タイ:取引競争法に基づく下位規則の制定
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 佐々木 将 平
昨年全面的に改定、施行された取引競争法(Trade Competition Act。日本の独占禁止法に相当)に関して、本年10月までに定められることとなっていた各種下位規則のうち、以下のものが本年11月2日付で施行された。このうち②及び③は旧法下のものと基本的に同様であるため、その他の規則に関する主要な留意点を解説する。
- ① 政策上の関係又は指揮権を有する関係にある事業者の判断基準に関する通知
- ② 市場の定義及び市場シェアの判断基準に関する通知
- ③ 市場支配力を有する事業者に係る禁止行為の判断基準に関する通知
- ④ 独占をもたらし、競争を減殺し又は競争を制限する事業者の共同行為の判断基準に関する通知
- ⑤ 他の事業者に対して損害をもたらす行為の判断基準に関する通知
1. グループ会社の定義
新取引競争法においては、政策上の関係又は指揮権を有する関係にある事業者間の行為について、同法上の各規制の適用が除外される旨が規定されており(法51条6項、54条2項及び56条1項1号)、同法の規制が企業グループ毎に適用されることが明確化された。かかる企業グループの範囲・定義は下位規則に委ねられていたところ、今回の規則(上記①)により、「政策上の関係」及び「指揮権」が以下の通り定義された。
- • 政策上の関係とは、経営、管理又は事業運営の指揮、方針又は方法が、事業者における同一の指揮命令者の下にある、二以上の事業者の関係をいう。
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• 指揮権とは、次のいずれかに該当することにより指揮権を有することをいう。
- (ⅰ) ある事業者の総議決権の50%を超える議決権を有すること
- (ⅱ) 直接間接を問わず、ある事業者の株主総会の議決権の過半数の支配力を有すること
- (ⅲ) 直接間接を問わず、ある事業者の取締役の少なくとも半数の選任又は解任について支配力を有すること
- (ⅳ) 第一層における事業者における上記(i)又は(ii)の支配力から始めて、それぞれいずれの層においても上記①又は②の支配力を有すること
タイではサービス業について広範な外資規制があるため、日系企業のタイ現地法人の中には、日本側株主の出資比率が50%未満に抑えられているケースも多い。そのような場合でも、日本側株主が取締役の半数以上の選解任権を有していれば、日本側株主のグループ会社として認められることになる。
2. 事業者間の共同行為に関する規制の明確化
新取引競争法54条及び55条においては、事業者間(54条については同一の市場における競争事業者間)で行われる、独占をもたらし、競争を減殺し又は競争を制限する共同行為が規制されている。今回の規則(上記④)ではかかる禁止行為の意義が明確化された。とりわけ、合計市場シェアが10%未満の事業者間の共同行為は、54条及び55条の規制対象外である旨明確化された点が注目に値する。
3. 不公正な取引に関する規制の明確化
新取引競争法57条においては、他の事業者に損害をもたらす一定の行為が禁止されているが、今回の規則(⑤)では禁止行為の意義が明確化された。禁止行為の一つである「市場における優越的な力又は交渉力を不当に利用すること」(57条2号)に関しては、以下の点が規定された。
- • 市場シェアが10%以上の事業者は優越的な交渉力を有すると推定されるが、市場における事業者の数、出資額、流通経路等の生産要素へのアクセス、事業活動の基盤的なネットワーク、公共部門の規制等の諸事情も考慮される。
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• 以下のような場合には、優越的な交渉力を有すると判断される。
- (ⅰ) 一方の事業者が、他方の事業者からの商品又は役務の売買に依存しており、当該事業者間の取引額がその商品又は役務の売買による収入の30%以上となる場合
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(ⅱ) 一方の事業者が、他方の事業者からの商品又は役務の売買に依存しているが、当該事業者間の取引額がその商品又は役務の売買による収入の30%未満である場合で、かつ
- a. 他の事業者との取引に切り替えることができないか、又は選択肢を有しないとき
- b. 切り替えることは、従前の事業者から得られる利益を上回る取引コストを生み出すことになるとき
これまでタイの競争法の運用・執行はほとんど行われていない状況であったが、下位規則の施行を契機に運用が変化・活発化する可能性もあり、注意が必要である。