証券取引等監視委、株式会社サカイホールディングス株式に係る大量保有報告書等の不提出及び変更報告書の虚偽記載等に係る課徴金納付命令勧告
岩田合同法律事務所
弁護士 新 實 研 人
1 はじめに
証券取引等監視委員会は、株式会社サカイホールディングス株式に係る大量保有報告書及び変更報告書における開示規制の違反(以下「本件違反行為」という。)について、2024年9月10日付で、内閣総理大臣および金融庁長官に対して、金融庁設置法第20条第1項の規定に基づき、課徴金納付命令を発出するよう勧告を行った。
2 大量保有報告書および変更報告書における開示規制の概要[1]
大量保有報告書の提出義務
- 上場している法人の株券等[2]を保有する者は、その株券等の保有割合が5%を超えた場合、その日から5営業日以内に大量保有報告書の提出が必要となる(金融商品取引法(以下「金商法」という。)第27条の23第1項)。
- 株券等の保有割合の計算にあたっては、共同保有者(共同して株券等の取得や議決権の行使をすること等を合意している他の保有者等)の保有株券等の数も加算することとされている(金商法第27条の23第5項・第6項、同法施行令第14条の7)。すなわち、AおよびBが共同保有者である場合、AおよびBそれぞれの株券等保有割合が単体では5%を超えていない場合でも、合算して5%を超える場合には、AおよびBは大量保有報告書を提出しなければならない。また、AおよびBは自身の株券等保有数および株券等保有割合として、単体での数値ではなく合算後の数値を基準としなければならない。
変更報告書の提出義務
大量保有報告書の提出後、株券等保有割合が1%以上増減した場合その他大量保有報告書に記載すべき重要な事項の変更として政令で定める場合、変更の日から5営業日以内に変更報告書の提出が必要となる(金商法第27条の25第1項、同法施行令第14条の7の2)。
罰則および課徴金
大量保有報告書又は変更報告書(以下「大量保有報告書等」という。)に関する罰則・課徴金は以下の通りである。
罰則 | 課徴金 | |
不提出 |
|
課徴金納付命令の対象となる(金商法第172条の7) |
重要な記載につき虚偽の記載があるもの |
|
同上(金商法第172条の8) |
記載すべき重要な事項の記載が欠けている |
― |
同上(金商法第172条の8) |
3 本件違反行為の概要
<前提>
上場会社である株式会社サカイホールディングス(以下「サカイHD」という。)の株主である株式会社サカイ(以下「サカイ」という。)および株式会社サンワ(以下「サンワ」という。)は、サカイHDの株主総会において、株式提案の実施および賛成について共同で株主としての議決権を行使することに合意していたとの評価がなされた。
→ サカイとサンワは、サカイHD発行の株券についての「共同保有者」に該当していた。
<時系列>[3]
R4.10.19 |
|
【サカイ】 【サンワ】 |
R4.12.23 |
本件合意が解消された[5]。 |
【サカイ】 【サンワ】 |
<本件違反行為に係る課徴金>
本件違反行為 | 課徴金 | |
サカイ |
|
10万円[6] |
サンワ |
|
10万円[8] |
4 おわりに
本件違反行為については、サンワおよびサカイが本来的には「共同保有者」に該当するのにもかかわらず、「共同保有者」には該当しない前提で行動していたことが原因である。
自社の株券等保有割合が5%以下である、または5%以上であるが変更がない、という場合であっても、「共同保有者」に認定された場合には、大量保有報告書や変更報告書の提出義務が発生する可能性もあるため、保有株券等に関して「共同保有者」の有無や、「共同保有者」の保有状況は適切に把握する必要がある。
なお、大量保有報告制度における「共同保有者」の範囲の改正等を伴う、「金融商品取引法及び投資信託及び投資法人に関する法律の一部を改正する法律が、2024年5月15日に成立した。
改正の概要は以下の通りであり[9]、「共同保有者」の範囲が明確化されたといえる。「共同保有者」に関する重要な改正であるため、改正に関する情報には十分留意する必要がある。
以 上
[1] より詳細な内容は、財務省関東財務局webサイト(https://lfb.mof.go.jp/kantou/disclo/tairyou/mokuji.htm)が参考となる。
[2] 株券、投資証券、新株予約権証券等が含まれる。詳細は上記webサイト「2.報告書の対象となる株券等の範囲」参照。
[3] 証券取引等監視委員会公表資料およびEDINET上の開示資料から読み取れる範囲での記載である。
[4] サンワによる2024年3月12日付け訂正報告書(https://disclosure2.edinet-fsa.go.jp/WZEK0040.aspx?S100T14V,,)、「【訂正事項】(訂正後)第2【提出者に関する事項】1【提出者(大量保有者)/1】(6)【当該株券等に関する担保契約等重要な契約】」の記載より。
[5] サンワによる2024年3月12日付け変更報告書(https://disclosure2.edinet-fsa.go.jp/WZEK0040.aspx?S100T0ST,,)、「第2【提出者に関する事項】1【提出者(大量保有者)/1】(6)【当該株券等に関する担保契約等重要な契約】」の記載より。
[6] https://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2024/2024/20240910-1/01.pdf
[7] https://disclosure2.edinet-fsa.go.jp/WZEK0040.aspx?S100PTAS,,
[8] 脚注[6]参照
[9] 金融庁「金融商品取引法及び投資信託及び投資法人に関する法律の一部を改正する法律案 説明資料」(2024年3月)(https://www.fsa.go.jp/common/diet/213/01/setsumei.pdf)7頁
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(にいみ・けんと)
岩田合同法律事務所アソシエイト。2018年大阪大学法学部法学科卒業。2019年弁護士登録。ファイナンス、経済法・競争法、ジェネラルコーポレート等の企業法務全般を取り扱う。
岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/
<事務所概要>
1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。
<連絡先>
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証券取引等監視委、株式会社サカイホールディングス株式に係る大量保有報告書等の不提出及び変更報告書の虚偽記載等に係る課徴金納付命令勧告について
https://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2024/2024/20240910-1.html