◇SH1625◇ISS、2018年版 日本向け議決権行使助言基準を公表 山田康平(2018/02/05)

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ISS、2018年版 日本向け議決権行使助言基準を公表

岩田合同法律事務所

弁護士 山 田 康 平

 

 Institutional Shareholder Services Inc.(以下「ISS」という。)は、本年2月1日付で施行された、「2018年版 日本向け議決権行使助言基準」(以下「本基準」という。)を公表した。ISSは、これに先立って、昨年10月26日、2018年版の日本向けの議決権行使助言方針(ポリシー)の改定案を公表しており[1]、本基準は同改定案の内容が反映された形となっている。昨年の5月の「日本版スチュワードシップ・コード」の改訂版の公表を受け、これまで以上に議決権行使助言会社の動向が注目されていることを踏まえ、改めて本基準における主な改定点について説明する。

 

1. 取締役会構成基準の厳格化(2019年導入予定)

 本基準では、2019年2月より、指名委員会等設置会社及び監査等委員会設置会社において、株主総会後の取締役会に占める社外取締役(独立性を問わない。)の割合が3分の1未満である場合、経営トップである取締役(通常、社長及び会長を指す。)の取締役選任議案に反対を推奨することが追加された。かかる改定は、①委員会型の機関設計を採用することは、経営者が監督と経営の分離を目指す意思と解釈できるため、監査役(会)設置会社よりも多くの社外取締役の選任を求めることが合理的であること、②コーポレートガバナンス・コードにおいても、取締役の3分の1以上を独立社外取締役とすることについての言及がなされている(原則4-8)ことを理由とするものである。

 取締役会構成基準に係る改定のポイントとして、まず、監査役(会)設置会社は対象外であることが挙げられる。それでも、ISSによれば、本基準の影響を受ける会社、すなわち、委員会型の機関設計を採用している会社は上場会社の25%(2017年12月現在)に及んでおり、監査等委員会設置会社のうち取締役会に占める社外取締役の割合が3分の1未満の会社は52.6%(2017年8月現在)に上るとのことである。したがって、本基準が実務に与える影響は大きいと思われる。また、平成26年改正会社法の施行以降、監査等委員会設置会社への移行を志向する会社は、一通り移行を完了したとみられ、現在、新たに委員会型の機関設計への移行を検討している会社は少数にとどまるものと思われるが、本基準はかかる移行の動きをさらに鈍化させる可能性がある。

 次に、社外取締役に独立性は求められていないことが挙げられる。独立性は重要であるものの、独立性をも求めた場合、企業が、候補者の資質ではなく独立性の確保にばかり注力し、弁護士・会計士・学識経験者など、経営者としての経験の少ない人物ばかりが社外取締役候補となることにつながり得るためである。

 最後に、取締役会構成基準の厳格化に係る改定内容は2019年2月まで施行されないことが挙げられる。企業が適切な社外取締役を選任するための十分な時間を確保するためである。

 

2. 買収防衛策の総継続期間要件の導入

 本基準では、買収防衛策議案に関する形式審査の評価要素として、買収防衛策の「総継続期間」が3年以内であることが追加された。「総継続期間」とは、買収防衛策の導入時点から、当該総会で提案されている買収防衛策の有効期間終了までの合計期間を指す。

 実務上、既に導入されている買収防衛策については、その有効期間を3年と設定している企業が多いため、買収防衛策を更新する場合の大半は、上記基準に抵触することになろう。

 また、本基準からは直ちには明らかでないものの、ISSは、「総継続期間」について、買収防衛策を再導入した場合も含めて合計3年以内とすべきであると考えているようである(2017年12月4日付日経新聞電子版)ため、実務上、買収防衛策を再導入する場合も上記基準に抵触することが多いであろう。

 もともとISSが買収防衛策議案に賛成推奨することは稀であるから、本基準の実務に与える影響は大きくないと考えられる。もっとも、近年は、国内機関投資家の議決権行使基準の厳格化等に伴い、買収防衛策議案への賛成比率が一般に低下しているため[2]、本基準は、買収防衛策の更新議案の付議を見送る流れを促進すると推測される。

 

主な改定点

内容

実務上のポイント

  1. ① 取締役会構成基準の厳格化

指名委員会等設置会社及び監査等委員会設置会社において、取締役会に占める社外取締役の割合を3分の1以上とすることを求める。

  1. ・ 監査役(会)設置会社は対象外である。
  2. ・ 社外取締役に独立性は求められていない。
  3. ・ 2019年2月まで施行されない。
  1. ② 買収防衛策の総継続期間要件の導入

買収防衛策の総継続期間が3年以内であることを求める。

  1. ・ 従前同様、ISSからは反対推奨される可能性が高い。

以 上



[1] 当サイトトピックス解説における当時の解説記事として、伊藤広樹「ISS、議決権行使助言方針(ポリシー)改定に関するオープンコメントの募集を開始」(https://www.shojihomu-portal.jp/article?articleId=4800125)を参照。

[2] 茂木美樹=谷野耕司「敵対的買収防衛策の導入状況―2017年6月総会を踏まえて―」商事2152号(2017)35頁。

 

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