インドネシア:オムニバス法の制定(10)~投資規制の緩和(2)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 前 川 陽 一
3. 特定の条件付き事業分野
特定の条件として、①内資に関する投資条件、②外資の出資比率制限、③特定の許認可を課した事業分野であり、従前のネガティブリストにおいて中核を占めていた外資規制一覧に対応する分類であるが、ネガティブリストが350の事業分野を対象としていたのに対して、新リストでは46事業分野へと大幅な削減が行われた。対象とされている事業分野は、例えば、新聞・雑誌・放送局といったメディア事業、空運・海運・陸運業、アルコール飲料の製造・販売業、伝統的な民芸品・医薬品・食品等の製造業である。
他方で新リストは、小売業の一部、卸売業、倉庫業などを対象から除外した。新リストにおける規制対象外となった事業分野に対しては、原則として、外資100%の出資が可能になったと解されるので、インドネシアでの事業拡大や新規投資を検討している外資企業にとっては歓迎すべき改正と言えよう。
4. 上記以外の事業分野
上記1~3の分類により新リストで指定された事業分野以外の事業分野は、中央政府の独占業種又は投資禁止業種に該当しない限り、原則として、外資100%の出資が可能になったと解されるが、事業分野によっては個別の業法上の規制等に留意する必要がある。以下に数例述べる。
- 銀行業・金融業
銀行業・金融業は新リストの対象とされていない。中央銀行(Bank Indonesia)及び金融庁(OJK)の規則は従前の外資出資比率制限等を維持しており、引き続きかかる制限に従う必要がある。
- 鉱業
鉱業法に基づく外資のダイベストメント義務は別途有効であり、外資企業は関連規定に従って出資比率を最終的に49%以下まで引き下げる必要がある。
- 建設業
建設業法は、外資建設会社の設立にあたり地場建設会社との合弁形態とすることを求めている。また、オムニバス法の施行規則の一つである政令2021年第5号には、外資の出資比率を67%(ただし、ASEAN諸国からの出資については70%)までとする規定がある。
新リストが外国投資への大幅な開放を志向している点は歓迎すべき一方で、新リストと各業法ないしオムニバス法の他の施行規則における外資規制の関係について、いまだ明らかでない点もあるように見受けられる。当面の間は、投資調整庁及び関係各省庁への確認を求めながら新規投資や投資拡大の検討を進めていくのが慎重な対応となろう。
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(まえかわ・よういち)
1998年東京大学法学部卒業。2006年東京大学法科大学院修了。2007年弁護士登録(第一東京弁護士会)。2013年Northwestern University School of Law卒業(LL.M.)。2013年~2016年長島・大野・常松法律事務所ジャカルタ・デスク(Soemadipradja & Taher内)勤務。2019年10月~長島・大野・常松法律事務所シンガポール・オフィス勤務。
現在はシンガポールを拠点とし、インドネシア及び周辺国における日本企業による事業進出および資本投資その他の企業活動に関する法務サポートを行っている。
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