◇SH1743◇法務省、 「民法の一部を改正する法律(債権法改正)について」を更新(ポスター・パンフレットを掲載) 柏木健佑(2018/04/04)

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法務省、 「民法の一部を改正する法律(債権法改正)について」を更新(ポスター・パンフレットを掲載)

岩田合同法律事務所

弁護士 柏 木 健 佑

 

1 改正施行日

 平成29年5月26日、「民法の一部を改正する法律」(平成29年法律第44号)(以下「民法改正法」)が成立し、同年6月2日に公布されたことは、企業法務に携わる関係者にとっては記憶に新しいところと思われる。民法改正法の施行は公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日とされていた(民法改正法附則第1条)が、その後、同年12月に「民法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」(平成29年政令第309号)の公布により、一部の規定を除いて平成32年(2020年)4月1日から施行と定められた[1]

 民法改正法による今般の改正は、民法の債権関係の規定の改正としては約120年間ぶりの大改正であり、国民の社会生活への影響に鑑みて長めの準備期間がとられたものの、この4月で、施行までの期間は2年を切ることとなる。3月には立法担当官による民法改正に関する解説(筒井健夫・村松秀樹編著『一問一答 民法(債権関係)改正』(商事法務、2018))も刊行され、各関係者による準備も加速していくことが想定される。本稿では、このタイミングで、改めて、民法改正法の施行までに必要となる準備事項を整理する観点から解説したい。

 

2 要対応事項の洗い出し

 民法改正法による改正点は多岐にわたり、企業活動への影響も、各社の行う事業の内容によって様々に異なり得る。したがって、民法改正法による改正への対応の第一歩は、各社の事業内容に応じた要対応事項を洗い出すことにある。

 そのためには、民法改正法による改正点を網羅的に理解した上で各社の事業内容への影響を検討する必要があるが、多岐にわたる改正点から事業内容への影響のありそうな内容を拾い出すこと自体、決して容易ではない。

 そのような洗い出しに当たって有用と思われる観点として、実質改正の有無の観点からの改正事項の分類があり得る。すなわち、民法改正法による改正事項は数多あるが、それらは、①実質改正を含む改正事項(現行法・判例法理を変更し、又は現行法に存在しなかった規定を創設するもの)、②実質改正を含まない改正事項(既存の判例法理や通説的な学説の内容を明文化した改正や形式的・技術的修正を加えるにとどまる改正)に分類できる。実務に対する影響が大きいのは①の類型の実質改正を含む改正事項であるが、そのような改正事項が今般の改正全体に占める割合は、実際にはそれほど多くはない。もちろん、②の類型における改正も、実際に実質改正の趣旨を含まないのかが論点となり得る改正もあり得るから、民法改正法の施行後も含めて議論の行方に注視が必要であることは言うまでもないが、さしあたり、①の類型の改正事項を中心に各企業の事業内容に応じた対応事項を検討することが考えられる。

 そこで、民法改正法による改正点から要対応事項を把握するにあたっては、まずは、それぞれの改正点が実質改正を含む改正事項なのか、実質改正を含まない改正事項なのかを意識しながら改正点を把握することが望ましい。

 

3 実質改正を含む改正事項・含まない改正事項の例

 実質改正を含む改正事項が全体から見ると多くはないとはいえ、その内容は幅広く、本稿でそのすべてを扱うことはできない。特に企業法務との関係で実務に大きな影響を与え得る代表的な改正事項について、以下の表に例示したので参考にされたい。また、実質改正を含まない改正事項についても代表的なものを例に挙げているので、併せて参考にされたい。

 

① 実質改正を含む改正事項
改正事項 概要
短期消滅時効の廃止・時効期間の修正 職業別の短期消滅時効の特例(現行法170条~174条)を廃止し、消滅時効期間を主観的起算点から5年・客観的起算点から10年に修正(改正法166条1項)。商事消滅時効の廃止
法定利率の見直し 法定利率を年3%に引き下げ、変動制を導入(改正法404条)
保証意思確認手続の創設 事業用融資の保証人になろうとする個人について、公証人による保証意思確認手続を創設(改正法465条の6以下)
定型約款規定の創設 不特定多数の者を相手方とする定型的な取引に使用される約款を用いた取引に関して、約款の効力・変更の手続等の規定を創設(改正法548条の2~548条の4)
譲渡禁止特約に反する債権譲渡の効力 現行法上の通説・判例は譲渡禁止特約に反する債権譲渡を原則無効と解していたが、改正法により原則有効とされた(改正法466条2項)
② 実質改正を含まない改正事項
改正事項 概要
意思能力者の法律行為の無効 従来認められていた内容を明文化したもの(改正法3条の2)
時効の完成猶予又は更新 時効の中断及び停止を「更新」「完成猶予」としているが、実質的なルールには大きな変更はない(改正法147条~161条)。
将来債権の譲渡 判例法理上認められていた内容を明文化したもの(改正法466条の6)
契約上の地位の移転 これまで解釈により認められてきた契約上の地位の移転について、明文化したもの(改正法539条の2)

 

4 今後の改正対応

 上記2で述べたような要対応事項の洗い出しが完了しても、当然のことながら改正対応はそれで完了するわけではない。契約書書式の見直しや社内の管理体制の変更等、具体的な対応方針に落とし込んだ上で、決定した対応方針を社内に周知して運用を円滑に進めることまで含めて対応が必要となる。そこでは、改正事項への理解とともに、実務への影響を見極めるための実務感覚も求められることになるだろう。関連書籍の参照や弁護士への相談といったツールも活用しながら残り2年の準備期間で十分な対応を行う必要がある。

以上



[1] 保証(公証人による保証意思確認手続の創設関係)(民法改正法附則21条2項・3項)については平成32年(2020年)3月1日、定型約款の規定の経過措置((民法改正法附則33条3項)については平成30年4月1日が施行日とされている。

 

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