SH4406 意外に深い公益通報者保護法~条文だけではわからない、見落としがちな運用上の留意点~ 第25回 公益通報者の保護(7) 金山貴昭(2023/04/13)

公益通報・腐敗防止・コンプライアンス

意外に深い公益通報者保護法
~条文だけではわからない、見落としがちな運用上の留意点~

第25回 公益通報者の保護(7)

森・濱田松本法律事務所

弁護士 金 山 貴 昭

Q 外部通報の保護要件

 従業員が、内部通報ではなく、処分権限ある行政機関や報道機関などの外部に対して通報した場合について、どのような事情がある場合に、当該通報をした従業員に対して懲戒処分等をすることが禁止されますか。

A

【ポイント】

事業者の外部への公益通報は、通報内容が真実でない場合等には、事業者や従業員等の正当な利益が不当に害される可能性があるため、事業者内部への公益通報に比べ厳しい保護要件が設定されています。特に、報道機関等のその他の事業者外部への公益通報は、このような懸念が強く、また、紛争に至る可能性も考えられるため、その保護要件は一般的な規定ではなく、より具体的な規定が設けられています。

なお、いずれの通報先への公益通報であっても、公益通報者への保護の内容は同じです。

【解説】

1 事業者外部への公益通報の保護要件

 事業者内部への公益通報(内部公益通報)の場合、通報者は、「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する場合」には、公益通報することができ、通報者として保護されます(公益通報者保護法3条1号)。他方で、事業者外部への公益通報(外部公益通報)を行う場合には、「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由」がある場合等、内部公益通報よりも保護されるための要件が厳しく設定されています。これは、内部公益通報に比べ、外部公益通報の場合には、事業者や従業員等の正当な利益が不当に害される可能性があることを背景としています。外部公益通報の中でも、行政機関への公益通報よりも報道機関等のその他の事業者外部への公益通報の場合の方が、上記懸念が強いことから、以下で述べるとおり、その他の事業者外部への公益通報の保護要件は特に厳しく設定されています。

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2 権限を有する行政機関への公益通報に関する保護要件

 権限を有する行政機関への公益通報については、以下の①又は②のいずれかを満たす場合には、公益通報として保護されます。

  1. ⑴ 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があること(法3条2号)
  2. ⑵ 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料しかつ次の事項を記載した書面を提出すること法3条2号)
    1. ① 通報者の氏名又は名称、住所又は居所
    2. ② 通報対象事実の内容
    3. ③ 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する理由
    4. ④ 通報対象事実について法令に基づく措置その他適当な措置がとられるべきと思料する理由

 留意点としては、⑴の「信じるに足りる相当の理由」とは、単なる憶測や伝聞等ではなく、通報内容が真実であることを裏付ける証拠や関係者による信用性の高い供述など、相当の根拠が必要となります。

 なお、に関しては、通報者が役員の場合、通報対象事実が個人の生命・身体、財産保護の急迫な危険がある場合を除いて、通報者である役員が自ら調査・是正に必要な措置(調査是正措置)をとることに努めることも必要となります。また、に関しては、この保護要件は、通報者が役員の場合には適用されませんので、留意が必要です[1]

 

3 報道機関等その他事業者外部への通報に関する保護要件

 報道機関等その他事業者外部への公益通報については、通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり、かつ、のいずれかを満たす場合には、公益通報として保護されます。

  1.  事業者内部又は行政機関に公益通報をすれば、解雇その他不利益な取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由があること(法3条3号イ)
  2.   (例) 過去に従業員が通報したところ、解雇や不利益な取扱いをされたケースがあった場合
  3.  事業者内部に公益通報をすれば、通報対象事実に係る証拠が隠滅され、偽造され、又は変造されるおそれがあると信ずるに足りる相当の理由があること(法3条3号ロ)
  4.   (例) 社内の多数の従業員らが法令違反等の通報対象事実に関与している場合
  5.  事業者内部に公益通報をすれば、事業者が通報者について知り得た事項を、通報者を特定させるものであると知りながら、正当な理由がなくて漏らすと信ずるに足りる相当の理由があること(法3条3号ハ)
  6.   (例) 過去に従業員が通報したところ、通報した事実が社内で拡散されたことがあったにも関わらず、その後、適切な再発防止策がとられていない場合
  7.  事業者から事業者内部又は行政機関に公益通報をしないことを正当な理由がなくて要求されたこと(法3条3号ニ)
  8.   (例) 誰にも言わないように上司から口止めされた場合
  9.  書面により事業者内部に公益通報をした日から20日を経過しても、通報対象事実について、事業者から調査を行う旨の通知がない場合又は事業者が正当な理由がなくて調査を行わないこと(法3条3号ホ)
  10.   (例) 会社に対してメールで通報し他にも関わらず、20日を経過しても担当者から何ら連絡がない場合
  11.  個人の生命若しくは身体に対する危害又は個人の財産(事業を行う場合におけるものを除く。)に対する損害(回復することができない損害又は著しく多数の個人における多額の損害であって、通報対象事実を直接の原因とするものに限る。)が発生し、又は発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由があること(法3条3号ヘ)
  12.   (例) 安全基準を満たさないことを示すデータのある製品が出荷されてしまい、当該製品を使用した消費者の生命・身体に対して被害が発生する急迫した危険がある場合

 なお、⑴ ⑵ に関しては、通報者が役員の場合は、公益通報を行う前に調査是正措置をとることに努めることが必要となります。また、⑶ に関しては、この保護要件は、通報者が役員の場合には適用されませんので、留意が必要です。

以 上



[1] 役員が公益通報者となる場合の留意点については、今後、本連載にて説明予定です。

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(かなやま・たかあき)

弁護士・テキサス州弁護士。2008年東京大学法学部卒業、2010年東京大学法科大学院卒業、2019年テキサス大学オースティン校ロースクール(L.L.M.)修了。2011年弁護士登録(第二東京弁護士会)、2019年テキサス州弁護士会登録。2021年消費者庁制度課(公益通報制度担当)、同参事官(公益通報・協働担当)出向。
消費者庁出向時には、改正公益通報者保護法の指針策定、同法の逐条解説の執筆等に担当官として従事。危機管理案件の経験が豊富で、自動車関連、動物薬関連、食品関連、公共交通機関、一般社団法人等の幅広い業種の危機管理案件を担当。

 

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