◇SH0970◇国交省、改正宅地建物取引業法の施行に向けた考え方を提言 大櫛健一(2017/01/17)

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国交省、改正宅地建物取引業法の施行に向けた考え方を提言

岩田合同法律事務所

弁護士 大 櫛 健 一

 

 国土交通省は、平成28年12月28日、建物状況調査(いわゆるインスペクション。以下単に「インスペクション」という。)の活用等を内容とする同年6月の宅地建物取引業法の改正(以下改正後の同法を「改正法」という。)を受け、社会資本整備審議会産業分科会不動産部会において取りまとめられた「改正宅地建物取引業法の施行に向けて」(以下「本取りまとめ」という。)の概要を公表した。

 本取りまとめの概要は下図のとおりであるが、本項においては、下図1から3の点を中心に解説する。 

 改正法は、宅地建物取引業者に対して、 [A] 媒介契約の締結時にインスペクションを実施する者のあっせんに関する事項を記載した書面を依頼者へ交付すること(改正法34条の2第1項4号)や、[B] 建物の買主等に対してインスペクションの結果の概要等を重要事項として説明すること(改正法35条1項6号の2)等を義務付けている。

 本取りまとめにおいては、インスペクションを、「売主・買主が安心して建物の取引の判断が行えるよう、建物の構造耐久力上主要な部分や雨水の侵入を防止する部分について、その状況を客観的に調査するもの」として位置付けた上で(本取りまとめⅠ.1)、インスペクションの①実施主体、②対象部位及び方法、並びに、③重要事項説明等に関し、既存住宅売買瑕疵保険[1]の加入を促進し、国土交通省が平成25年に定めた「既存住宅インスペクション・ガイドライン」[2](以下「既存ガイドライン」という。)に沿ったものとすべく、以下のような考え方が示された。

 まず、①実施主体は、一定の講習を修了した建築士を原則としながらも、取引に利害関係を有する者は、売主・買主の双方の同意がある場合を除き、適当ではないとされた(本取りまとめⅠ.2)。現在、約18,000人の建築士が、既存ガイドラインに基づくインスペクションの講習を受け、インスペクターとして登録しており、改正法における実施主体も同様の水準になることが予想される。

 次に、②対象部位及び方法は、既存住宅売買瑕疵保険に加入する際に行われる現場検査(以下「瑕疵保険現場検査」という。)の要件を満たすように、既存ガイドラインを踏まえつつ既存住宅売買瑕疵保険の対象部位(基礎、壁及び柱等)及び方法と同様のものとすることが適当とされた(本取りまとめⅠ.1)。

 最後に、③重要事項説明の対象となるインスペクションについては、既存住宅売買瑕疵保険においては、瑕疵保険現場検査の実施から1年以内の住宅を保険引受けの対象としていることから、実施後1年以内の直近のインスペクション(すなわち、瑕疵保険現場検査として認められるもの)を対象とすることが適当とされた。但し、対象とならないインスペクションによって劣化事象が確認されている場合など、取引の判断に重要な影響を及ぼすインスペクションが別途認識されている際には、当該インスペクションについても買主等に説明することが適当であるとされた(本取りまとめⅡ.2(2))。

 また、説明事項であるインスペクションの結果の概要は、既存ガイドラインに基づく検査結果の概要と同様とすることが適当とされた(本取りまとめⅡ.2(1))。

 

 以上のとおり、本取りまとめの内容は、基本的に既存ガイドラインに沿ったものとされており、インスペクションの実務が大きく変更されることはないものと予想される。

 国土交通省は、本取りまとめに基づき、関係省令及び改正法の内容に係るQ&Aの整備等といった必要な取組みを実施する旨を公表しており、上記の考え方が、今後、どのようにルール化されていくかについては、引き続き、注意を要しよう。

以 上



[1] 中古住宅の検査と保証がセットになった保険制度であり、住宅専門の保険会社(住宅瑕疵担保責任保険法人)が保険を引き受ける。
  https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/jutaku-kentiku.files/kashitanpocorner/03-consumer-files/05-oldhouse-insurrance.html

[2] 具体的な内容については国土交通省の公表に係る「『既存住宅インスペクション・ガイドライン』の策定について」を参照されたい。
  http://www.mlit.go.jp/report/press/house04_hh_000464.html

 

 

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