遵守や宣伝効果の向上等を図ることは珍しくない。本件はその一事例と位置づけられるものであるが、これらの条件等に従わない取引を詐欺として立件するためには、本件の転売対策や預金口座開設における対応のように規定の明確化及び当該規定を実効的にするための具体的な対応を実施するという相応に高いハードルを越えなければならないことには留意をする必要がある。
また、本件は、チケットキャンプの前代表取締役個人に対して、本件の転売業者がこのようなチケットの入手を行っていることを知りながら、売上額の高い出品者であるとして手数料無料の優遇する措置をとっていたことについて、不正転売を知りつつこれを助長させたとして共犯になると警察が判断している点が特徴的である。この見解の当否については詳細な事案や証拠関係を確認する必要があるが、広く消費者が利用できるサービスを提供する会社においては、利用者に違法行為者がいることが分かった又はその疑いが生じた場合には、自社と当該利用者との関係性等を把握し、コンプライアンスに係る問題として適切な対応をとることが強く求められることを留意する必要がある。
[4] https://ticket.tickebo.jp/pc/namieamuro-faq/及びhttps://ticket.tickebo.jp/pc/about-tb/docs/agree/agree_1.html
[5] 山口厚『刑法各論〔第2版〕)』(有斐閣、2010)267頁
[6] 神戸地裁平成29年9月22日判決・LEX/DB