企業法務フロンティア
契約英語の基礎(2)
日比谷パーク法律事務所
弁護士 原 秋 彦
4. 複合副詞や複合関係副詞の多用
4. 1. 複合副詞(前置詞とhere/ thereとの組み合わせの副詞)
- hereto/ thereto(=to this/ to that):
「hereto」は「to this Agreement/ Article/ Paragraph/ document」の意味。また、「thereto」は「to that Agreement/ Article/ Paragraph/ document」の意味。例として、「the parties hereto」(本書当事者ら)、「Appendix ( Addendum; Exhibit) B attached thereto」(当該文書に添付された付属書B)。
-
herein/ therein(=in this/ in that)
- hereunder/ thereunder (=under this/ under that)
例として、「the defined terms herein」(本書における定義された用語)、「the provisions thereunder」(それに基づく規定)。文書全体を指しているのか当該箇所を指しているのかが曖昧な場合には、「herein/hereunder」ではなく「in this Agreement/ under this Agreement」というように、スペルアウトすることが多い。
-
hereafter/ thereafter(=after this/ after that)(以後/その後)
- hereinafter(=in and after this):
例として、「hereinafter referred to as the “Licensor”」(以下、「ライセンサー」という)。先行して定義語を使用した場合には、「the Licensor, as defined below(下記に定義された「ライセンサー」)」及び定義箇所での「herein referred to as the “Licensor”」(本書において、「ライセンサー」という)」となる。
「hereinafter」は文脈的に「以下」、「hereafter」は時系列的に「以後」という用例が普通。
- therefor (=for that):
例として、「the reasons therefor」(それについての理由)。この場合、副詞の「therefore」(それ故;従って)と紛らわしいので注意を要する。
NOW, THEREFORE, the parties hereto hereby mutually agree as follows:(よって、本書当事者らは、本書を以て、相互に以下の通り合意する)
- hereby/ thereby (by this/ by that)(これにより/それにより):
複合副詞は法令や契約書以外の普通の法務文書では生硬過ぎる感があって通常は使われないが、この二つは、「I hereby certify that . . .」(私は本書を以て……であることを証明する)や、分詞構文として「thereby giving rise to a default」(それによって不履行をもたらす)のように比較的多用される。
4. 2. 複合関係副詞 (関係代名詞プラス前置詞)
- wherein (=in which)(そこにおいて):
例えば、何らかの算式(formula)が先行して記載されている場合に「In that formula,」(その算式において、)と書かずに「Wherein,」と書く。
- whereof(=of which):
例として、契約条項本体の直後の「IN WITNESS WHEREOF,」(以上の証として)。これは、契約書の頭書の契約条項本体の直前の「NOW, THEREFORE,」(よって)と対をなす文言。
「IN WITNESS WHEREOF, the parties hereto have caused this Agreement to be executed by their respective duly authorized representatives as of the date first written above.」(以上の証として、本書当事者らは、然るべく授権されたそれぞれの代表者によって本契約書を冒頭掲記の日付で締結させた)
- whereupon (=upon which)(それに引き続き):
議案が提案され、それを受けて承認決議がなされたというような議事録において多用される。
-
whereunder (=under which)(それに基づき)
-
whereby (=by which) (それによって)
- 複合関係副詞とは異なり、契約条項本体には含まれない契約書前文(recital; preamble; whereas clause)における、「Whereas, the Licensor is engaged in the business of . . . ,」(「ライセンサー」は、……の事業に従事しており、」における「whereas」という用語は、「while . . . ,」(……であるところ、)と同義の、従節としての挿入節を導く接続詞。
5. 要件と効果の表現
5. 1. 要件(どういう場合には)の表現
-
in the event that someone will do something(誰かが何かをした場合には)
- in the event someone does something(誰かが何かをした場合には)
お気づきになると思うが、「in the event that」と「that clause」で「event」を修飾する場合には「that clause」が未来形(will)をとることが一般的になってくる一方で、「in the event」と用いる場合には、それが「if」という接続詞と同じような用法になり、結果として現在形になるパターンになる傾向が強い。
- if/ when/ where someone does something(誰かが何かをしたときは)
「when」や「where」を用いるのは、仮定というよりも、いかにもありそうな前提条件の場合が多い。
- in cases where someone fails to do something(誰かが何かをすることを懈怠する場合には)
この場合の「fail to do」は、「何かを失敗する」というような強い意味ではなく、「do not do」という表現とほぼ同じく、単に「何かをしない;何かを怠る」という意味。
-
「Should someone fail to do something」のように「should」を用いた倒置仮定法は、「(あってはならないようなことではあるが)仮に誰かが何かをしたような場合には」という強い仮定を含意している。
5.2.効果(どういう権利・義務の分配になるか)の表現(第3回 6. 参照)
5.3.但し書(proviso)の表現
- 「. . . ; provided, however, that someone shall do something」(但し、誰かが何かをするものとする) この場合に、但し書であることを一目瞭然にする目的で、「however」をイタリック体にしたり下線を引いたりして強調(emphasize)する例が多い。一般英語としての「provided that . . .」(……であることを条件として)との峻別を意図しているものと思われる。