◇SH0443◇内閣官房、「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の概要(暫定版)」発表 唐澤 新(2015/10/13)

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内閣官房、「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の概要(暫定版)」発表

岩田合同法律事務所

弁護士 唐 澤   新

 

 アメリカ南部のアトランタで行われたTPP(環太平洋パートナーシップ)の閣僚会合は日本時間5日夜、共同記者会見を開き、交渉は大筋合意したと発表した。

 TPPは、モノの関税・非関税障壁を撤廃するだけでなく、サービス、投資の自由化を進め、さらには知的財産、電子商取引、国有企業の規律、環境など、幅広い分野で21世紀型のルールを構築することで、アジア太平洋地域におけるヒト・モノ・資本・情報の往来を自由化し、オープンな貿易と地域統合を目指すものである。現時点ではあくまで「大筋合意」であって詰めの議論はこれからでもあるが、TPPは、わが国の経済及び法制度に大きなインパクトを与えるものであることから、法制度への影響という観点からの「みどころ」として、「知的財産」及び「サービス」の分野について、現時点での情報を元にご紹介したい。

1「知的財産」について

 我が国の法制度に対する影響という点からは、著作権に関する内容が重要である。まず、著作権の保護期間が、我が国の現行法における「著作者の死後50年」(著作権法51条2項)から、TPPにより、少なくとも70年の保護期間へと変更される。また、現行法では、著作権侵害に関する刑事罰は、親告罪であり告訴がなければ公訴提起されないが(著作権法123条)、TPPにより、故意による商業的規模の著作物の違法な複製等は非親告罪とされることになる。同人誌などアニメや漫画などについて二次創作が広く行われている現状に鑑み、著作権侵害に関する刑事罰を非親告罪化することについては、かかる表現活動に対する委縮となるとして作家や有識者の一部から懸念が示されているが、他方で、クールジャパンを推し進める上ではコンテンツ保護は不可欠であり、インターネット上での不正アップロード、ダウンロードや海賊版DVDへの対策に資するものであるといえる。

 さらに、著作権の侵害について、民事訴訟において損害賠償請求訴訟として争われた場合に、法定損害賠償制度又は追加的損害賠償制度が設けられることになる。現行法では、訴訟において著作権者が著作権侵害の事実を立証するだけではなく、それによって生じた損害がいくらであるかということについて立証しなければ損害賠償を得ることはできないが、特にインターネットを通した著作権侵害においては損害額の算定が困難なケースが少なくなかった。しかし、法定損害賠償制度の導入により著作権者は損害額を立証することなく、一定額の損害賠償を得られることになることから、今後は、著作権侵害に対する著作権者の対応にも変化が生じることが予測される。

 TPPにおける知的財産に関する規定は、概ね権利者の保護を強化する内容である。我が国の知的財産権の使用料に関する収支は、ここ数年大幅なプラスであり、したがって、知的財産の保護の必要性が今後益々高くなることは明らかである。


2「サービス」について

 次に、「サービス」については、サービス業の市場開放を進めるルールが規定され、特に、外国資本の企業への制限が多い東南アジア諸国で規制緩和が進められ、日本企業が進出しやすい環境が整うこととなった。例えば、産業界からの主要関心分野であったコンビニを含む流通業における外資規制について、ベトナムにおいては、 TPP発効後5年の猶予期間を経た後、小売流通業の出店について、現行の出店地域の店舗数や当該地域の規模等に基づく出店審査制度が廃止され自由に出店ができるようになる。またマレーシアにおいては、コンビニへの外資出資が禁止されていたが、 30%を上限としてこれが認められるようになる。金融サービスについては、ベトナムでは、地場銀行への外資出資比率規制が現行の15%から20%に緩和され、マレーシアにおいては、外国銀行の支店数の上限が8支店から16 支店に拡大され、店舗外の新規ATM設置制限が原則として撤廃される。

 現時点におけるTPPをめぐる交渉はまだ「大筋合意」の段階であり、今後は、各国において条約の批准に向け、審議がなされることになるが、TPPの内容は多岐にわたり国内の利害関係も複雑であることから、困難な道程が予測される。その動向には、大いに注目していく必要があろう。

 

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