◇SH1681◇実学・企業法務(第119回)法務目線の業界探訪〔Ⅰ〕食品 齋藤憲道(2018/03/05)

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実学・企業法務(第119回)

法務目線の業界探訪〔Ⅰ〕食品

同志社大学法学部

企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

〔Ⅰ〕食品

 食品・飲料メーカーは、原材料を調達し、食品・飲料を商業規模で製造・販売して利益を得る。

 

1. 商品・業界の全般的な特徴

① 食品・飲料の生産に係わる産業は、製造業と非製造業を含み、業種が多様である

〔日本標準産業分類(総務省)による分類〕

  第1部―製造業   大分類F―製造業   中分類20―食料品製造業[1]

  第2部―非製造業  大分類A―農業    中分類01―商品生産農業[2]

            大分類C―漁業及び水産養殖業

 

② 農業・食糧関連産業の生産額は約112兆円(2015年)で、全経済活動の11%[3]

(生産額の内訳)農林漁業12兆、食品製造業37兆、関連流通業31兆、外食産業28兆、他4兆

(参考)農業・食料関連産業の国内総生産(付加価値額。2015年)は約52兆円で、GDPの9.7%

  52兆円の内訳:農林水産業6兆、食品製造業13兆、関連流通業20兆、外食産業12兆、他1兆

 

③ 日本の食料自給率[4]は約40%(カロリ-ベ-ス)。魚介類自給率は約60%[5]
  不足分の確保が必要。

 世界の漁業[6](年間約1兆㌧)は、最大の中国が約20%、日本は約4%で8位。

 世界の養殖業(年間約1兆㌧)は、最大の中国が約60%、日本は約1%で12位。

  1. (注) 日本では、「海洋水産資源開発促進法」を制定し、養殖の推進が適当な水産動植物の種類や、養殖に適する自然環境・振興施策等の大枠を定めている。
     

④ 事業者の大半が中小・零細で、その生産性は低い

  1.  •  製造・卸売・小売・外食産業のいずれも事業所数(約90万超)の98~99%を中小・零細企業が占めている[7]
  2.  •  農業就業人口は約192万人
    平均年齢67歳、65歳以上の者が65%[8]。経営体の97%が家族経営[9]
    1販売農家当たり経営耕地は2.35㌶(北海道24.32㌶、北海道以外1.68㌶)[10]
  3.  •  漁業就業者数は約16万人[11]
    65歳以上が37%、55歳以上は60%。経営体の95%が個人経営。
    日本の漁業は小型船が多く、千㌧級の大型漁船は少ない。

     

⑤ 生命・健康に直接影響を与えるので、厳格な安全性の確保が求められる。

  1.  •  消費者は食品の安全問題に敏感で、事故が起きるとしばしば風評被害も発生する[12]
  2.  •  採取、製造、加工(調理)、貯蔵、包装、運搬、販売、消費の全段階で安全管理が必要である。
    農林水産物については、土壌・水質を含め、生産段階からの安全性の確保が重要。
     家畜は、飼料・動物用医薬品・飼料添加物。
     魚は、海水汚染(養殖魚はエサ・医薬品)。
     野菜や果物は、農薬。

    病原菌汚染・腐敗等による変質、有害物質・毛髪等の異物混入等を排除する。
  3. (注) 安全基準(食品添加物、遺伝子組換食品、残留農薬等)は、国により異なる。
  4.  •  食の安全性を確保するために、次の方法が採られている。
     行政の指導・監督
     各種認証の取得によるフード・セーフティ
     意図的な食品安全阻害行為に対応するフード・ディフェンス
     原材料の生産・加工過程を追跡するトレーサビリティーの確保

     

〔冷凍食品業界の特徴〕

・ 冷凍食品は保存期間が長く、消費者が家庭で冷凍保存する期間も長い。

・ 工場 → 流通 → 消費者 の全ての過程で、適温管理(-18℃以下[13])が行われる。

・ 商品は密封されている。使用時に初めて開封する際に、混入異物が発見される。



[1] 食肉及び酪農製品、水産食料品、蔬菜・果物缶詰及び保存品、調味料、精穀及び精粉業、砂糖、パン及び菓子、飲料、その他の食料品

[2] 穀作農業、穀作以外の圃場作物農業、果樹・樹園農業、高等園芸農業、畜産農業、養蚕農業、各種農業

[3] 農林水産省「農林水産基本データ集(平成29年4月1日現在)」より。

[4] 農林水産省「平成27(2015)年度食糧自給率」によればカロリーベースで39%、金額ベースで66%。

[5] 農林水産省「農林水産基本データ集」より。2015年度は59%。

[6] FAO統計(2012年)。養殖を除く。

[7] 農林水産省「農業・食料関連産業の経済計算」、経済産業省「経済センサス・活動調査」「工業統計調査」より。従業員数は「製造業=中小299人以下、零細3人以下」「卸売業=中小99人以下」「小売業=中小49人以下」「外食業=中小99人以下」。

[8] 農林水産省「農林水産基本データ集」より(2016年2月現在の概数値)。総農家数は216万戸(2015年2月現在)、農業所得が主で、調査期日前1年間に自営農業に60日以上従事している65歳未満の世帯員がいる「主業農家」は28万戸(2016年2月現在の概数値)。

[9] 農業経営体(経営耕地30a以上又は販売金額50万円に相当する規模以上の農業を営む、又は農作業受託)総数131.8万のうち、128.4万(97.4%)が家族経営体(2016年2月概数値)。

[10] 農林水産省「農林水産基本データ集」より。2016年8月現在

[11] 農林水産省「農林水産基本データ集」より。2016年11月現在

[12] 1996年に大阪府堺市で発生したO-157食中毒事件で、小学校給食のカイワレ大根が原因の可能性がある旨を菅直人厚生大臣(当時)が記者会見で述べ、関係業者が経営危機に追い込まれた。 2011年の福島原発事故発生時に、放射能汚染の風評被害が広がり、被災地近郊で生産された商品について汚染度を計測して「汚染されていない」データを添付等しても、市場で「汚染商品」として敬遠される状況がしばらく続いた。

[13] 2013年に「調理冷凍食品のJAS規格(-18℃以下)」が廃止され「食品衛生法に基づく(-15℃以下)」が法定の保存基準として現存するが、一般社団法人日本冷凍食品協会は、国際基準Codexが(-18℃以下)であるとして協会の管理温度基準を(-18℃以下)に設定している。

 

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