◇SH1646◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(47)―やらされ感の克服③ 岩倉秀雄(2018/02/16)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(47)

―やらされ感の克服③―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、組織成員の「当事者意識の欠如」について、個人の心理的側面と組織自体の問題点について考察した。

 今回は、経営トップの問題点と「やらされ感」の関係について考察する。

                           

【やらされ感の克服③】

1.「マンネリ化」や「やらされ感」はなぜ、どのように発生するのか

(3) 組織(経営トップ)の問題点

 組織成員が、経営トップの認識と行動に問題があると感じた場合には、成員のコミットメントを失わせ、掛け声だけのコンプライアンス強化に「やらされ感」が生まれる。

  1. ① 経営トップの取組み姿勢が脆弱な場合
  2.    新人から経営トップになる過程で、コンプライアンスの重要性の認識を社会的価値として厳しく要求されない環境に育った経営トップが、社会の「コンプライアンス経営が大事だ」との声に押されて俄かにコンプライアンス経営に取り組んだものの、その重要性を価値観レベルで理解できず、コンプライアンスを組織文化に浸透・定着させるための資源投入を行わず掛け声ばかりになる場合や、仮に有能な部下がいてコンプライアンス経営の重要性や資源投入の必要性を進言しても無視される場合等では、経営トップの姿勢(特に人事に現れる)が組織全体に伝わり、コンプライアンス経営の価値観を形成できない。
     その場合、組織の成員は本気でコンプライアンス経営にコミットする気になれず、「笛吹けど踊らず」、「踊る気になれない」、「踊り疲れた」という現象が生じ、「やらされ感」が生まれる。
     
  3. ② 経営者の自己革新の難しさと取巻きによるカリスマ化
  4.    経営トップは、組織内の成功者で組織文化の体現者である。したがって、経営トップは、不祥事が発生し外部から組織文化の革新を強制される場合は別として、長い間の成功体験に基づき形成された暗黙の価値前提である組織文化を容易に変えることはない。
     本来、経営トップは、経営環境の要求する変化と組織文化が整合性を持たなくなる場合には、率先して自組織の組織文化を社会的に有効な組織文化に革新しなければならない。(筆者は、著名な経営者本人から「経営者の役割は組織文化の形成だ」と言う発言を聞いたことがある。)
     また、自らの成功体験が革新を阻むだけではなく、成功してきた経営トップの周りには、辛口の助言者よりもイエスマンの取巻きが集まりやすい。このような経営トップは、イエスマンによりカリスマ化されワンマンになりやすい。
     特に、経営トップが創業者や中興の祖である場合には、なおさらである。
     取巻きは、法的規制がある場合を別にして、たとえ組織の将来にとって必要であっても、自己に不都合な新たなパワーの登場に抵抗し、(予算や人材配置等で)これを実質的に弱体化あるいは排除する動きをしがちである。
     したがって、取巻きに左右されない見識ある経営トップでなければ、コンプライアンスの組織文化への浸透・定着をできず、取巻きに左右される経営者である場合には、従業員は経営者を心から信頼できず、「やらされ感」が発生する。
     
  5. ③ 経営トップの言行不一致
  6.    経営トップが初めから本気でコンプライアンス経営に取り組んでいない場合には、経営トップの公式の発言とは裏腹の利益最優先の経営判断や本音を映す経営姿勢から、敏感な従業員はそれがすぐにわかる。
     経営トップの言行不一致に対する従業員の不満は組織内に蓄積され、内部告発を増大させるとともに、組織成員の取組みに対する確信を喪失させ、経営トップに対する不信感を拡大する。
     その場合には、不審を抱きつつコンプライアンス強化の取組みを強制されるので、組織成員に「やらされ感が」蔓延し、コンプライアンスの組織への浸透は失敗する。
     このように、経営トップに対する不信感が水面下で広がると、コンプライアンス以外の全ての取組みに対しても不信感が蔓延し、従業員は本気で業務にまい進できないので、長期的には業績が下降するばかりではなく、不祥事が発生した場合には、従業員の心の中に「組織を守ろう」という真剣で強い動機が発生せず、組織は危機に陥ることになる。
     
  7. ④ コンプライアンスが組織の戦略や人事評価に落とし込まれていない
  8.    組織が本気でコンプライアンス経営に取り組もうとする場合には、コンプライアンス強化が組織目標に掲げられ、事業計画の方針や戦略に盛り込まれて予算化されるとともに、その進捗状況が管理の対象となり従業員の人事評価にも組み込まれる。
     その場合には、コンプライアンス強化が単なるお題目ではなく、経営上の重要テーマであることが組織の成員に理解される。
     しかし、このような取組みが行われない場合には、各部門は「経営者は本気ではない。コンプライアンス強化の取組みが人事評価の対象にならないのだから、やっているふりをしておけば良い」という感覚に陥りやすい。
     この場合には、コンプライアンス部門以外の部門では、コンプライアンスに対する当事者意識が薄れ、「やらされ感」が発生しやすい。

(この項はつづく)

 

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