◇SH2068◇総務省、株式会社NTTドコモによる携帯電話不正利用防止法違反に係る是正命令 佐々木智生(2018/09/05)

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総務省、株式会社NTTドコモによる携帯電話不正利用防止法違反に係る是正命令

岩田合同法律事務所

弁護士 佐々木 智 生

 

1. 事案の概要

 株式会社NTTドコモ(以下「NTTドコモ」という。)は、携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律(以下「携帯電話不正利用防止法」という。)3条1項及び2項に違反したとして、総務省から平成30年8月28日付けで是正命令(以下「本件是正命令」という。)を受けた。平成26年3月から平成27年4月までの間に、計336件の契約の締結に際し、NTTドコモが契約者及び代理人の本人確認を携帯電話不正利用防止法に規定する方法で行わなかったこと等が、携帯電話不正利用防止法3条1項及び2項に違反したと判断されたものである。

    

2. 携帯電話不正利用防止法の目的

 平成15年5月頃以降急増した、いわゆる振り込め詐欺には、契約者を特定できない携帯電話が利用されることが多いことから、このような携帯電話を排除するため、平成17年4月、携帯電話不正利用防止法が制定されている。

 携帯電話不正利用防止法は、携帯電話の契約時及び譲渡時の本人確認を義務付け、相手方の氏名及び連絡先を確認しないで携帯電話を業として有償で貸与する行為等を処罰することで、契約者を特定できない携帯電話の発生や流通をなくし、振り込め詐欺等の犯罪に携帯電話が利用されることを防止することを目的としている。

 

3. 携帯電話不正利用防止法が携帯電話事業者に対して要求する本人確認

 携帯電話不正利用防止法は、携帯電話事業者に対して、公的機関の発行した証明書により、契約の相手方の本人特定事項(自然人であれば、氏名、住居及び生年月日、法人であれば、名称及び本店又は主たる事務所の所在地)を確認することを求めている。具体的な本人確認の方法は以下のとおり(総務省の携帯電話不正利用防止法のパンフレットより引用)である。

 

4. 本件是正命令について

 総務省の公表資料では、本件の具体的な事実関係は必ずしも明確ではないが、NHK等の報道によれば、NTTドコモの元社員(懲戒解雇済み)が、別の契約で提出を受けた書類(会社の登記簿謄本や免許証のコピー等)を本人の同意を得ずに、携帯電話の申込みに転用して架空の契約を締結していたとのことである。報道によれば、元社員は、不正に入手した端末を、中古取扱事業者に転売していたとのことである。

 携帯電話不正利用防止法3条1項及び2項は、NTTドコモ等の携帯音声通信事業者に対して、契約者との間で、役務提供契約を締結するに際して、運転免許証の提示を受ける方法その他の総務省令で定める方法により、本人確認を行うことを義務付けている。この点、報道内容を前提とする限り、本件は、携帯電話の申込みに係る契約とは別個の契約のために提供を受けていた公的証明書等を流用した事案であり、携帯電話に係る契約を締結するに際して、本人の意思に基づいて公的証明書の提示を受けていなかったことが、携帯電話不正利用防止法3条1項及び2項に反すると判断された可能性が高い。

 本件は、元社員が端末を不正に入手し、転売する一環として公的証明書等が流用された事案であり、携帯電話不正利用防止法において想定されていたような単に本人確認を行わなかった事案とは異なることから、携帯電話不正利用防止法違反を理由とする是正命令は意外との見方もあるかもしれない。もっとも、本件のような端末の不正な入手、転売といった手法は、携帯電話不正利用防止法が防止しようとする振り込め詐欺等の犯罪に携帯電話が利用される事態の発生に容易につながり得るものであったと言える(なお、報道によれば本件においては転売された端末の犯罪行為への利用は確認されていないとのことである。)。総務省としては、かかる不正行為が1年以上にわたって300件以上も発生したことを重く見て、契約管理におけるガバナンスが欠如していると判断したのではないだろうか。監督官庁による処分は事業者にとって重い意味を持つだけに、本件是正命令は、事業者が契約プロセスの見直し等を行うことにより、同様の事態の発生が防止される効果を期待して行われたとも推察されるところである。

以 上

 

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