◇SH2833◇公取委、エディオンに対する課徴金納付命令の一部を取り消す旨の審決(優越的地位の濫用事件) 佐々木智生(2019/10/18)

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公取委、エディオンに対する課徴金納付命令の一部を
取り消す旨の審決(優越的地位の濫用事件)

岩田合同法律事務所

弁護士 佐々木 智 生

 

1.事案の概要

 公正取引委員会(以下「公取委」という。)は、令和元年10月2日、家電量販大手の株式会社エディオン(以下「エディオン」という。)に対し、取引先の従業員を無償で働かせたことが私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)2条9項5号ロ[1]に違反するとして命じた平成24年2月16日付課徴金納付命令の一部を取り消す旨の審決を行った(以下「本審決」という。)。これにより、エディオンに対する課徴金は、40億4796万円から30億3228万円に10億1568万円減額された。

 

2.独占禁止法上の要件等

 独占禁止法2条9項5号ロに規定される優越的地位濫用規制は、以下の3要件から構成される。

  1. ① 優越的地位にあること
  2. ② 継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
  3. ③ 不利益行為が正常な商慣習に照らして不当になされること

 

3.本審決の判断内容

 本審決の論点は複数存在するが、本稿では以下の2点を取り上げる。

(1) 優越的地位(上記①要件)の認定

 本審決は、上記①要件について、「甲が乙に対して優越した地位にあるとは、乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため、甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても、乙がこれを受け入れざるを得ないような場合」をいい、以下の要素を総合考慮して判断するとした。以下の要素は、公取委審判審決平成31年2月22日(以下「山陽マルナカ審決」という。)等においても示されているものである。

  1. ⅰ 乙の甲に対する取引依存度
  2. ⅱ 甲の市場における地位
  3. ⅲ 乙にとっての取引先変更の可能性
  4. ⅳ その他甲と取引することの必要性、重要性を示す具体的事実
  5. (+乙が甲による不利益行為を受け入れている事実が認められる場合、これを受け入れるに至った経緯や態様等)

 本審決において、公取委は、上記の判断要素を考慮して、エディオンが継続して取引をする相手方である127社のうち、92社との関係でエディオンの優越的地位を認めた。

 他方で公取委は、35社との関係ではエディオンの優越的地位を否定したため、かかる35社との関係では、独占禁止法2条9項5号ロに対する違反が認められず、課徴金が10億1568万円減額される結果となった。

(2) 従業員等派遣(上記②要件)の認定

 本審決では、上記②要件に関して、エディオンが取引先に対し、従業員を派遣させる等労務を提供させる行為が問題となった。

 小売業者とその商品の納入業者との間では、小売業者が、新規店舗の開設、既存店舗の改装及びこれらの店舗での開店セール等の際に、納入業者に対して、その従業員等を無償で派遣させて、商品を他の陳列棚から移動させたり、接客作業等を行わせたりすること(以下「従業員等派遣」という。)がある。

 公取委は、従業員等派遣は、原則として上記②要件を充足するものの、例外的に以下の例外事由①又は②を充たせば、上記②要件を充足しないと判断した。

  1. 例外事由①:
  2.   従業員等の業務内容、労働時間及び派遣期間等の派遣の条件について、あらかじめ相手方と合意し、かつ、派遣される従業員等の人件費、交通費及び宿泊費等の派遣のために通常必要な費用を買主が負担する場合
  3. 例外事由②:
  4.   従業員等が自社の納入商品のみの販売業務に従事するものなどであって、従業員等の派遣による相手方の負担が従業員等の派遣を通じて相手方が得ることとなる直接の利益等を勘案して合理的な範囲内のものであり、相手方の同意の上で行われる場合

 公取委は、本審決を含めて、山陽マルナカ審決等複数の事件において、かかる従業員等派遣の事実を認定した上で違法と評価している。そして、上記判断枠組みは、山陽マルナカ審決等と共通しており、公取委が従来から示してきた考え方と軌を一にする(末尾の公正取引委員会作成の資料参照)。

 他方で、本審決は、例外事由①及び例外事由②に関して具体的な認定を行った点、及び商品の特性上格別の販売促進の効果を生じさせる場合(具体的には以下のⅰからⅲを充たす場合)には、例外事由②を充足すると判断した点で注目に値する。

  1. ⅰ 商品について熟知している納入業者の派遣する従業員等が、その技術や知識等を活用して当該
    商品の展示、装飾を行うことを通じて、当該商品の特有の魅力が発揮され、小売業者の従業員に
    おいてこれを行う場合との比較において、明らかに差異を生じるような特性を有する商品について
  2. ⅱ 納入業者の派遣する従業員等による当該商品の展示、装飾が、その商品特有の魅力を演出する
    ために行われるものであり
  3. ⅲ 小売業者の従業員において、そのような商品の展示、装飾をすることができない

 もっとも、上記ⅰからⅲの要件を充たすケースは必ずしも多くないのではないかと思われ、実際、本審決において、取引先127社のうち、商品の特性上格別の販売促進の効果を生じさせるため例外事由②に該当すると判断されたのは、僅か3社であった[2]

 そうだとすれば、本審決以降においても、従前どおり例外事由②を充たすハードルは高いと考えられ、実務上、従業員等派遣を行う場合には例外事由①を充たす形で行うことが安全である。

 なお、例外事由①における「人件費」については、当該派遣従業員の給与や業務の内容に見合った適正な水準でなければならないと解されている点に留意が必要である。

出典:公正取引委員会「優越的地位の濫用~知っておきたい取引ルール~」7頁



[1] 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成21年法律第51号)の施行日である平成22年1月1日前においては平成21年公正取引委員会告示第18号による改正前の不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)14項

[2] かかる3社は、エディオンの優越的地位が否定された35社に含まれている。

 

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