日銀、決済システムレポート別冊
「フィンテック特集号―金融イノベーションとフィンテック―」を公表
岩田合同法律事務所
弁護士 伊 藤 菜々子
日銀は、2月7日、決済システムレポート別冊「フィンテック特集号―金融イノベーションとフィンテック―」(以下「本レポート」という。)を公表した。
1 本レポートの概要
本レポートは、支払決済サービスをはじめとする様々な金融サービスに、新しい情報技術を活用していく「フィンテック」(FinTech)を取り上げている。まず、フィンテックの主な技術基盤について紹介したうえで、フィンテックの金融経済へのインパクト、海外中央銀行の取組みについて考察している。
(1) フィンテックの主な基盤技術とその応用可能性
本レポートでは、フィンテックの主な基盤技術として、スマートフォン、人工知能(AI)、ブロックチェーン・分散型台帳技術の3つが紹介され、それぞれの技術の特徴と金融サービス分野への応用可能性について解説している。
主な基盤技術 | 特徴や金融サービスへの応用可能性 |
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(2) フィンテックの金融経済へのインパクトについて
フィンテックの発展に伴う金融サービスの拡大を見据え、柔軟なシステムの構築に向けた取り組みについても紹介されている。一例として、365日24時間の送金を可能とし、また携帯電話番号などでの送金も可能とするAPI(Application Programing Interface)の共通化・オープン化などが挙げられている。
この点について、我が国では、本年10月から全銀システムの「モアタイムシステム」を通じて、24時間即時送金が導入される予定となっている。また、12月からは、金融EDI(Electronic Data Interchange)基盤が稼働する予定であり、銀行の総合振込において、振込みに関する様々な情報(支払通知番号、請求書番号など)を受取企業に送信することが可能となる[1]。
(3) フィンテック推進に向けた海外中央銀行の取り組みについて
仮想通貨を用いたICO(Initial Coin Offering)と呼ばれる資金調達形態が世界的にも増えている。金融庁は、平成29年10月にICOについては価格下落や詐欺のリスクもあることから、利用者に対し注意喚起を呼び掛けているが[2]、本レポートでは、フィンテック推進に向けた海外中央銀行の取り組みの一つとして、ICOに関する各国の規制についても取り上げている(本レポート18頁より抜粋)。
【図】海外における仮想通貨やICOにかかる規制の動き
米国 |
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中国 |
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韓国 |
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インドネシア |
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フィリピン |
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2 本レポートの意義
フィンテックは、新聞や雑誌で盛んに取り上げられ大きな注目を集める分野であるが、資金決済法や銀行法などフィンテック関連の規制法の観点からも、フィンテックの技術は新しい議論や法解釈の問題を生み出しているため法的にも注目すべき事象である。本レポートは、今なぜ世界的にフィンテックが進行しているのか、なぜ金融関連分野においてフィンテックが大きな影響を及ぼすとされているのかといった点から、よく使われるフィンテック用語についてもわかりやすく解説されている。本レポートでは、フィンテックを支える技術の概要や、金融経済への影響のほか、フィンテックに大きくかかわる立場である各国の中央銀行取組みが網羅されており、まさに金融イノベーションとフィンテックについて知りたい方には参考になるため紹介する次第である。
以 上