広告表示・勧誘規制に関する試論(再考)
―事業規制手法の多様化と(行政)法理論の観点から―
第4回 広告表示・勧誘規制:各論 (その1)――大麻・覚せい剤・麻薬等における広告規制
弁護士法人キャストグローバル
弁護士 酒 井 俊 和
【第4回】
広告表示・勧誘規制:各論(その1)――大麻・覚せい剤・麻薬等における広告規制
【目次】 1 広告表示・勧誘規制――はじめに [ここまで第1回] 2 広告表示・勧誘規制:総論(その1)――従来の議論 [ここまで第2回] 3 広告表示・勧誘規制:総論(その2)――新たな視点と試論 [ここまで第3回] 4 広告表示・勧誘規制:各論(その1)――麻薬等・覚せい剤・大麻における広告規制 ⑴ 麻薬等取締法・覚醒剤取締法・大麻取締法における広告表示・勧誘規制の内容・特徴 ⑵ 麻薬等取締法・覚醒剤取締法・大麻取締法における広告表示・勧誘規制 |
4 広告表示・勧誘規制:各論(その1)――麻薬等・覚せい剤・大麻における広告規制
⑴ 麻薬等取締法・覚醒剤取締法・大麻取締法における広告表示・勧誘規制の内容・特徴
(a) 規制薬物の規制動向と薬物4法(薬物5法)
薬物の規制は、世界的・歴史的には、社会の安全や風紀を守り、これによる健康被害を防止するという観点から、薬物自体を中心とする規制(薬物の製造、流通など)から始まった。しかしながら、麻薬など規制薬物の不正取引が非合法な活動、犯罪と親和性の高い組織の資金獲得の手段として組織的に行われるのが通常であるのに対し、従来は、不正取引によって得た利益に対しては十分な法的規制が及んでいなかった。
1988年に採択された「麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合規条約」(通称「麻薬新条約」)は、麻薬問題に対して、それまでの薬物自体を中心とする規制ではなく、不正取引による利益の規制に焦点をあて、いわゆるマネー・ローンダリング、不正利益の収受の処罰などにつき、国際的な協力により規制を実現する法的枠組みを創出した。1989年のアルシェ・サミットで設置された金融活動作業部会(FATF)では、麻薬による不正利益のはく奪が先進国の主要な指標とされ、その後同条約は1991年10月に効力を生じるに至った。
日本においては、社会の安全や風紀を守り、これによる健康被害を防止するという観点から薬物自体を中心とする伝統的な規制は、薬物4法と呼ばれる法律により行われている。薬物4法とは、以下の法令をいう。
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- ❶ 麻薬及び向精神薬取締法(以下「麻薬等取締法」という。)
- ❷ 覚醒剤取締法
- ❸ 大麻取締法
- ❹ あへん法
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麻薬新条約の発効やFATFによるマネー・ローンダリング規制の国際的強化に伴い、薬物4法についても一部改正が行われた上、不正利益のはく奪のための措置を中心に規定した(❺)「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」(いわゆる麻薬特例法)の立法が行われ、平成4年7月から施行された。[1]薬物4法に上述の法令❺を加えたものを薬物5法という。
以上のように、規制薬物に関する近年の動向はマネー・ローンダリング規制が中心となっている。しかしながら、本稿は憲法における営業の自由の制約という観点から広告表示・勧誘規制を検討するものであるから、本稿における検討対象は、薬物4法における薬物自体を中心とする伝統的な規制となる。また、本稿の検討対象は広告表示・勧誘規制であることから、薬物4法のうち広告規制の存在する麻薬等取締法、覚醒剤取締法および大麻取締法の3つの法律につき検討を行う。
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(さかい・としかず)
1999年弁護士登録。株式会社東京三菱銀行など複数の国内・外資系の金融機関に出向。金融規制及びコンプライアンス全般、ストラクチャード・ファイナンス、バンキング、信託、アセット・マネジメントなどを専門とする。横浜国立大学大学院国際経済法学研究科卒業。
著作物は『ファイナンス法――金融法の基礎と先端金融取引のエッセンス』(商事法務、2016)など。講演は「パネルディスカッション『世界と国内の規制の最新事情:日本と世界が抱える新たな課題』」(金融規制ジャパン・サミット2017)、「Harmonization of Capital Market」(第54回AIJAミュンヘン国際会議)など。