◇SH1655◇日銀、決済システムレポート別冊「フィンテック特集号―金融イノベーションとフィンテック―」を公表 伊藤菜々子(2018/02/20)

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日銀、決済システムレポート別冊
「フィンテック特集号―金融イノベーションとフィンテック―」を公表

岩田合同法律事務所

弁護士 伊 藤 菜々子

 

 日銀は、2月7日、決済システムレポート別冊「フィンテック特集号―金融イノベーションとフィンテック―」(以下「本レポート」という。)を公表した。

 

1 本レポートの概要

 本レポートは、支払決済サービスをはじめとする様々な金融サービスに、新しい情報技術を活用していく「フィンテック」(FinTech)を取り上げている。まず、フィンテックの主な技術基盤について紹介したうえで、フィンテックの金融経済へのインパクト、海外中央銀行の取組みについて考察している。

(1) フィンテックの主な基盤技術とその応用可能性

 本レポートでは、フィンテックの主な基盤技術として、スマートフォン、人工知能(AI)、ブロックチェーン・分散型台帳技術の3つが紹介され、それぞれの技術の特徴と金融サービス分野への応用可能性について解説している。

 

主な基盤技術 特徴や金融サービスへの応用可能性
  1. ① スマートフォン
  1. ✓ 保有者(顧客)に合わせパーソナライズされたサービスが可能
  2. ✓ スマートフォンを用いた決済サービス(デジタルウォレット)の仕組みが用いられる。決済プラットフォームを提供する企業は、手数料ではなく、決済プラットフォームの提供を通じた顧客ベースの拡大、多様なサービスの提供、大量のデータの収集・分析を通じて、総合的に収益を生み出す
  1. ② 人工知能(AI)
  2.   …人間と類似の知能をコンピュータを使って人工的に実現しようとする研究、技術
  1. ✓ AIを利用してビックデータ分析を行い、金融の根源的な機能である情報生産や情報処理に活用
  2. ✓ 経済社会に存在する情報やデータを積極的に活用することで金融仲介機能を高め、さらに高頻度取引(HFT)など市場取引の効率性向上により市場の流動性を高めていく
  3. ✓ マーケティングやコールセンターの運営など幅広い金融関連分野への応用が期待される
  1. ③ ブロックチェーン
    ・分散型台帳技術
  2.   …特定の帳簿管理者に依存することなく、分散型の構造の下で帳簿管理をする仕組み
  1. ✓ 既存の暗号技術などを組み合わせることにより、特定の帳簿管理者に依存せず、経済的なインセンティブを通じて帳簿の正しさを担保している点が特徴
  2. ✓ 様々な価値情報や資産の「移転」を記録することが可能であるため、幅広い資産の移転や記録(知的財産や医療記録など)の管理への応用が期待される

(2) フィンテックの金融経済へのインパクトについて

 フィンテックの発展に伴う金融サービスの拡大を見据え、柔軟なシステムの構築に向けた取り組みについても紹介されている。一例として、365日24時間の送金を可能とし、また携帯電話番号などでの送金も可能とするAPI(Application Programing Interface)の共通化・オープン化などが挙げられている。

 この点について、我が国では、本年10月から全銀システムの「モアタイムシステム」を通じて、24時間即時送金が導入される予定となっている。また、12月からは、金融EDI(Electronic Data Interchange)基盤が稼働する予定であり、銀行の総合振込において、振込みに関する様々な情報(支払通知番号、請求書番号など)を受取企業に送信することが可能となる[1]

(3) フィンテック推進に向けた海外中央銀行の取り組みについて

 仮想通貨を用いたICO(Initial Coin Offering)と呼ばれる資金調達形態が世界的にも増えている。金融庁は、平成29年10月にICOについては価格下落や詐欺のリスクもあることから、利用者に対し注意喚起を呼び掛けているが[2]、本レポートでは、フィンテック推進に向けた海外中央銀行の取り組みの一つとして、ICOに関する各国の規制についても取り上げている(本レポート18頁より抜粋)。

 

【図】海外における仮想通貨やICOにかかる規制の動き

米国

  1. ・証券取引委員会がICOを利用する際のリスク等についての注意喚起文書を公表

中国

  1. ・中国人民銀行等がICOを禁止する共同声明を発表
  2. ・仮想通貨取引所閉鎖勧告を受け、主要取引所が閉鎖

韓国

  1. ・金融監督院がICOの禁止を公表
  2. ・仮想通貨取引について本人確認の厳格化等を求める規制を導入

インドネシア

  1. ・インドネシア銀行が国内での仮想通貨支払いを禁止し、取引を行わないように警告

フィリピン

  1. ・ICO案件に対して証券取引委員会が停止命令を発動

 

2 本レポートの意義

 フィンテックは、新聞や雑誌で盛んに取り上げられ大きな注目を集める分野であるが、資金決済法や銀行法などフィンテック関連の規制法の観点からも、フィンテックの技術は新しい議論や法解釈の問題を生み出しているため法的にも注目すべき事象である。本レポートは、今なぜ世界的にフィンテックが進行しているのか、なぜ金融関連分野においてフィンテックが大きな影響を及ぼすとされているのかといった点から、よく使われるフィンテック用語についてもわかりやすく解説されている。本レポートでは、フィンテックを支える技術の概要や、金融経済への影響のほか、フィンテックに大きくかかわる立場である各国の中央銀行取組みが網羅されており、まさに金融イノベーションとフィンテックについて知りたい方には参考になるため紹介する次第である。

以 上



[1] 金融庁「企業の皆さま、ご存じでしたか? 振込が便利になります!」
  http://www.fsa.go.jp/policy/zedi/zenginedi.html

 

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