◇SH0429◇厚労省、男女雇用機会均等法第30条に基づく初の公表 藤原宇基(2015/09/18)

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厚労省、男女雇用機会均等法第30条に基づく初の公表

岩田合同法律事務所

弁護士 藤 原 宇 基

 本件は、茨城県牛久市所在の「医療法人医心会 牛久皮膚科医院」(安良岡勇理事長)が、妊娠を理由に女性労働者を解雇し、解雇を撤回しなかった(男女雇用機会均等法(以下「均等法」)9条3項違反)として、同法30条に基づき公表されたという事案である。

 公表事項は、①事業者名、②代表者、③違反条項、④法違反に係る事実、⑤指導経緯である。④法違反に係る事実については厚生労働省の公表事項には具体的に記載されていないが、報道によれば、同医院理事長が、妊娠を報告した20歳代の看護助手の女性に対して、「妊婦は要らない。明日から来なくていい」と告げて、同女性を解雇し、その後の労働局及び厚生労働大臣からの指導等にも従わず解雇を撤回しようとしなかったため、公表処分に至ったとのことである(YOMIURI ONLINE 平成27年9月4日)。

 均等法は、事業主が、①性別を理由とする差別の禁止(募集、採用、配置等。実質的に性別を理由とする差別となるおそれがある措置を含む。同法5条、6条、7条)、②婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止(同法9条)、③職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置義務(同法11条)、④妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置義務(同法12条、13条)の定めに違反し、厚生労働大臣の是正勧告にも従わない場合、これを公表することができるとしている(同法39条)。

 ただし、公表に至るまでは、都道府県労働局長による是正指導等及び厚生労働大臣による是正勧告が繰り返されることもあって、平成11年の均等法改正により公表制度が設けられてからこれまで実際に公表に至る事案はなかった。

 しかし、近年、女性の社会進出が進む中でセクハラ(セクシュアルハラスメント)・マタハラ(マタニティハラスメント)の問題が多数生じるようになり、行政機関への労働相談や事業主との紛争が増加している(厚生労働省「平成25年度 都道府県労働局雇用均等室での法施行状況の公表」 http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000047140.html 、マタハラに関する最高裁判決(最一小判平成26年10月23日)http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=84577)。

 また、女性の社会進出を進める安倍政権では、首相自身が、在日米国商工会議所などが開いた会合において、マタハラについて「不利益な取り扱いは根絶しなければならない。法的措置を含め企業の取り組み強化策を進める。」と述べ(日本経済新聞 平成27年6月29日)、また、内閣に設置され首相が本部長を務める「すべての女性が輝く社会づくり本部」が策定した「女性活躍加速のための重点方針 2015」(平成27年6月26日付)が、マタハラの防止に向けて次期通常国会における法的対応も含めた取組強化を行うと述べているように、マタハラの防止に非常に力を入れている。

 これらを受けて、厚生労働省においても、マタハラへの対応を厳しくし、今回、初めての公表に至ったものと思われる。

 このように、今後、マタハラに対する行政指導等は厳しくなると思われるが、さらに、マタハラを受けた女性労働者が行政機関に申告し、マタハラの認定を受けたうえで、企業に対して民事訴訟を提起することが考えられる。

 企業としては、行政指導や公表のリスクはもちろんのこと、従業員からマタハラを理由として民事訴訟を起こされるリスクも考慮したうえで、マタハラに対する事前予防、事後措置を適切に行わなければならない。

 特に、本件で違反事項として挙げられている不利益取扱い(均等法9条)については、これに当たる場合を適切に把握しておく必要がある。

 本件では、妊娠を理由とした解雇であることが明らかであるが、妊娠中や出産後の女性に対して、降格、解雇等の不利益な取扱いをする場合には、それが妊娠や出産を理由としたものでないことを十分に確認したうえで行わなければならない。

 すなわち、妊娠中の女性労働者及び出産後1年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は原則として無効とされ、例外的に事業主が解雇が妊娠、出産を理由としたものではないことを証明したときは有効となる(同条4項)とされている。また、妊娠中の女性労働者を軽易業務に転換する際に降格することも原則として不利益取扱いに当たり無効とされ、例外的に、労働者の自由な意思に基づく承諾がある場合、又は、降格の措置を取らざるを得ない特段の事情がある場合に限り有効となる(前掲最高裁判決)とされている。

 したがって、企業としては、この原則と例外の関係に留意する必要がある。

 なお、育児介護休業法においても、育児介護休業の申し出、取得を理由とした不利益取扱いは禁じられており(同法10条、16条)、その違反に対する是正勧告に従わない場合の公表制度(同法56条の2)が定められているため、均等法と同様に留意する必要がある。

 

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