◇SH1619◇債権法改正後の民法の未来4 事情変更(3) 平井信二(2018/02/02)

未分類

債権法改正後の民法の未来 4
事 情 変 更 (3)

アクト大阪法律事務所

弁護士 平 井 信 二

 

Ⅴ 今後の参考になる議論

2 要件および効果論

(1) 要 件

 ア 三類型による区別の反映について

 事情変更の法理については、一般に、次のように整理され、判例も古くからこの整理に従った判断を重ねているとされている[28]

  1. ① 契約成立当時にその基礎とされていた事情が変更したこと
  2. ② 契約締結当時に当事者が事情の変更を予見できなかったこと
  3. ③ 事情の変更が当事者の責めに帰することのできない事由により生じたこと
  4. ④ 事情変更の結果、当初の契約内容に当事者を拘束することが信義則上著しく不当と認められること

 一方、学説上、事情変更の法理が認められる事例として、➀等価関係の破壊、②経済的不能および③契約目的の到達不能の三類型があるとされている[29]

  1. ① 等価関係の破壊とは、双務契約における給付と反対給付の等価関係が、事情変更により著しく破壊されて、契約の履行が当事者の一方にとって無意味となる場合を指し、戦後のインフレ期に地価が高騰した場合における売主からの解除の事案などがその適用事例である。
  2. ② 経済的不能とは、戦争や大災害の発生等により、契約当事者の一方によって、契約の履行が可能ではあるが、経済的に見て著しく困難となったときをいう。ただし、戦争等による債務者の支払能力の欠乏は含まない。最三判平成9・7・1におけるゴルフ場のり面崩壊の事例[30]もこの一種とされている。
  3. ③ 契約目的の到達不能とは、契約締結後、事情変更により、契約締結時に当事者が達成しようとした契約の目的が達成できなくなった場合をいう。最上級審レベルにおいて唯一、事情変更の法理の適用を認めた大判昭和19・12・6の事例[31]がその具体例とされる。

 中間試案においては、以上の三類型を踏まえ、契約目的の到達不能を他の二類型と別建てとした要件[32]が検討された。

 しかしながら、契約目的の到達不能の事例であっても、当事者間の衡平を著しく害するという要件が重要であって契約目的の到達不能のみで契約解除は認められるべきでないとの意見があったこと[33]、また従前の裁判例は通説的な見解を前提に判断したものが多く見られ、これらとの連続性についての配慮も必要として、基本的に従前の通説的見解の枠組みを基本として要件を検討することが適切とされた[34]

 中間試案後、要件の具体的な文言案としては、順に、部会資料72B、同77A、同81-3において検討がなされている。

 

 イ 契約目的の到達不能

 契約目的の到達不能について事情変更の法理に基づく解除を認めるかどうかについては、適用範囲がかなり広がることにもつながり得ることから、慎重な議論が必要との意見が提出された[35]

 ここでいう契約目的とは、当事者の一方的な主観的意思ではない。たとえば、窓から見える花火を楽しみにしてある部屋を借りた借主が花火大会の中止をもって事情変更に当たると主張することは許されない。

 また、前述したとおり、履行不能との関係が問題となる。花火の見える部屋を提供することが契約の内容となっていれば履行不能となるとされているが[36]、花火大会が開催され、その近くで打ち上げられる花火がきれいに見える場所を有償で貸すという契約をしたけれども、花火大会がたとえば伝染病やテロの恐れなどで中止された場合については、契約目的の到達不能に関する事情変更の法理の適用事例として紹介されている[37]

 本類型に関しては、ドイツで挙げられている例として、事業者同士で、ある商品について一方当事者は販売しないという競業避止義務契約を結んだところ、競業関係にあった相手方事業者がまったく予期しない事情によってその事業をやめてしまった場合になおこの契約を維持するかといった事例が紹介されている[38]



[28] 部会資料19-2。

[29] 部会資料65。

[30] ゴルフクラブ会員が会員権等の存在の確認訴訟を提起したのに対し、ゴルフ場側がゴルフ場ののり面の崩壊等の事情変更を理由に会員権の一部である優先的利用権の不存在を主張した事例。

[31] 宅地建物等価格統制令が施行され、価格の認可が必要となり、その手続に相当期間を要する上、認可価格によっては契約が失効する可能性があるとされた事例。

[32] 「その事情の変更により、契約をした目的を達することができず、又は当初の契約内容を維持することが当事者間の衡平を著しく害することとなること」

[33] 第75回議事録21~22頁。

[34] 部会資料72B。

[35] 第2分科会第6回議事録11頁。

[36] 部会資料65。

[37] 第19回議事録28頁。

[38] 第75回議事録28頁。

 

タイトルとURLをコピーしました