◇SH1700◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(54)―掛け声だけのコンプライアンスを克服する⑤ 岩倉秀雄(2018/03/13)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(54)

―掛け声だけのコンプライアンスを克服する⑤―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、経営者の掛け声だけのコンプライアンスを克服する方法として、経営者に影響を及ぼすステークホルダーのうち、5. コンプライアンス部門ほかの内部組織及び6. 行政の役割とパワーについて考察した。

 コンプライアンスを軽視する経営トップが率いる組織のコンプライアンス部門は、権限、人材、資金面で様々な制約を受けやすく、また、イエスマンの取り巻きによりコンプライアンス活動に対する有形・無形の抵抗や妨害を受けている場合が想定されるので、モチベーションが上がりにくい。

 組織論的には、連合と政治戦略が想定されるが、現実的には、政治戦略よりもコンプライアンスに理解のある内部の他部門との連合を活用するほうが、実効性が高い。

 また、行政は大きなパワーを持つことを踏まえ、単にハードローを強化するだけではなく、ソフトローの効果を高める社会環境を醸成する必要がある。

 今回は、メディアと大学教育について考察する。

                           

【掛け声だけのコンプライアンスを克服する⑤】

 7. メディアと大学教育

  1. ① メディアの役割
  2.    メディアは、社会の代表として経営トップにコンプライアンス経営を促す上で重要な役割を果たすことができる。
  3.    メディアは、日常的にコンプライアンス経営の重要性を様々な記事によって経営トップを含む社会全体に発信し、コンプライアンス重視の世論形成を促すとともに、不祥事が発生した場合には組織のコンプライアンス違反を糾弾することにより社会と経営トップにコンプライアンス経営の重要性を再認識させる。
  4.    その意味で、コンプライアンスを軽視する経営トップに対して、直接(不祥事発生時)・間接(世論形成時)にコンプライアンス経営の重要性を訴える力を発揮できるし、ある程度発揮してきた。
  5.    しかし、コンプライアンスを軽視する経営トップは、自組織が不祥事を発生させない限り、経営環境の変化に鈍感で他社のケースを他山の石として自らの認識や行動を見直すのではなく、「うちだけは大丈夫だ」という根拠のない思い込みにより自分の考え方を変えない場合が多い。(最近も大企業の不祥事が多数発生している。)
  6.    そのような経営トップの認識を変えることはそもそも困難であり、ましてメディアだけでは難しい(そのために、これまで様々なステークホルダーの役割とパワーを考察してきた)が、メディアは単に事件が発覚したときにその問題を取り上げるだけではなく、日頃から特集記事を組む等、幅広くかつ強力に社会や経営者にコンプライアンス経営の重要性を認識させる必要がある。
  7.    このことは、これまで考察したように、経営トップが昇進・昇格する過程で、社会通念上あまりコンプライアンスを求められず、教育の過程でもコンプライアンス経営が重要だという価値観を形成されなかったことと関係がある。
  8.    メディアは、不祥事が発生した時に表面的・直接的な不祥事の発生原因と被害の程度及び再発防止策を報道するだけでは不十分であり、不祥事の背景や不祥事組織の価値観、不祥事組織における成員の行動や心理の分析等を報道し、社会の価値観としてコンプライアンスを重視すべきことを世論に訴える必要があると思われる。
  9.    そうなれば、環境変化に適応してコンプライアンス経営を実施するという受け身の姿勢ではなく、そもそもの社会的価値としてコンプライアンスが重要だという認識の形成が促される。
     
  10. ② 大学教育
  11.    欧米のビジネススクールではビジネスエシックスやコンプライアンス・CSR関連講座の設置が一般的であるが、我が国では、コンプライアンス・CSR関連講座が少なく、法学部以外の学生は、企業不祥事について詳しい内容や経営学的意味を知らされていない。
  12.    したがって、メディアが高等教育におけるコンプライアンス・CSR経営関連講座が少ないことに光を当てて報道し、それらに関連する講座の設置を促すことも重要である。
  13.    社会人予備軍の学生が、大学でコンプライアンス・CSR経営に関する授業を学ぶことは、コンプライアンスに理解がない経営者が率いる組織に就職しコンプライアンス軽視の価値観に染まる前に、コンプライアンスの重要性を価値観レベルで身につけ、自身と組織をリスクから守る上で重要である。
  14.    コンプライアンス・CSR教育を受けた学生が増加すれば、社会全体としてコンプライアンス・CSRに関する関心が高まり、これを重視するパワーやコンプライアンスを軽視する経営トップにコンプライアンスを求めるパワーが増加することになる。
  15.    また、学生が就職先を選択する際に、しっかりしたコンプライアンス経営の行われている組織を選択することになり、従業員確保の視点からも組織が本気でコンプライアンス経営に取り組むことを促す効果があると思われる。(大学におけるコンプライアンス・CSR教育の重要性については、今後、別途考察する。)

(次回に続く)

 

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