SH4427 意外に深い公益通報者保護法~条文だけではわからない、見落としがちな運用上の留意点~ 第29回 社内への教育・周知(1) 金山貴昭(2023/04/27)

公益通報・腐敗防止・コンプライアンス

意外に深い公益通報者保護法
~条文だけではわからない、見落としがちな運用上の留意点~

第29回 社内への教育・周知(1)

森・濱田松本法律事務所

弁護士 金 山 貴 昭

 

Q 役員に関する公益通報者保護法上の留意点

 役員への公益通報者保護法に関する教育・周知についてどのような点に留意すればいいでしょうか。

 

A 【ポイント】

法定指針では、事業者に対し、その従業員や役員に対し公益通報者保護法及び内部公益通報体制について教育・周知を行うことを義務付けており、特に公益通報者保護法上について教育・周知を行う際には、権限を有する行政機関等への公益通報も法において保護されているという点も含めて、法全体の内容を伝えることが求められます。

役員については、行政機関やその他事業者外部に公益通報を行う場合には、労働者や退職者とは保護されるための要件や保護の内容が異なっているため、役員に即した内容の教育・周知が必要となります。

 

【解説】

 公益通報者については、令和2年改正前は労働者のみが公益通報者として保護されていましたが、令和2年改正により役員も公益通報者として保護されることとなりました。役員については、事業者と委任契約を締結していることや会社法上の忠実義務を負うなど、労働者と事業者との関係とは異なる契約上及び法律上の地位にあります。このような違いを踏まえて、公益通報者として保護されるための要件や保護の内容が労働者とは異なっています。

 法定指針では、事業者に対し、その役員に対し公益通報者保護法及び内部公益通報体制について教育・周知を行うことを義務付け、特に公益通報者保護法上について教育・周知を行う際には、権限を有する行政機関等への公益通報も法において保護されているという点も含めて、法全体の内容を伝えることが求められるとしています[1]。そのため、役員への教育・周知にあたっては労働者や退職者との違いを踏まえた教育・周知を行う必要があります。

 

1 「役員」とは

 公益通報者保護法では、「役員」は、「法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事及び清算人並びにこれら以外の者で法令(法律および法律に基づく命令をいう。以下同じ。)の規定に基づき法人の経営に従事しているもの(会計監査人を除く。)をいう」(法2条1項)とされています。公益通報者保護法上に列挙されている以外の役員の例としては会社法591条第1項に規定する業務を執行する社員、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第170条第1項に規定する評議員等が含まれると考えられます。他方で、相談役、顧問、執行役員等は、法令の規定に基づき法人の経営に従事している者とは言えないため、役員には含まれないと考えられます。

 なお、労働者は退職後1年以内は公益通報者として保護されますが、役員の場合は退任後に通報しても公益通報者としては保護されない点には留意が必要です。

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(かなやま・たかあき)

弁護士・テキサス州弁護士。2008年東京大学法学部卒業、2010年東京大学法科大学院卒業、2019年テキサス大学オースティン校ロースクール(L.L.M.)修了。2011年弁護士登録(第二東京弁護士会)、2019年テキサス州弁護士会登録。2021年消費者庁制度課(公益通報制度担当)、同参事官(公益通報・協働担当)出向。
消費者庁出向時には、改正公益通報者保護法の指針策定、同法の逐条解説の執筆等に担当官として従事。危機管理案件の経験が豊富で、自動車関連、動物薬関連、食品関連、公共交通機関、一般社団法人等の幅広い業種の危機管理案件を担当。

 

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