SH4237 最新実務:スポーツビジネスと企業法務 経産省公表のスポーツDXレポートのポイント 加藤志郎(2022/12/14)

取引法務競争法(独禁法)・下請法特許・商標・意匠・著作権

最新実務:スポーツビジネスと企業法務
経産省公表のスポーツDXレポートのポイント

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 加 藤 志 郎

 

1 スポーツDXレポートの公表

 2022年12月7日、経産省は、スポーツコンテンツ・データビジネスの拡大に向けた権利の在り方研究会(「研究会」)の報告書となるスポーツDXレポート(以下「DXレポート」という。)を公表した[1]

 経済産業省とスポーツ庁が2021年に共同で立ち上げた研究会は、日本におけるスポーツコンテンツ・データビジネスの拡大に向けた議論について有識者による議論を重ねてきており、DXレポートは、海外や日本のスポーツDXビジネスの特徴、日本におけるスポーツDXビジネスの法的論点を整理し、今後の議論に向けた問題提起をすることを目的としている。

 DXレポートは、今後の市場拡大が期待されるビジネス群として、①放送・配信、②データビジネス、③デジタル資産関係をあげている。以下、各分野について、ビジネスの概観と法的論点を中心にDXレポートのポイントをごく簡潔に紹介しつつ、若干の補足を加える[2]

 

2 放送・配信

⑴ ビジネスの概観

 放映権収入は、チケット、スポンサーシップおよびマーチャンダイズと並び、スポーツビジネスにおける重要な収入源の一つである。そして、近年、DXレポートが取り上げる通り、スポーツの映像コンテンツについては、リーグ等自らが運営するOTTでの配信を含め、インターネット配信が広がるほか、媒体もテレビからスマートフォンやタブレット等と多様化しており、また、世界的に放映権料が高騰している。

 その他の世界的なトレンドとして、媒体以外にも、若い世代を中心に、ハイライト視聴や飛ばし見、セカンドスクリーン等、ファンの視聴スタイルの多様化も指摘できるだろう。また、DXレポートも触れているスポーツドキュメンタリーの近年の人気に関しては、新規かつ国際的なファン獲得につながるという観点で積極的に取り組むリーグ・チーム等も増えており、たとえば、Netflixの “Drive to Survive”シリーズが米国で大ヒットしたことにより、米国におけるF1人気は爆発的に上昇している。

⑵ 法的論点

 DXレポートは、スポーツの放映権の日本法上の根拠について従前の議論を改めて整理した上で、実務上は、リーグ・チームや選手の間の規約・契約等により放映権の許諾主体の明確化が可能であることを指摘している。また、無許諾での試合映像の配信等に対して、観戦契約違反や不法行為に基づく請求等の法的に執りうる措置や、許諾を得て撮影された映像の取扱いについても整理を行った上、かかる映像やその放映についてはリーグによる一括管理が収益拡大のために有益な方策であると指摘している。

 スポーツに関わる権利義務や法律関係は、関係者間の合意による私的自治に委ねられている場面も多い。その観点からも、放映権の帰属・許諾を含め、リーグ・チームや選手を含む関係者間での権利関係は、コンテンツの価値の最大化、選手の利益保護、上記で述べた視聴スタイルの変化等のさまざまな要素を考慮しつつ交渉・調整される必要があるだろう。

 

3 データビジネス

⑴ ビジネスの概観

 欧米では、試合結果や選手の成績、プレー内容等に関するさまざまなデータの活用が進んでいる。DXレポートが指摘する通り、これらのデータは、チームや選手自身がパフォーマンス向上や戦術分析のために活用しているほか、メディアやゲーム会社にも積極的に活用されており、さらに、米国での近年の合法化の影響も受けて世界的に盛り上がるスポーツベッティング等のサービスにも欠かせないものとなっている。また、DXレポートは、米国で人気のファンタジースポーツ[3]のサービス・ビジネスモデルについても詳細に取り上げている。

 上記のほか、最近ではデータから選手の負傷の危険度等を測定する取組みなども欧米で活発化している。また、ウェアラブル端末による選手の生体データの取得・活用が拡がる一方で、プライバシー上の懸念や高性能カメラの発達により、生体データに頼り過ぎずにカメラ映像による分析をより精緻化する方向性も検討されている。

⑵ 法的論点

 DXレポートは、データ活用の前提となるデータの法的保護に係る考え方を整理している。具体的には、スポーツデータの種類等に応じて、不正競争防止法、著作権法、個人情報法保護法等の適用につき検討がなされている。また、データを活用したサービスであるファンタジースポーツについては、参加者が運営会社に支払う参加料を原資として勝者に賞金が支払われる場合等について賭博罪の成立可能性や景品表示法・資金決済法の適用について整理しており、スポーツベッティングについては、海外のサービスで日本のスポーツのデータが現に使用されていることに関連する法的論点が検討されている。

 スポーツベッティングについては、日本法上、賭博に該当するところ、DXレポートは、スポーツベッティング自体の日本における合法化の可能性までは踏み込んでおらず、慎重な態度を取っているように思われるが、今後、議論が進む可能性はあるだろう[4][5]

 

4 デジタル資産関係

⑴ ビジネスの概観

 DXレポートは、スポーツコンテンツに関して、ブロックチェーン上で発行される非代替性のデジタルトークンであるNFT(Non-Fungible Token)や、代替性のあるスポーツトークン等、欧米を中心に拡大しているデジタル資産を活用したビジネスにつき現況を整理している。DXレポートが指摘する通り、NFTについては、選手の画像・動画等をNFT化したデジタルコレクティブルが人気であり、公式の二次流通市場を含めて活発な取引がなされており、スポーツトークンについては、さまざまな特典の付与等を通じて、新しいファンエンゲージメントが生み出されている。

スポーツビジネスは、NFTと親和性の高いコンテンツビジネスの代表例である。さらに、NFTは、単に収集品のような「商品」ではなく、Web3.0等の新たな時代のインフラとなりうる「技術」として、さまざまな社会・ビジネス上の課題を解決する可能性があり、その一つには、積年の課題であるチケットの転売問題の解決も期待されるだろう[6]。また、デジタル資産のほか、欧米を中心に、メタバース・仮想空間のスポーツビジネスへの活用も検討が進んでいるところである[7]

⑵ 法的論点

 DXレポートは、日本においてNFTやスポーツトークンを活用したサービスに適用されうる法規制を列挙・整理している。具体的には、有価証券に適用される金融商品取引法上の規制、暗号資産に適用される資金決済法上の規制、為替取引に適用される銀行法・資金決済法上の規制のほか、NFTのランダム型のパッケージ販売に係る賭博罪の成否等について検討がなされている。

 NFTその他のトークンを活用したビジネスについては、これらを直接の対象とする法規制が未整備である中、各業界団体が公表するガイドラインにより一定の整理が図られており、それらの動向には留意する必要がある。また、NFTを活用したマーケティングについては、景品表示法に基づく規制等にも留意が必要である[8]

以 上

 


[2] なお、DXレポートは、上記①~③のほか、これらの横串の法的論点として、最後に肖像権・パブリシティ権についても検討を加えている。

[3] 参加者が実在のスポーツ選手で架空のチームを編成した上で、それらの選手の実際の試合におけるプレー・成績によるスコア化がなされ、そのスコアで他の参加者と競い合うゲームである。

[4] 読売新聞オンライン「【独自】スポーツ賭博の解禁案、経産省が議論へ…八百長や依存症懸念で猛反発は必至」(2022年6月7日)(https://www.yomiuri.co.jp/economy/20220606-OYT1T50221/

[5] スポーツベッティングの合法化を巡る議論の整理について詳しくは、加藤志郎「Call or Fold?―スポーツベッティング合法化を巡る議論の基礎」法学セミナー816号(2022)50-56頁参照

[6] NFTを活用したチケットについて詳しくは、松尾博憲=宮城栄司=加藤志郎「<NFT/Web3 Update>スポーツビジネスにおけるNFT・トークンの活用方法と法的な留意点」長島・大野・常松法律事務所テクノロジー法ニュースレターNo.11(2022年3月)(https://www.noandt.com/publications/publication20220325/

[7] スポーツビジネスへのメタバースの活用と法的留意点について詳しくは、松尾博憲=加藤志郎「<XR/メタバース Update>メタバースとスポーツビジネスの展望と法的な留意点」長島・大野・常松法律事務所テクノロジー法ニュースレターNo.22(2022年6月)(https://www.noandt.com/publications/publication20220628-1/

[8] NFTのランダム型販売に係る賭博罪の成否の解説を含め、NFTのマーケティングに係る法的留意点について詳しくは、本連載「SH4170 NFTのマーケティングの法的留意点――エアドロップやガチャ・パッケージ販売を中心に(1) 加藤志郎/フェルナンデス中島 マリサ(2022/10/20)」、(第2回)SH4183(2022/11/02)、(第3回)SH4203(2022/11/16)および(第4回)SH4219(2022/11/30)参照。

 


(かとう・しろう)

弁護士(日本・カリフォルニア州)。スポーツエージェント、スポンサーシップその他のスポーツビジネス全般、スポーツ仲裁裁判所(CAS)での代理を含む紛争・不祥事調査等、スポーツ法務を広く取り扱う。その他の取扱分野は、ファイナンス、不動産投資等、企業法務全般。

2011年に長島・大野・常松法律事務所に入所、2017年に米国UCLAにてLL.M.を取得、2017年~2018年にロサンゼルスのスポーツエージェンシーにて勤務。日本スポーツ仲裁機構仲裁人・調停人候補者、日本プロ野球選手会公認選手代理人。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

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