◇SH1706◇実学・企業法務(第122回)法務目線の業界探訪〔Ⅰ〕食品 齋藤憲道(2018/03/15)

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実学・企業法務(第122回)

法務目線の業界探訪〔Ⅰ〕食品

同志社大学法学部

企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

〔Ⅰ〕食品

3. 品質管理、法制度

(1) 食品の品質管理システム

 世界的にHACCP[1]の義務化やグローバル規格の認証取得の要請が強くなっている。

① HACCP  Hazard Analysis and Critical Contorol Pointの略

 HACCPは各国・地域で義務化が進んでいる。

 EUは、1次生産を除く全食品業者に義務付けている(2006年)。

 米国は、全施設にハザード分析を義務付け、重要ハザードがあればHACCPを義務付けている(2016年に食品安全強化法施行。なお、2013年に事実上義務化されている。)[2]

 カナダ・オーストラリア・ニュージーランドでも義務化が進んでいる。

  1. 〔HACCPとは〕
  2.   1960年代に、米国NASAの宇宙食の安全性を確保する管理方法の開発依頼を受けて開発された危害分析重要管理点方式のこと。食品の製造・加工工程のあらゆる段階で、①発生する恐れのある微生物汚染・金属の混入等の危害を予め分析(Hazard Analysis)し、②その結果に基づいて、製造工程のどの段階でどう対策すればより安全な製品が得られるかという重要管理点(Critical Control Point)を定め、③これを連続的に監視して製品の安全を確保する。1960年代に米国の宇宙計画の中で、宇宙食の安全性を高度に保証するため考案された。食品規格(Codex)委員会[3]が発表し、各国に採用を推奨している国際的に認められた管理手法である。
     
  3. 〔HACCP導入のための「7原則、12手順」[4]
  4.   まず、「手順1」から「手順5」までを行って、「手順6 危害要因分析」の準備をする。
  5.   続いて、HACCPの「原則1(即ち、「手順6 危害要因分析」)」から「原則7(=手順12)」を実践する。
  6.    手順 1 HACCPチームの編成
  7.    手順 2 製品説明書[5]の作成 製品の安全の特徴を示す
  8.    手順 3 意図する用途・対象者(消費者)を確認  (例)加熱の有無等
  9.    手順 4 製造工程図の作成  受入~製造~出荷(~食事提供)
  10.    手順 5 製造工程図を現場で確認
  11.    手順 6 【原則1】危害要因(ハザード)分析の実施 原材料、工程、包装等
  12.    手順 7 【原則2】重要管理点(CCP[6])の決定 加熱殺菌、金属探知等
  13.    手順 8 【原則3】管理基準(CL[7])の設定
  14.    手順 9 【原則4】モニタリング[8]方法の設定
  15.    手順10【原則5】不具合があった場合の「改善措置」の設定
  16.    手順11【原則6】検証(定期的に見直す)方法の設定
  17.    手順12【原則7】記録の文書化と保管

 HACCPを実践するための基本プロセスは以上の通りである。

 しかし、これを様々な業界の業務に当てはめて具体的に策定するのは、必ずしも容易ではない。

 そこで、厚生労働省では下記のように各業界に適したHACCP導入の手引を作成し、中小規模の事業者が理解し易い手引を選択できるようにしている。

  1. 【手引の例】
    乳・乳製品編、食肉製品編、清涼飲料水編、水産加工品編、容器包装詰加圧加熱殺菌食品編、
    大量調理施設編、と畜・食鳥肉処理編、食鳥処理・食鳥肉処理編、漬物編、生菓子編、焼菓子編、
    豆腐編、麺類編

 なお、HACCP等の経営管理は、企業が自社の事業現場に適する管理方法を自ら考案して導入することが望まれる。社会・技術・担当者は常に変わるので、形式的に導入した管理方法を維持しても、当初の導入目的を実現できなくなる可能性が大きい。

 ② 民間認証(例)

  1.  •  ISO22000(食品安全マネジメントシステム)
  2.  •  GFSI(国際食品安全イニシアチブ[9])が承認するスキーム
    FSSC22000[10]、SQF[11]、GLOBALG.A.P.(欧州の流通小売の大手企業が設定した取引要件)
  3.  •  JFS(日本の食品安全管理規格)[12]
  4.  •  HALAL[13](ハラ―ルという。イスラム教義に基づいて処理・加工した食品等)
  1. (注) 上記の各認証がカバーする領域の関係(イメージ)は次の通りである。
    FSSC22000 = ISO22000+(ISO/TS22002-1、22002-4)+FSSC独自要求事項
    ISO22000 =〔ISO9001-(設計開発、顧客満足)〕+HACCP)+(一般的衛生管理等、リコール)


[1] Hazard Analysis Critical Control Pointの略。ハサップ。

[2] EC規則852/2004、米国Food Safety Modernization Act(FSMA)。

[3] 国連の国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機構(WHO)の合同機関。

[4] 厚生労働省「食品製造における HACCP入門のための手引書」より。

[5] 原材料・特性をまとめ、危害要因分析の基礎資料とする。レシピ、仕様書等も可。

[6] Critical Control Pointの略。特に厳重に管理する必要があり、かつ危害の発生を防止するために、食品中の危害要因を予防もしくは除去、又は、それを許容できるレベルに低減するために必須な段階。

[7] Critical Limitの略。危害要因を管理する上で許容できるか否かを区別するモニタリング・パラメータの限界。

[8] CCPが管理状態にあるか否かを確認するために行う観察、測定、試験検査。

[9] Global Food Safety Initiativeの略。

[10] Food Safety System Certificationの略。ISO222000に要求事項を追加して構成された食品安全マネジメントシステム。

[11] 1994年に豪州で策定されたSQF(Safe Quality Food)が2003年に米国・食品マーケティング協会(Food Marketing Institute:FMI)に移管され、FMI傘下のSQFインスティテュート(SQFI)が運営している。2004年にSQF(レベル2)がGFSIの承認を受けた。2012年にHACCPに基づく規定に再構築され、一次生産から輸送・流通までの食品の全業種を対象とする保証規定になった。

[12] ①食品安全マネジメントシステム(FSM)、②ハザード制御(HACCP)、③適正製造規範(GMP=Good Manufacturing Practice)の3つの要求事項の層で構成されている。これらは、製造分野の共通項を規定するものであり、特定の法律で製品別に規制される事項については、その管理項目を追加することが求められる。

[13] 国によりハラ―ル認証の条件・手続等の詳細が異なるので、輸入制度の確認が必要。「ハラールマーク」を商品に表示してムスリム向け販売するには、当該国の認証機関・団体(又はその公認を受けた外国認証団体)の認証取得が要る。

 

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